第三百七十話 サマ師バスレー


 ラース達夜間修行組が寝ているころ、昼間起きているバスレーやアッシュ、セフィロは村長宅でダーシャの子守をしながら時間を消費していた――


 「――そんなわけで、お金に困っていたわたしのアクセサリーを売却したら、倍、客が来たというわけですね」

 「あははは!」

 「くおーん♪」

 「♪」


 自身の適当な話をダーシャ達に話し、あまりよくわかっていない皆が拍手をする。あまり懐かれては困るからと、アッシュはバスレーの膝の上で大人しくしている。


 「ゴル」

 「おや、ロックタートル君もお目覚めですか。とりあえず水を」

 「ゴルル」


 道中拾ったロックタートルはラースのテイム能力によって大人しくしていた。アッシュと同じく子供ということもあるが、魔物故に実力差を本能的に悟っていたことも大きい。

 

 「バスレーおねえちゃん、他のおはなしー」

 「はいはい、そうですねえ。ではわたしが先生だったころに吊るされた話を――」


 「さあさ、いらっしゃい! たまに現れると嬉しい商人のおでましですよ! 見るだけならタダ!」


 と、バスレーが話し始めたところで外から賑やかな声が聞こえてくる。


 「おや、何やら外が騒がしいですねえ。ちょっとお散歩に行きましょうか」

 「はーい!」

 「くおーん!」

 「!」


 バスレーはダーシャにアッシュ、セフィロを引き連れ、さらにシュナイダーを伴い声のする方へ向かった。すると、村の入り口に近いところで商品を載せた荷台の上から<メガホン>の魔法を使っている人物を発見する。


 「ほう、行商人ですか。レフレクシオンだと町が整備されているのであまり見かけませんから珍しいですねえ」

 「はいはい、そこのお姉さん。いいのが揃っているよ、見ていかない?」

 「ふむ……生憎、持ち合わせはあるんで見ていきましょう」

 「あるんですか!?」


 バスレーがそういうと、荷台の人物と、仲間であろう男二人がガクッとなる。そんな光景をしり目に、バスレーが荷台の商品を見に行くと、フードを目深に被った人物が荷台から降りてバスレーの接客についた。


 「む、あなたはこの国の人ではありませんね? 色白な美人さんですねえ、羨ましい」

 「色々あって、仲間と一緒に旅をしているというところですね。ふむ、このクソ暑い中フードを被って辛くないですか? 取ったほうはよいのでは……?」

 「まあまあ、お構いなく」

 「いえいえ、その声、きっと美人ではないですかね? 是非見たいのですが」

 「まあまあ」

 「いえいえ」


 バスレーは勝手にフードを取ろうとして行商人に手を止められ、逆の手で取り去ろうとしたがそれも止められ膠着状態になる。


 「バスレーおねえちゃん、わたしもこれを買ったらママのお手伝いできるかなあ」

 「き、っと……でき、ます、よ!」

 「ママ、想いな子、ですね!!」

 

 鼻息荒く、フードを取りたいバスレーと、取られたくない行商人。長く続かに見えたその戦いは程なくして終わりを告げる。


 「あ! ポイズンリザードが足元に!」

 「なんですって!?」

 「もらった!」

 「しまった!?」


 まんまとバスレーの罠にかかり、行商人は素顔を晒してしまう。満足げなバスレーは鼻をならしてから口を開く。


 「ふふん、やはり可愛い顔をしていましたね」

 「く、くそう……この顔だけは見られたくなかったのに……!」

 

 フードの下から出てきた、緑のショートボブをした女が歯噛みをしながらバスレーを睨む。


 「さて、お顔を拝見し満足できました。さて、と……シュナイダー! ダーシャちゃんとアッシュを連れてラース君のところへ帰りなさい! できればラース君を起こしてここへ!」

 「……! あおおおおおん!」

 「ひゃあー」

 「あ!? 待て!」

 「させませんよ?」

 

 行商人の男がダーシャに手を伸ばすが、袖の下から取り出した石を投げてそれを弾く。集まっていた人達が何事かとざわついたところで――


 「……いつから気づいていたんですか?」

 「最初から、ですねえ。このガリアーダ渓谷に来るモノ好きはそう多くないですし、とある人物が狙われていると聞いています。旅をするには人数が少ないし、なにより……」

 「なにより……?」

 「あなたのそのフードがとても浮いているんですよ!」

 「な!?」


 ガーンといった感じで面食らう行商人の女。


 「さっきも言いましたがこのクソ暑い中、フードを被るなんて正気じゃありませんよ」

 「あんただってその重そうなローブを着ているでしょうが!?」

 「おっと、いつもラース君のおかげで快適に過ごしているから忘れていましたね」



 (あの姉ちゃんやべえ汗だな……)

 (ふつう家から出たら気づくだろ……)


 「……気づいたら暑くなってきましたね。さて、ただの行商人じゃないことまでは分かっています。刺客ということであれば相応の対応になると思いますが、どうです可愛いお嬢さん?」

 「……私は可愛くなどない……! 美人のお前に分かるものか!」

 「わたしも別に美人ではありませんけどねえ? まだ若いでしょう? あなたのほうがよほど可愛いですけど」

 「あんたのほうが美人だ」

 「あなたのほうが」

 「いやいや」

 「まあまあ」

 

 (なんだあいつら……ケンカしながら褒めあっているぞ……)

 (い、意味がわからねえ……)


 いよいよ収集がつかなくなってきたところで、行商人の男が荷台に隠していた剣を抜いて叫ぶ。


 「おい! やるなら集まっている今だ! 訳わからないやり取りしている場合か!」

 「おっと、確かにその通り……危うく流されるところでした。くっく、その美人な顔を台無しにしてあげましょう! パッと撒いたらサッと育つ!」


 女が懐から取り出した袋から何かの種を蒔き、ウォータの魔法でその上に水をかけた。すると――


 「こいつらは!?」

 「シャァァァァ!!」


 現れたのは動く邪悪な樹……クリフォトだった。知らない相手ではないが、まさか乾燥した大地で現れるとは思わず、バスレーは驚愕の声をあげる。

 

 「そいつを人質にしてここから逃げますよ! かかれ!」

 「三人なら何とかなると思いましたが、数が多いですねえ……! お!」

 

 しかしそこで一体のクリフォトが体を貫かれてその場に倒れこむ。さらに次の相手へ斬りこんだのは、


 「!!」

 

 トレントのセフィロだった。

 いつもは枝を振るうか絡みつけて動きを封じる程度だが、種族を操り、誤認させて種族を減らされたセフィロが怒りの花を咲かせていた。


 「ナイスですよセフィロちゃん! ……って、枝を剣に……!?」

 「!」


 普段の温厚な性格の反動か、怒りを露わにしたセフィロ。そして照り付ける太陽の輝きを受け、影を潜めていたスキル【ソーラーストライカー】がついに発動した!

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