第三百四十話 壮大な計画


 「あはははは! ラディナこっちだよー!」

 「ぐるう」

 「わふわふ……」

 「凄い元気ねえ……」

 「ふふ、父親の雪虎はもう限界みたいだけどね」


 さて、広場で暴れ回っているアイナはとりあえず魔物達を引っ込めたので臭くなくなったようで、ラディナやシュナイダーとぶつかり合ったりして楽しそうに遊んでいる。どうやら雪虎は全身からほのかに冷気を放っているせいか臭いは無いらしい。

 それはさておき、俺はすでにグロッキーになっているバスレー先生に声をかける。


 「そういえばどうしてここにいるんだい? 今日は普通に夜まで仕事だって言ってなかった?」

 「ぐふう……子供体力、侮りがたし……。ふう、少しいい運動ができましたかね……。ああ、ここに来た理由ですね? 陛下が呼んでいます!」

 「雑過ぎる!? ……ラースも大変だね、バスレー先生が居候で……」

 「なんですかウルカ君! わたしをダメ人間と言いましたか!?」

 「くおん!?」


 自覚はあるのかと俺はウルカに食って掛かるバスレー先生の肩を押さえて止め、話を続ける。国王様が呼んでいるならさらに好都合だ。あと、大声でアッシュがびっくりして起きてしまった。


 「マキナ、アッシュをお願い。バスレー先生、このテイマー施設なんだけどまだ土地があるよね? 広げることはできるのか?」

 「ふお? まあ、土地は国有ですしやろうと思えばできますかね。それがどうかしましたか?」

 「なるほど……手続きは?」

 「資産管理の部署があるのでそこで申請、ですねえ。なんですかなんですか? また面白いことを思いついたんですか?」

 「まあ、そんなところだよ。今、テイマー施設を改めて見せてもらってたんだけど、いつも通りの閑古鳥だし、ノーラの言う通り魔物も退屈だからだらしないことになっている。俺もテイマーの資格があることだし、何とかしたいと思ってさ」


 マキナの手の中で大あくびをするアッシュを撫でながらそう言うと、ヘレナが腰に手を当てて口を尖らせて口を開いた。


 「もったいぶらないで教えなさいよう。ラースのことだからまたとんでもないんでしょうけど?」

 「まあ、ラースだからね」


 兄さんも苦笑しながら同意し、俺は不本意ながらも咳ばらいをひとつして計画をみんなに告げる。


 「このテイマー施設全体を改造して、お客さんを呼んで見てもらおうと思う」

 「お客さんを……!? この施設のことを思ってくれるのは嬉しいが、どういうものなんだラースよ?」  

 

 タンジさんが腕を組んでよく分からないから説明しろと催促してくる。興味はあるみたいなので助かるな、タンジさんがダメだと言えばそこで計画は終わりだし。


 「動物園……あ、いや、魔物の広場って感じかな? 厩舎だけじゃなく、ある程度の広さの庭と柵をつけて外を出入りできるようにするんだ。で、お客さんに魔物達を見てもらうってわけ。入場料で大人五百ベリル、子供二百ベリルくらいで」

 「えー、わざわざ魔物を見に来る人いますかね?」

 

 俺の提案にバスレー先生が首を傾げるが、施設の長であるタンジさんと、兄さんは顎に手を当ててぶつぶつと何か考えを口にしていた。


 「多分、きちんとした目的を持たせればいけると思う。単純に恐ろしい魔物達を見る機会って早々ないから怖いもの見たさで来る人はいるはずだよ。それに、アッシュみたいな子魔物も居るから、普段動物を飼えない人は触りに来るかも」

 「おお、それにここは他のテイマー施設と違って雪虎みたいな珍しいやつも居るしな。それとどういう生態とか弱点みたいな魔物の説明をつけておけば冒険者も参考になるんじゃないか?」

 「ああ、いいねそれ! 見たことがない魔物の情報ってギルドの口コミくらいだし、いつでも見れるのは助かるよ」


 ウルカも笑みを浮かべて頷き、賛成のようだ。そこで俺はもう一つの利点を話す。


 「それに、これで魔物に興味を持ってくれる人がいたらテイマー希望者も増えるかもしれない。そしたら定期的にお金も入ってくるはずだ」

 「そうだねー。この子達も見られるから怠けなくなるかも? お金はどうするのー?」


 ノーラの言葉にみんなが確かに、という顔で俺を見る。まあ、提案者なので、俺のお金を使うことも視野に入れているけど――


 「それはこれから国王様に話をしてから、かな? 援助資金は出ているから、一度話をしてみようと思う。どうしても出ないようなら俺が出すよ」

 「うーむ、そこまでしてもらうわけにはいかんが……面白い計画だ」

 「まあ、わたしには分かりませんけどきちんと計画書を出せば資金を出してくれると思います。今から会いに行きますし、取り急ぎお話する感じになりますかね」

 「そうなるかな。今すぐにどうこうできる規模の話じゃないし、人手も必要だからね」


 そう言うとサージュが俺の頭に乗って話し出した。


 <ふむ、やはりラースは面白いな。少し気になることもあるが、まあそれは後でいいだろう。王が呼んでいるのだろう? 急がなくていいのか?>

 「あ、そうですね。ささ、ラース君行きましょう!」

 「そうしよう」


 とりあえず一通りテイマー施設は見終わったので、帰るつもりだったから移動自体は問題ない。そこで、ヘレナが声を上げた。


 「あ、アタシはそろそろ戻るわねえ。今日はお仕事なの。少しだけ寝て、劇場へ向かうわ」

 「そうですね。私も一緒に戻ります」

 「あ、そうなんだ。頑張ってねヘレナ、ミルフィちゃん!」

 「あはは、私はまだ見習いだからレッスンだけですけどね。それじゃウルカさん、また!」

 「うん!」


 ふたりは俺達に見送られて施設を出て行く。


 「それじゃ、行きましょうか。魔物達も向こうで預かってもらえるでしょうし、連れて行っても大丈夫です!」

 「ジョニーみたいに馬小屋みたいなのがあるのかしら……?」

 「……気になるけど、大臣の言うことだ、信じてみよう。悪いけど兄さん達も一緒に来てよ」

 「オラはいいよー!」

 「もちろんいいよ。アイナ、そろそろ行くみたいだよ」

 「わかったー!」


 兄さんがアイナに声をかけると、ラディナの背に乗ったアイナが手を振りこちらに向かってくるのが見えた。そこでタンジさんが苦笑しながら俺に言う。

 

 「あの子にも資格やらないといけねえかもな? そんじゃ、何か決まったら教えてくれ!」

 「わかった。期待しないで待っててよ」


 俺が片手を上げて笑って返し、そのままテイマー施設を後にする。

 国王様が呼んでいるのは多分例の件かな? 再び魔物達を率いて、俺達は城を目指した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る