第三百六十四話 姿を出す者達


 ファスがディビットの名を出した途端、村長宅に案内をしてくれた男が焦りながら仲間を呼ぶため口笛を吹こうとする。ファスは動こうとしたマキナを抑え、成り行きを見守ろうとしたその時、家の奥からしわがれた男性の声が聞こえてきた。 

 

 「待て。そいつは俺の客だ、問題ない」

 「デ、デイビットさん……!」


 髪は短く、薄汚れた紫のローブを着て咥えタバコをしている男が紫煙を吐きながら玄関先に現れる。出てくるとは思っていなかった感じの村長が焦りながら道を譲り、デイビットと呼ばれた男がファスをちらりと見た。


 「こ、この人が……?」

 「ふん! <ダイアモンドランス>!」

 「ふえ!?」


 マキナがディビットを見てつぶやくと、ディビットはタバコを指で弾きながらファスに向かって魔法を放った! 岩で出来た槍が超至近距離のファスを襲う。


 「師匠! <カイザー……>」

 「案ずるなマキナ。"雷塵拳〟!」


 襲い来る槍をものともせず、ファスはスッと拳を前に突き出すとバヂィン! という轟音と共に槍は粉々に砕け散った。

 

 「ひぃっ!?」

 「うわわ……」

 「私がまだ習っていない技だわ……えっと、こう?」

 

 村長と鍬を持った男が尻もちをつき、マキナが冷静に新しく目にした技を模倣する。そんな中、ディビットが一歩前に出てファスの前に立つと――


 「わははははは! 何だよ、本物かファス! 何年ぶりだ? 腕は衰えてないな!」

 「ほっほっほ、相変わらず偏屈なジジイじゃ、そんな確認方法、ワシでなければ死ぬぞ」

 「そんときゃそん時だろうが? なあに、急所はちゃんと外してるって。つうか野郎はどうした? そっちの嬢ちゃんも初めて見る」

 「こっちはワシの弟子でマキナという子じゃ」


 ファスにお尻を叩かれ、マキナは姿勢を正して頭を下げて挨拶をする。


 「初めまして! 弟子のマキナです。ディビットさんはすごい魔法使いと聞いています、よろしくお願いします!」

 

 するとディビットが新しく火をつけようとしたタバコを噴き出し、目を丸くしてファスの肩に手を置いて、信じられないといった調子で叫ぶ。


 「弟子!? お前が!? 伝承は諦めたって言ってたお前がかよ!?」

 「何度もお前お前言うのではないわ! 旦那の奴がここにおらんのは弟子を探しに行ったからでな、お主の言う通り弟子は取らぬ予定じゃったが、なかなかの逸材に出会えたから鍛えておるところよ」

 「えへへ……」

 「マジか……いや、でもファスの技を廃れさせるのはもったいないと思っていたし、アリだな。よろしく頼むぜ、マキナ。で、ハインドも弟子探しで居ないってか? だから俺にしとけって言ったんだよ。ま、立ち話もなんだ。中へ入ろうぜ村長。お前は畑仕事か?」

 「ですね。なんかあったらまた教えてください」


 ディビットは村長を立たせながら案内をしてくれた男に声をかけると、苦笑しながら立ち上がりこの場を後にした。そこで先ほどの言葉を聞いて、マキナが嬉しそうに言う。


 「あれ? まさかディビットさんって師匠のことを……?」

 「おお、好きだったぜ。俺とファス、ハインドともう一人の四人パーティだったんだがよ。ハインドと取り合いはしてたなあ」

 「へえ! 見たかったなあ。で、師匠はハインドさんを選んだんですね?」

 「ふん、馬鹿な男ほど可愛いもんじゃからな。って何を言わせるのじゃ! ほら、さっさと入るぞ!」

 「えー、そ、そこのところをもうちょっと――」


 マキナは再びお尻を叩かれながら村長の家へと入っていき、案内されたテーブルに着席すると、拾ったタバコに火をつけながらディビットが口火を切る。


 「ふー……。で、こんな辺境まで来てどうしたんだ? 修行をするにゃ丁度いいところだが、お前がわざわざここを選ぶとは思えねえ」

 「うむ。その通りじゃ。本来の目的から話そうかのう。このマキナには恋人がおってな、一緒にこの村におるのじゃが、そやつに転移魔法を教えてやってくれぬか? 急ぎではないが事情があって必要なのじゃ」

 「確かに俺は使えるが、古代魔法だぞ? マキナと一緒くらいの歳なら難しいと思うぜ。古代魔法の中でもかなり難しい部類に入る」

 「承知しておる。が、ラースはちょっと特殊でな、恐らくすぐものにするはずじゃ。ほっほ、多分弟子にしたいと思うくらいはな」


 ファスがそういって笑うと、ディビットが目を細め、にやりと口の端を曲げながら紫煙を吐く。


 「ラースはレビテーションやドラゴニックブレイズを使えるから多分大丈夫だと思いますよ!」

 「ほう……そいつは興味があるな。うまくいく算段なしにこんなところまで来ないってことか……よし、まずは会わせろ! 話はそれからだ」


 そういって席を立つディビットを見て村長が慌てて腕を掴んで大声を上げる。


 「いやいやいや、待って下さいよ!? 前王を慕っていた連中が動き出そうとしているって噂があるんですよ!? 迂闊に外に出るのは危険です! この方たちを巻き込むかもしれませんし……」

 「おっと、そういやそうか……いや、悪いなファス。二年前、この国を覆すってやつに手を貸してやったんだが、どうも逃げ出したらしい前王の側近やらが数を集めてるって話だ。この村はその時の協力者やらと一緒に作ったんだが、俺を逆恨みしてるやつが村にきたら争いになっちまう。だからいつもは渓谷に住んでいるって情報を流しているのさ」

 「あ、だからさっきの人や村長さんが警戒してたんですね。ギルドの人も相当ピリピリしてたし」

 「ああ、ギルドの連中もそれなりにアフマンドに協力していたからな」

 

 ディビットがうなずいて答えると、ファスは嘆息をして口を開いた。


 「アフマンドに助けを求めないのは……お主の理想が叶わなかったからか?」

 「……ご明察のとおりだな。俺は奴隷出身だ、辛さはよく知っている。だからこの制度そのものの廃止を頼んでいたんだが、まだそれは成されていねえ。だから共闘するのは今のところナシってな」

 「なるほど、ならオルノブ達は別の場所が良いかもしれんのう」

 「なんだそいつは?」

 「ま、後でラースとともに連れてくるわい。なら渓谷で――」


 と、ファスはラースとディビットの魔法訓練について計画を話し出す。そんな中、明らかに村の人間ではない格好の人影が村長の家を見つめていた。


 「やはりこの村にいたか……! “奮迅のディビット”め……!」

 「あれがあなたたちの王を捕らえ、国政をひっくり返した英雄というわけですね。他にも強そうな人がいるじゃありませんか?」

 「あの時、あんなババアはいなかった。小娘もだ。どうせ大した実力もあるまい! しかし、あいつらのおかげであのおいぼれが姿を現したのは僥倖だ。それより本当に我が王を救出して国を取り戻せるのだろうな!?」

 「唾を飛ばさないでくださいよ。ええ、お任せください。“福音の降臨”十神者がひとり『【不安定】のアイーアツブス』にお任せを――』

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