第三百七十一話 十神者


 「あおあおぉぉぉん!」

 「なんだ!?」

 「ひゃあ!?」


 外からシュナイダーの遠吠えが響き、慌てて飛び起きて窓の外を見るとダーシャちゃんを乗せたシュナイダーがこちらを見上げて吠えていた。びっくりして起きたマキナもやってきて喋り出す。


 「なんだろ? 何か焦っている感じがしない?」

 「ああ。俺はこのまま外に出るから、マキナはファスさんとディビットさんに声をかけてくれ」

 「うん!」


 俺は壁に立てかけてあった剣と上着を手に取るとそのままレビテーションで地上に降りると、シュナイダーがズボンを引っ張ってくる。


 「村の入り口が騒がしい……あっちか?」

 「うおん!」

 「おにいちゃん、バスレーおねえちゃんが向こうに居るよ!」

 「分かった。ダーシャちゃんは家の中に入っているんだよ」

 「わかったー!」


 俺はダーシャちゃんを家に入れると、ラディナを連れてシュナイダーの後を追った。すると、喧噪が大きくなり、目の前にある光景に目を見開いて驚く。


 「うわあああ!? 木、木が襲ってくる!?」

 「あれは……クリフォト……!? どうしてこんなところに! <ファイアーボール>!」

 

 枝で村人に襲い掛かろうとしたクリフォトに魔法をぶつけ、強烈な爆発音の後にクリフォトが燃え上がり息絶える。見ればクリフォトと戦っているのは村人と、セフィロだった。


 「!!」

 「グシャァァァ!?」

 「セフィロ!」

 「♪」


 声をかけるとセフィロが頭に花を咲かせて枝を振ってくる。珍しく俺の下まで来ないのはクリフォトと戦うためだろう。


 「!」

 「鋭い……! 武器が通じにくいクリフォトをあっさりと切断するなんて……セフィロは大丈夫そうだな。バスレー先生、どこだ! <フレイムブレイド>」

 「ガォォォォン!」


 向かってくるクリフォトを薙ぎ払い、ラディナのタックルで道を開けて行くと、見たことが無い女性と対峙しているバスレー先生を発見することができた。


 「先生、無事か!」

 「流石、早いですね。ちょっと手こずっていまして助かりますよ」

 

 バスレー先生の珍しく弱気な発言を聞いて驚いていると、目の前の女性が俺を見て口を開く。


 「ディビットの弟子ですね? 見てましたよ、なかなかの魔力と素質をお持ちのようで。転移魔法、難しいですものね」

 「……俺達の修行を?」

 「ええ、私は――」

 「――可愛い顔をして覗き魔なんですって」

 「違うわ!? ……それはさておき、あなた達のおかげでディビットの居場所が確定しました。ありがとうございます」

 

 ……ということはこいつが前王の刺客か。そしてクリフォト……俺は目を細めて質問を投げかける。


 「お礼は要らないけど、わざわざ夜中まで監視していたとはご苦労なことだね。福音の降臨はこんなことに手を貸せるほど暇なのか?」

 「……」

 「何故それを、って顔ですねえ。割とあなた達とやり合っているんですよ、わたし達。そして、レフレクシオンのトレント事件。その黒幕が使っていたクリフォトがこいつらでしたし、ね」


 そう言ってバスレー先生は金色のハンマーのようなもので襲い掛かって来たクリフォトに一撃を入れた。直後、クリフォトの全身にひびが入り粉々になる。なんだ、このハンマー……? 今まで見たことが無い……。俺が考えていると、女性がくっくと肩を震わせて笑いだした。


 「なるほど! あなた達がレフレクシオンの計画を潰した方々でしたか! ならばそこの弟子の強さもうなずけるというもの!」

 「俺はラースだ、あんた、名前は?」

 「あはは! レッツエルやケルブレムを倒したくらいでいい気になるんじゃありませんよ! 福音の降臨が十神者。【不安定】のアイーアツブスがあなた達のお相手をさせてもらいましょう!」

 

 聞いたことが無いワードだけど、福音の降臨の中でも上の実力があるのかもしれない。というかアイーアツブスって――


 「待ちなさい!」

 「あはは、今更命乞いは利きませんよ美人さん? アポス様の命で見つけたら始末するように言われていますからね」

 「違いますよ。今、あなたは『お相手をさせてもらう』と言いましたが、ラース君には彼女がいますからね! エッチなことは出来ませんよ!」

 「そういうのじゃないって言ってるでしょうが! <アースブレード>!」

 

 激昂したアイーアツブスがアースブレードを放ってきた! 地面が隆起しながら俺達に近づき、足下で突き上げてくるが、俺とバスレー先生は左右に分かれて回避する。

 すぐに反撃のため魔法を放とうとした瞬間、裂けそうな勢いで口元に笑みを浮かべているアイーアツブスが目の前に現れる。


 「!? あの距離を一瞬で詰めてきたか!」

 「あなたが一番危険そうですからね、先に潰すべきでしょう。ハッ!」

 「チッ!」

 

 どこからか取り出した、どす黒く光る二本のダガーを俺に振り下ろしてくる。回避が間に合わないと判断した俺は咄嗟にオートプロテクションを張る。

 だが、かつてまともに破られたことがないオートプロテクションがガラスが砕け散るような音共にバラバラになった!


 「なんだって!?」

 「その程度で障壁と言えますかねえ!」

 「でもこの距離で避けれるか! <アクアバレット>!」

 「あははは! いいですねえ! 魔法の選択は間違っていないですよ、しかし十神者たる私に届くとは思わないことです」

 「全部躱した!? くっ……!」


 迫る凶刃に対し、サージュブレイドを抜いて黒いダガーを受けきる。力はそれほど強くないな……! ならばと俺は無理やり押し返して距離を取る。


 「力もありますか! そうこなくては! <ファイアーボール>!」

 「<ハイドロストリーム>!」

 

 こいつ魔力も高い! 俺のハイドロストリームと相打ちになり、蒸気が上がった。この隙は逃さないだろうと、俺は集中して相手の動きを読む。


 「右か!」

 「流石ですねえ!」

 

 ダガーを弾き、バランスを崩すアイーアツブス。そのまま踏み込んで一撃を入れようとしたところで、バスレー先生の声が響き渡る!


 「【致命傷】!」

 「ぎゃあああああああ!?」


 アイーアツブスの背後に回り込んだバスレー先生が、お尻にあの金色のハンマーをフルスイングしていた。


 「お、おおお……し、尻が……尻が割れましたよ!? キレイな顔をして恐ろしいことをしますね!?」

 「お尻は割れているものですから大丈夫です。……というか気絶もしないとは、十神者の二つ名は伊達ではありませんね?」

 

 バスレー先生がハンマーを肩に当てながら目を細めて冷静に尋ねると、アイーアツブスが立ち上がり涙目で口を開く。


 「そうですね、今のはあなたのスキルのようですが手加減をしましたか? 生け捕りにして情報を得ようとしたと見ますが……そんなことで私を倒せるとは思わないことです……スキルにはスキルで返礼しましょうか。私の【不安定】を――」


 不敵に笑いながらダガーを一本だけ懐に収めると、バスレー先生に向かって駆け出した!

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