第三百四十九話 鋭意建設中!


 「ぎちぎち……」

 「かぶと虫さんがんばれー」

 「くおーん!」

 「!」

 「はーい、ありがとー!」


 着々と進んでいく魔物の園の建設計画の横で、俺達は魔物達の再調教と建設の手伝い、それと訓練を行っていた。

 今もキングビートルの背に乗ったアイナとノーラが木材を運ぶのを横目で見ていたところである。


 「楽しそうね、アイナちゃん」

 「まったく、誰に似たんだろうな?」

 「そりゃラースじゃないの?」


 マキナの言葉に憮然としながらもアイアンコングを誘導し、木材をダイハチさんへ届けるように指示を出す。そんな中、タンジさんと兄さんが話しているのが聞こえてくる。 

 

 「はあ……ノーラちゃんにはテイマーの資格、発行しとくぜ? 持ってた方が何かと便利だろ」

 「お願いします。お金は僕が出しますから」

 「兄ちゃんの嫁さんはとんでもねえスキルを持っている。貴族なら大丈夫だとは思うが、注意しなよ」

 「ありがとうタンジさん。僕が領主を継ぐことになるか分からないですけど、社交界に出る機会は増えるでしょうから胸に留めておきますね」

 「うーん、護衛にサージュがいりゃあ大丈夫とは思うが、何か他にもいた方がなあ――」


 といった感じの話だ。

 タンジさんいわく、冒険者でテイマーとして生きていたら世界でも1,2を争うくらいの人物になっていただろうと言う。俺はアルバトロスから奪ったあの怪しい指輪のおかげでノーラとほぼ同等のテイムが出来ているが、本来はここまで上手くいくもんじゃない。

 ノーラは懐かせるだけじゃなくて、躾けもあっさり行うので意思疎通ができるというのはかなりのアドバンテージを持っているとのこと。

 サージュの件で凄いだろうなとは思っていたけどそれほどとは、と俺達は驚いていた。


 そんな意外な情報を得たりしながら、魔物との絆を繋いでいき、アイアンコングやブラッディバイパーはもとより、サンドスコーピオン、スピニングリザード、ロックタートル、ジャイアントビー。そして雪虎と相性が悪い牙炎獅子がえんじしも徐々にだけど、懐いてくれた。

 まあ、というのも着工が始まったころ、こんなことがあってね――


 ◆ ◇ ◆


 「わふわふ」

 「ぐるる」

 「あれ? シュナイダーにラディナ、何を咥えているんだ?」

 「あ、シュナイダーはハンバーグよ! 昨日のご飯じゃない」

 「お母さんは唐揚げだ! どうしたの?」


 マキナとアイナが覗き込むと、二頭は取られないようにサッとそっぽを向きテイマー施設へと向かう。昼ご飯は別に用意しているのになと思っていると、事件は起きた。


 「ああ、ラースさん。おはようございます。ボチボチですが、進んでいますよ」

 「ありがとうございます。それじゃ引き続きお願いしますね」

 「はい。……ただ、今日は魔物達もいくつか厩舎から出ているので臭いですけどね」

 

 そう言って仕事に戻る工事責任者のおじさんの背中を見送り、俺は広場に置いているお風呂に目を向けた。昨晩の内にサージュが運んで置いてくれたものだ。今日は魔物達をお風呂に入れてキレイにする計画だ。

 まあ、それが出来ない魔物も居るので全部ではないけどお湯が大丈夫な魔物はやっておくつもり。

 

 だったんだけど――


 「うーん、来てくれないねー」

 「ノーラが呼び掛けても来ないから、お湯を警戒しているのかも。折角持ってきたけど、無理強いはしたくないしなあ」


 ――そう、こっちに寄ってこないのだ。ノーラのおかげでブラッディバイパーとレッドエルクは寄って来たけどね。まだ顔を合わせて三日目だし、仕方ないか。

 すると、風呂桶を持ち込んだサージュが少し大きくなって声を上げた。


 <むう、持ってきたのにもったいないな。お前達、これはいいものだぞ?>

 「グルウ……」

 

 サージュが言っても広場で寝そべったり、あくびをしていたりして興味が無さげだ。サージュがやや残念そうな顔をした瞬間、シュナイダーとラディナが前へ出た。


 <む?>

 「わんわん!」

 <ふむ、それで持ってきていたのか? やるではないか。よし、頼むぞ、シュナイダー、ラディナ>

 「ぐるう」

 「わふふん」


 サージュがシュナイダーと何やら会話をした後、自信ありげに魔物達の前へ行く。口には先ほど見たハンバーグを咥えていた。

 そのまま、魔物達の集団の前に行くと警戒した数頭が立ち上がり構えを取る。魔物同士で喧嘩していないのはタンジさんの訓練と、食事がしっかり出るので争う必要が無いからだ。

 そこへ現れるよそ者二頭。もしかして戦って屈服させるのか? 固唾をのんで見守っていると、シュナイダーが一声鳴いた。


 「あおおおおおおん!」

 「ガルウ……!」

 「あ、真っ赤な牙をした魔物がシュナイダーに!?」


 マキナが慌てるが、あのライオンに似た魔物は攻撃をするために動いたわけではないらしい。


 「わおん、わふわふ」

 「ガル……? ガル……」

 「わふ!」

 「ガ、ガル!?」

 

 するとライオンもどきはシュナイダーに何かを言われ、ハンバーグを少し口にする。


 「全部食べるなって言ってたよー?」

 「あいつまさか――」

 「ガウ! ガウウ!」


 俺がピンと来た瞬間、ライオンもどきの目が輝き、他の魔物に振り向いて叫んだ。すると顔を見合わせた魔物達がゆっくりハンバーグに近づき少しずつ口にする。ラディナからも貰った魔物達は各々面白い反応を見せ、シュナイダーがドヤ顔で尻尾を振る。


 そして全員が食べた後、シュナイダーが俺の下にやってきてさらに一声。すると、ずらりと俺の前に勢ぞろいをしたのだ。


 「どうしたんだ一体……?」

 「うーん、ラース君と仲良くなったら美味しいご飯が食べられるって言ってたよー」

 「あいつ……!」

 

 俺がシュナイダーの頭をぽかりとやろうとしたが、それをサージュが止めた。


 <まあいいではないか。毎日は無理だろうが、たまに出してやるだけでもいい。シュナイダーとラディナもお前の役に立ちたかったのだ>

 「ひゅーん……ひゅーん……」


 森のハンター、ヴァイキングウルフが伏せをして耳を下げるのを見て嘆息する。まあ、俺の為にってあたりは好感が持てるので拳骨の代わりに頭を撫でてやった。


 「晩御飯を残してまで考えてくれたんだし、確かに怒るのは可哀想だな。ありがとう、シュナイダー

ラディナ」

 「わおん♪」

 「ぐるう♪」

 「くおーん♪」

 「あー、ラース兄ちゃんアイナも撫でてー」


 という訳でこの後はきっちりお風呂にも入ってくれ、距離が近づいた。餌で釣るのはあまり良くないと言うが、どうやらシュナイダーがリーダー風を吹かせているようである。伊達に集団のボスだったわけではないということか。


 そして計画が進む最中、正直忘れかけていたサンディオラ出身の犯罪者達について進展があった。

 なんと……国王自ら引き取りに来たのだ――

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