第三百五十話 来る者と去る者
「よーし、お前はこの檻だぞ」
「ガオオン!」
「よしよし、あんたの見た目なら魔物は怖いって思われると思うわ!」
「ウホ!」
着工してから早一か月。
今日もテイマー施設でひと仕事。大きめの檻や厩舎もいくつか完成し、今日は牙炎獅子とアイアンコングが新しい檻へと移動をする。
「こいつらも随分立派になったなあ……」
「ノーラの【動物愛護】とお風呂のおかげだな。魔物達も堂々とした感じになってきたし、怠けているやつも居ない」
俺はチラリとシュナイダーと戦っている魔物に目を向ける。
「ガアアアア!」
「グルォォォ!」
「にゃーん!」
「頑張れ二匹ともー!」
「やあ、変わればちゃんと変わるもんだね」
「いけー!」
シュナイダーと戦っている魔物、それは父雪虎でこの一か月間のトレーニングを得て昔の威厳を取り戻していた。
だらけ切ったお腹はスマートになり、眼光も鋭く、野生で育ったシュナイダーとほぼ互角に渡り合うほどの強さを見せつけてくれる。どうしようもないという印象だったが、今は背中を預けられる戦士だ。
「ラース何を見ているの? ……ああ、雪虎親子ね! 名前は決めた?」
「いや、まだだよ。あの親子、父親が復帰したからウチに置くわけじゃないけど、いいのかな」
実はタンジさんにあの雪虎親子の名づけを頼まれていて、まだ決めかねている状況だったりする。何故か尋ねたところ、母子は懐いているし、父親をあそこまで復帰させてもらった功績は大きいとのこと。
なら一番頑張ったノーラかと思ったんだけど、家に連れて帰るわけじゃないから俺の方がいいと辞退された。
「ま、急がなくていいんじゃない? 逃げるわけでもないし」
「そうだな。それじゃ、俺達もトレーニングをするか」
「ええ! <ライトニング>!」
と、的に向かって魔法を放つマキナ。最近は魔力の底上げのため、空いた時間を使って魔法の訓練をしている。
ファスさんとの訓練ももちろん行っているけど、何だかんだでファスさんの技は魔力を使うものが多いため、できるだけやっておこうというのが主旨だ。
魔物の園が開園するまでもうしばらくかかるため、兄さん達はそろそろ帰さないとなと思っていたところで、俺は後ろから声をかけられた。
「ラース君、マキナちゃん! 今、少しいいですか?」
「あ、バスレー先生。またサボりかい?」
「しっつれいな!? そうですよ!」
「そうなんだ……で、サボってまで話すことってなんです?」
マキナが呆れながら答えていると、兄さん達も寄ってくる。それには構わず、話を続けるバスレー先生。
「……あまりいい話じゃないんですが、ふたりは関係があるので知らせておきます。先ほど、サンディオラからの使者というものが登城し、封書が届けられました」
「あ、例の強盗の件? 進展があったんだ」
正直、すでに忘れかけていたと言っても過言ではない……一か月、特に音沙汰も無かったから特に……
まあ、関わっていると言っても引き渡しで立ち会ってくれ、というくらいだろうと考えていたんだけど、バスレー先生が驚くべき言葉を発する。
「内容は『犯罪者二人について確保してもらい感謝する。処遇を決めるためそちらへ向かうので、話し合いの場を設けていただきたい、サンディオラ国王 アフマンド=K=サンディオラ』とのことです」
「ん!? まさか、国王様自ら来るって言うのか!?」
「はい。他には護衛の人数やその人たちが持っているスキルなども書いていました。あくまでも使者として来るということです。それで、あの騒ぎに関わったラース君とマキナちゃん、それとファスさんに立ちあってもらいたいと陛下が言っていまして、それを伝えに来たんです」
「こ、国王様達の会談に立ち会うの……? うう、それは流石に緊張するから遠慮したいかも……」
マキナの言う通り、俺も同じ気持ちなのでその言葉に頷き、バスレー先生へ返す。
「別に俺達が居なくても話は進むだろ? 捕まえたってだけだし、被害を受けたクライノートさんの方が適任な気がするけど?」
「クライノートさんはもちろん呼びますよ。しかし、陛下に懸念があるようで、大臣半分とホークさん達騎士団長は参加。そこに強力な戦力であり、捕縛者のラース君達が欲しいとのこと」
「なるほど……ラースのことだから僕が言うのも変だけど、立ちあった方がいいかもね。国王様の依頼だし、もし友好に見せかけた敵の可能性もある。捕縛したラース達が狙われないよう、国とパイプがあることを知ってもらっておくのはアリだと思うよ」
兄さんが顎に手を当ててそんなことを言う。
むう、確かに味方とは限らないのか……内部から入り込んで落とすのは福音の降臨もやっているくらいオーソドックスな方法だ。スキルとかを明かしているのもちょっと怪しいしな……
「わかった。アイナは行かなくていいよね?」
「ええ、アッシュと一緒に連れて行っても構いませんけど。アーヴィング家の子ですし」
「危険がありそうなところに連れて行くわけないよ。いつになりそう?」
「使者が言うには恐らく三日後だと」
「なら兄さんには悪いけど、その時はまた留守番をお願いするかな」
三日ならまだ余裕はあるかと思っていると、兄さんが口を開く。
「ごめんラース。魔物の園の建設が始まったから言わなかったけど、一か月経ったし、家に帰ろうと思うんだ。魔物達も立派になってきたし、ノーラもお役御免だって言ってた」
「うんー! オラが居なくてももうしっかりやっていけると思うよー!」
ノーラも笑みを浮かべてそんなことを言うが、俺は慌てて止める。
「いやいや、待って! 折角ここまで一緒にやってきたのに完成を一緒に見届けようよ」
「うん、私もその方が嬉しいわ」
すると兄さんが苦笑しながら俺の肩に手を置き、続ける。
「はは、完成したら迎えに来てよ。父さんの補佐とはいえ、仕事が無いわけじゃないしね。サージュならすぐだし」
「それは……そうだけど」
「オラが話しておくから、リューゼ君達も招待しようよー! ね? ウルカも帰っちゃったし、呼ぼう?」
残念がる俺にノーラも明るく、そう話しかけてくる。
確かにウルカも帰っているし、一か月という期間は兄さんにとって短い時間でもない。
<我が居ればひとっ飛びだ、ここの完成は我も楽しみにしているし、完成直前で呼んでくれればよかろう>
【召喚】があるからなと、アイナに気づかれないようサージュが目配せし、俺は頷く。
「仕方ないですよ、デダイト君はラース君みたいに遊び人じゃありませんからね」
「仕事をサボっている人に言われたくないね!?」
わざわざ今報告しなくても家でやればいいので、本当にサボっているんだろうな……そんなバスレー先生の言葉にみんなで笑い、明日の夜帰ることが決まった。
他国の国王と会うのは緊張するな……そう思っていたけど、その前にひとつ、大仕事が残っていた。
そう、アイナのことである……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます