第三百六十七話 転移魔法のレクチャー
「転移魔法の基本は『自分』か『別の何か』で魔力の使い方が変わる。自分が転移するのは実はそれほど難しくない……とはいっても、自分が知らないところに転移するのは危険が伴うから適当に発動させるのは止めておけよ」
「例えば、石の中に入ったり、とか?」
俺が手を上げて尋ねると、タバコの煙を吐きながら返してくる。
「そういうこともあるな。行方不明者の1パーセントくらいはそういうやつもいるだろう。他には何万キロも離れた国に出たこともあるらしいぜ。ま、落ち着いて使えばまずそんなことは無いがな」
「なるほど……それじゃあもうひとつ質問。俺の家に転移の魔法陣みたいなのを作って、実家とつなげたりは可能?」
「おう、それが目的か? もちろん可能だ。それはまたやり方が違うから教えてやるよ。まずは自分が移動するところからだな<ショート>」
「あ!」
にやりと笑いながらディビットさんの姿がスゥッと消えた。俺がびっくりした瞬間、背後で肩を叩かれ、振り返るとディビットさんがいた。
「おおー!」
「これは基本中の基本で、視界の範囲の場所にのみ飛ぶことができる。転移魔法だけは特殊で、名前は特に決まっていない。ただ、言葉に意味をのせるためと、転移するという明確な意思決定のため何らかの言葉を口にする必要があるから、覚えておけ」
「遠距離だと?」
「遠距離だと俺の場合は<エターナル>と言うぜ。ぶっちゃけ距離は関係なくなるから『果てはない』って感じだ。ついでに言うと、遠距離転移で難しいのはイメージだな。思い出の場所や自宅みたいなところは脳裏に強くイメージが残っているから、視界範囲の転移ができるやつは割とできる」
いわく、魔力よりも強くイメージすることが何より大事なんだとか。子供のころベルナ先生にファイアを教わったとき『火よでろーって思うのよ』と教わったことがあるけど、それの何十倍も集中力が必要らしい。ゆえに魔力の消費も激しいとか。
「じゃあ転移の魔法陣は――」
と、俺が言いかけたところでディビットさんが俺の頭をぐしゃぐしゃにしながら笑う。
「はっはっは! 気が早いやつだなお前は! まずは<ショート>からやるぞ!」
「そうれもそうか。よし……!」
俺はやり方を教わり、転移魔法の修行を始める。
自地点からA点へと移動するためには視覚情報をまず探す。目立つものがあればいいけど、なければ適当な石でもいい。次に目をつぶって集中し、先ほどの地点に自分が立つイメージを思い描く。
さっきディビットさんがが俺の後ろに立った時は、俺を目印にしたとのことだ。
「むむ……」
「魔力が十分だと感じたら、言葉を放ち魔力を開放しろ。そうすれば移動が完了する」
「……! <跳躍>!」
俺の言葉は『跳躍』にした。俺の中でテレポートって『飛ぶ』イメージがあるからだ。俺が言葉を放つと、ごそっと魔力が減り、レビテーションとは違った浮遊感を覚える。
直後、視界がぐるりと反転したかと思うと、次の瞬間地面に転がっていた。
「痛っ!? 派手に転んだなあ……あれ?」
「ほう、流石だな……一発成功か」
少し離れたところからディビットさんが頷きながら歩いてくる。どうやら視界にはいっていた雑草付近に無事転移できたらしい。
「何とか成功かな? でも、この距離でも魔力が結構減るな」
「インビジブルと同じくらいかもう少し上だな。ドラゴニックブレイズが使えるみてえだから魔力量は十分なんだろうぜ? その辺の魔法使いなら視界の範囲に移動するだけで片膝をつくかぶっ倒れるだろう」
「伊達に五歳から鍛えてないからね。でも、連続使用はきついかも。俺が魔力を全部回復させて、ここからレフレクシオンのガスト領まで帰れると思う? というか途中で力尽きたらどうなるんだろう?」
俺が砂埃を払いながら立ち上がると、ディビットは新しいタバコに火を付け、煙を吐きながら俺に言う。
「なんだ? 魔力減ってるのか? 俺の見立てじゃかなり多かったと思うんだがよ」
「結構使ってるんだよ、これでも。昼間はオートプロテクションで砂埃や風をシャットアウトしながら移動しているからな。朝から昼まで使いっぱなしだし」
「……マジかよ」
「嘘じゃないって」
俺が口を尖らせて返すと、顎に手を当てて何かを考え出す。しばらく見ていると、頭をガシガシと掻きながらペッとタバコを捨てて俺の肩に手を置いた。
「……ふん、これで消耗してるのか。【器用貧乏】いや『超』だったか。恐ろしいスキルだぜ、まったく。よし、多分お前なら一週間もありゃ遠距離転移もできるようになりそうだ。とっとと転移陣の作り方まで覚えて、俺の魔法を全部習得しやがれ!」
「ええ!? なんでちょっと怒ってるのさ!?」
その後、俺は跳躍を反復練習し、時にマキナの修行を見ながら昼間より少し涼しい荒野で修行を続けた。なんだかんだで集中するのは疲れるので、五回に一回くらいは失敗していた。
ま、それでもテレポートできるようになったのは結構楽しい……そうこうしていると、夜が明け、俺たちは村へと戻った。
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