第三百六十五話 決意するオルノブ達
「くおーん♪」
「ぐるる」
「お、久しぶりに親子で毛づくろいしてるな。今はオートプロテクションも解除しているから仕方ないか」
「かわいいねー」
「♪」
マキナとファスさんが責任者を探しに行った後、俺もその辺の人に声をかけて村の中にある大木の下を間借りして休息と野営の準備を進める。
移動中はオートプロテクションがあるので砂埃などは遮断できるけど、村の中で使う訳にも行かない。先ほど舞い上がる砂埃を浴びたのでラディナはアッシュを綺麗にしようと抱きかかえて毛づくろいをしていた。
セフィロも干からびそうなのでウォーターで水浴びをさせてやり、小躍りする姿を見てダーシャが微笑んでいると離れたところに居たオルノブさんが戻って来て話しかけてきた。
「のどかな感じがする良い村だと思う。あの川もわざわざどこかで分岐させて村の中に引き込んでいるみたいだ。町からも遠いし、魔物を狩ったり、畑を耕す自給自足で暮らすなら私でも出来そうです。ユクタさん達もどうかな?」
「畑仕事なら得意ですし、これだけ水が豊富なら私の【土壌開拓】で乾燥地帯以外の作物も作れるかもしれません。お米とか」
ユクタさんのスキルを聞いて、俺はセフィロを肩に乗せて話に混じる。
「ユクタさんのスキルってウチの父さんの【豊穣】と似ているなあ」
「ラースさんのお父さんですか? 魔法使いではないのでしょうか? 【豊穣】は痩せた土を蘇らせられるので羨ましいですね」
「そう言えば菜園の場所だけ物凄く育ちが良かったけどそういうことか……うーん、父さんをここに連れてこられたら村が発展しそうだな」
「まあ、領主様にそんなことはさせられないでしょう? この国の人達に頑張って貰いましょう。まさか全土を蘇らせるわけにもいかないでしょう。ローエンさんが干からびますよ」
「ま、それもそうだね」
と、野生のロックタートルと遊んでいたバスレー先生がこっちに来てそんなことを言う。スキルは魔力も使うし、この村の土に栄養を与えるとなると何か月かかるかわからない。
「……え? ラース君……いや、ラース様はもしかして貴族……?」
「え? ああ、一応そうだけど……でも、俺はこうして冒険者をしているし、気にしなくていいよ」
「なんと、貴族なのにわしらのような者を助けてくれたのか」
「それを言ったらこっちのバスレー先生はレフレクシオンの大臣だからね」
「えっへん!」
無い胸を得意げに逸らすバスレー先生がさらに続ける。
「まあ、農林水産大臣としては【土壌開拓】は興味深いですがね。その内見せてください、もしかしたらレフレクシオンで働いてもらった方がいいような気もしますし」
「あ、は、はい」
あっけに取られていたユクタさんが姿勢を正して返事をすると、ちょうどその時マキナが帰ってきた。
「ただいまー! ここだったのね!」
「おかえりマキナ。あれ? ファスさんは?」
「えっとね――」
マキナひとりで帰って来たので尋ねてみると、村長さん宅にディビットさんが潜んでいたとのこと。ファスさんはかつての戦友と話をしているのだとか。
そして、転移魔法を習得する俺を見てみたいというので、家まで来て欲しいとも言っていたらしい。
「ちょっとディビットさんが外に出られない理由もあるの。それは向こうで話すわね」
「分かった。それじゃ移動しよう。みんないいかい?」
俺がそう言うと異論はないとみんな頷き馬車を再び歩かせる。修行するなら、ジョニー達はここでしばらく休んでもらうことになるかな?
そんなことを考えていると村長さんの家に到着し、ここにも大木があったので馬やラディナ、シュナイダー達を木陰で休ませて俺達は家の中へ。
「師匠、戻りましたよ」
「うむ。ラースよこやつがディビットじゃ」
「何だ、随分イケメンの兄ちゃんが出てきたな。俺がディビット奮迅のディビットだ、よろしくなラース」
「ラース=アーヴィングです。よろしくお願いします」
椅子から立ち上がると、タバコをふかしながら握手を求めてきた。俺が握り返すと『ほう』と片眉を上げて呟く。
「……なるほど、こりゃおもしれえヤツだな。ま、とりあえず座ってくれ! あんたたちのことも聞いている、そのあたりも話そうじゃねえか」
「分かりました」
全員が着席したところでタバコを灰皿で消し、ディビットさんが口を開く。
「ファスとマキナには話したが、この村はアフマンドに協力した人間が居るんだ。で、どうも直前で逃げ出した前王の側近連中がまた城を取り返そうと暗躍しているらしい」
「前の王様は倒されたんじゃ……?」
「いや、アフマンドが生かして捕えている。長いこと虐げられて人たちの恨みを晴らすため生かしているみたいだ。だが、逆に言えばあいつを助けて城を取り返されたら面倒になるな。側近の名はダルヴァ。力はないがそれなりに知恵が回るヤツだ。だからこそ逃げ出したんだろうが――」
という感じで、アフマンド王に協力した者に報復が来ることを予測し、一年ほど前からこの村を作ったのだとか。
何故かというと、特に活躍したディビットさんを始末しなければ、城を取り返そうとしたところでディビットさんが駆け付ければ敗北は必死。なので、どんな手を使ってでもディビットさんを倒すために襲ってくるだろうと予測している。渓谷に居るのは殲滅戦がしやすいからだとか。
それと村を作ったのはバラバラに過ごして各個撃破を狙われるよりは集まっていた方が守りやすいからだとのこと。
「そういうわけでオルノブだっけか? お前さん方は危ないからここには居つかない方がいいと思うぜ。少し滞在するくらいならいいと思うがな」
新しいタバコに火をつけながらディビットさんが言うと、オルノブさんは少し考えた後に返事をする。
「……いえ、私は奴隷から逃げ出した身なので町には戻れません。スキルは戦闘系なのでお役に立てるかと思います。ユクタさん達はラース様にまたどこかへ連れて行ってもらう方が良さそうだ」
しかし、ユクタさん達は声を揃えて反論をする。
「いや、わしは残るぞ。どうせ老い先短いしのう。今更死ぬことが怖いわけでもなし、婆の知識でも何か役に立つじゃろう」
「私もです。オルノブさんだけ残して別の場所なんて考えられませんわ」
「ダーシャもおじさんと一緒がいい!」
「う、むう……」
ふたりの真剣な顔に、オルノブさんが口ごもるとファスさんが笑いながら喋り出す。
「ほっほっほ。そう来たか……ワシも他の場所がいいと思ったが、まあ、ディビットもおるし、刺客を倒せばいいわけか。どうじゃ村長?」
「え? ええ、僕は構いませんけど……ディビットさん……?」
「かー! どいつもこいつもアホばかりだな!」
「なんですってえ!? 聞き捨てなりませんよ!」
「バスレー先生のことじゃないから黙って!?」
俺が憤慨するバスレー先生を抑えていると、ディビットさんは頭を掻きながらため息を吐いた。
「仕方ねぇなあ。でも、何かあっても自己責任だぞ?」
「ええ、ありがとうございます」
「礼を言うところじゃねえだろう……まあいい、村長こいつらはお前に任せる。家が足りなきゃ作る……いや、ラースに作らせるから言ってくれ」
「分かりました。では、この村について案内しますので付いて来てください」
村長さんはオルノブさん達を連れて家から出ていく。それを見送ると、ディビットさんは俺にタバコを向けてにやりと笑う。
「さて、それじゃ次はラースだ。お前には俺の知っている魔法、全部くれてやろうじゃねえか」
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