ラースとマキナの新しい力編

第三百四十八話 計画開始!


 「――というわけでもう少し兄さんやアイナをうちで預かるよ」

 「おお、構わないぞ! こっちは急ぎの仕事はないからデダイト達がいいなら大丈夫だ」

 「アイナは邪魔になってない?」

 「大丈夫。うちで飼っている魔物と仲良くやっているよ」

 「あら、そうなの? サージュはもう飽きられちゃった?」


 俺の言葉に母さんがいじわるな笑みを浮かべ、肩に乗っているサージュをつつく。


 <……問題ない。我やラース以外の者に興味をもつことはいいことだからな。……ぬう、よさぬか母君>

 「ちょっと寂しそうに見えたけどね? 大丈夫よ、赤ちゃんの時から一緒のサージュが一番だから」

 「ま、そんなわけだから、用事が済むまで遊んでくれよ」


 ウルカを送った際、父さんと母さんに兄さんたちのことを話し、もう少しウチに居ることを伝えると苦笑しながら承諾された。まあ、元々兄さんが手伝わなくても、昔は父さん一人でやっていたのだから当然か。

 

 そしてウルカが帰ってからすでに五日。

 まだ国王様から連絡は来ておらず、穏やかな日々を過ごしていた。バスレー先生が言うには土地の件が少し難航しているとのこと。まあ、兄さんたちには悪いけど急いでいるわけじゃないからゆっくり待とうと思っていると、ヘレナが嬉しそうに訪ねてきた。


 「いやあ、ウルカが帰ってからミルフィが変わったのよう! あの子、今までアイドルになりたいけど、才能がないってよくぼやいていたのよ。だから、ウルカと出会ってもしかしたら辞めちゃうかなって思ってたんだけどねえ。だけど、何か約束をしたみたいで、急にはりきっちゃって! アタシに負けないくらいのアイドルになるって意気込んでいたわあ」


 ヘレナいわく、才能がないのではなく周りと自分を比べて限界を勝手に決めていたようにみえたのだとか。ミルフィは真面目なのでレッスンについていくことはできていたし、歌も踊りも平均以上。

 しかし、どこか自信がなさそうに演技をしていたりするので、オーナーや俺達も見たことがない座長の目には止まらなかったらしい。加えて先輩を敬いすぎる節もあったそうだ。


 「あれはすぐにステージに立てるかもね! アンシア以外にライバルができるのは楽しいわねえ」


 そう言って劇場へ向かうヘレナは心底嬉しそうだった。

 初代アイドルとしてずっとやってきたが、ミルフィだけでなく、他のアイドルもヘレナ達を神格化しているのか、敬ってくれるが乗り越えようとするほどの気概がある者は多くないらしいので、ミルフィの成長は嬉しいのだろう。

 

 「ウルカ、何を言ったのかな?」

 「こればっかりは本人しか分からないよ。でも、去り際のウルカもいい顔をしていたし、お互い何か決意したんじゃないかな?」

 <友達が幸せになるのは嬉しいものだな>

 「サージュは結婚しないのー?」

 <ドラゴンは山奥に住んでいたりするから探すのも大変だ。なに、我は長生きだ、ラース達が寿命をまっとうしたあたりで探しても遅くはない>

 「とかいって、俺達の息子に構ってずーっと探さなかったりして」


 俺の言葉に<かもしれんな>とサージュが笑い、俺たちもつられて笑う。今日は何をして過ごそうかと、相変わらずアッシュにべったりなアイナを見ながら考えていると、玄関が勢いよく開けられ、バスレー先生が飛び込んでくる。


 「お待たせしましたー!! 敷地の拡大と、お金用意できました!」

 「「来た!」」


 俺たちはガタガタと椅子から立ち上がり色めき立つ。

 

 ――そこからは早く、敷地の整備に厩舎や柵、檻の製作を業者に発注。これは事前にバスレー先生が手を回してくれていたので着手までスムーズだった。

 やはり大臣の肩書は強く、俺が交渉する場合は渋られることもありそうだと一緒に行ったとき感じた。

 そして柵や檻はというと……


 「またおめえらか!? いや、全然いいんだけどよ、どんどん規模がでかくなってねぇか?」

 「まあまあ、報酬はきちんと払ってるんですからいいじゃありませんか」


 そう、ダイハチだ。

 今回はダイハチの言う通り規模が大きいので、ほかにも職人さんが都合を付けて手伝ってくれる。俺が書いた完成図を確認して、更地になる前にできるものは作成に取り掛かってくれた。


 「へへ、いよいよだな。年甲斐もなく興奮してきたぜ。俺はどうすればいい?」

 「基本的には今まで通りだけど、午前中は俺、マキナ、ノーラの三人と一緒に魔物たちを鍛えなおす時間を使いたい。模擬戦や躾とかかな? で、向こう側から新しく檻と厩舎を作っていくんだけど、できた先から魔物たちの引っ越しを手伝って欲しい」

 「オッケーだ。……あれ? テイマー施設って俺が責任者だったような……」


 タンジさんが首を傾げながら魔物たちに餌やりのためこの場を離れていく。そこで兄さんが話しかけてきた。


 「僕はどうしようか?」

 「兄さんは引っ越しの時に【カリスマ】で、ノーラと一緒に移動を手伝ってもらおうかな。それまではアイナから目を離さないよう面倒を見てくれる?」

 「うん、わかったよ」

 

 兄さんは笑顔でうなずき、ひとまずノーラの下へ移動する。


 「ラース兄ちゃん! アイナは何をすればいいのー?」

 「くおーん!」

 「!」

 「にゃーん」


 次にやってきたのはアイナのお子様チーム。しかし残念ながらやることが……あ、いやないこともないか。


 「それじゃあアイナは臭い魔物をお風呂に入れてやる係だ。ファスさんと一緒にできるかい?」

 「はーい!」

 「危なくない魔物だけでええのか?」


 流石はファスさん。俺が口にせずとも意図を汲んでくれたようだ。

 

 で、俺は全体の進捗の確認と相談の受付。それとマキナと一緒に、工事に関わる人に食事を用意する係として動くことに決めた。


 「あのアイアンコングって魔物、鍛えがいがありそうね。キングビートルっていうかぶと虫の王様みたいなのも強そう」

 「こうやってみるといろいろな魔物がいるよな。あ、父親の雪虎が標的にぶつかってる。あいつも頑張ってるな」

 「あとはニビルさんが手伝ってくれたら完璧ね! あ、サージュ広いせいかちょっと大きくなってない?」


 マキナとそんな話をしながらプランを練っていると、不意に声をかけられた。


 「ラース君、わたしは何をすればいいですかね!」

 「ぐるる」


 バスレー先生だった。

 ラディナにまたがり、ご満悦の表情で俺の肩をたたくが――

 

 「え? バスレー先生は城での仕事があるんだから手伝いの数に入れてないよ……?」

 「ノウ!?」

 「あはは……混ざりたかったのね」

 

 妙な声を上げてラディナからずり落ちるバスレー先生を見てマキナが頬を掻きながら苦笑する。いや、実際大臣の仕事は忙しいだろうから、外したんだけど、むしろ喜々として関わってこようとするとは……


 そんな感じでスタートした魔物の園改造計画。


 さ、これから忙しくなるぞ!

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