第三百三十五話 ひとのことより自分のことを?
「あはははは、ウルカいい顔だったわねえ♪」
「心臓に悪いから止めて欲しいよ……ごめんねミルフィさん、ヘレナの悪ふざけに付き合わせて」
「い、いいえ! むしろ良かったというか、寝顔が見れたのは嬉しかったというか……」
「え?」
マキナとヘレナが、尋ねてきたミルフィをウルカの部屋へ引っ張っていき、耳元におはようと囁かせるという悪魔のような所業を行っていた。
目論見は見事成功し、寝ぼけたウルカがミルフィに気づいた瞬間額同士をぶつけるという場面があり、あわやキス寸前だったというのは俺とマキナ、そしてヘレナの三人だけが知っている。
「ごめんねウルカ。でも、久しぶりに学院時代みたいな感じでちょっと楽しかったわ」
「マキナまでそんなことを言うのかい? ラース、恋人はちゃんと止めてよ」
「悪い、俺もちょっと楽しかった……」
俺がそう言うとウルカは苦笑しながら『たまにラースも意地悪だよね』と俺の背中を叩いた。そこで後ろに居たノーラが笑いながら話し出す。
「オラもちょっと見たかったかもー。学院の時は本当に楽しかったよねー」
「まあ、そうだね。僕も自信がついたのはラース達のおかげだし、感謝しているよ」
「本当に仲がいいですね、羨ましいです!」
「う、うん」
ミルフィはウルカの横で微笑み、ウルカは顔を赤くして目を逸らす。うむ、少し自覚が出たようなので、ヘレナの無茶ぶりも無駄ではなかったようだ。
「まずは商店街からかい?」
「そうだね、町が広い分商店街も広いし、見どころはあると思うよ。広場も気持ちいいしね」
「広場は行ってみたいかも! チェルちゃんがセフィロを見つけたところだよね」
「後でアッシュ達とテイマー施設に行く時に少し寄ろうか」
「うん! アッシュ達はいい子でお留守番してるかなあ?」
アイナは俺を見上げて口を尖らせる。心配しているように聞こえるが、その実一緒に連れて行けなかったのが不満なのだ。しつけの一環で魔物達を家に置いて来たため、ここには俺達だけ。
ただ、ファスさんが若い者だけで遊んで来いと家に残っているので完全に置いてけぼりというわけではない。……もちろんサージュもだ。
「それじゃお昼の前に軽く商店街を見回りましょ♪ アタシ、服が欲しいのよねえ」
「あ、いいわね」
「うう……スタイルがいい二人はいいですね……」
「オラもちんちくりんだから羨ましい……」
女性陣は目標が決まったようで、固まって移動を始める。その後を追う形になり、俺はマキナに声をかける。
「マキナ、欲しいものがあったら言ってよ? たまにはプレゼントしたいし」
「ありがとう!」
「ふふん、まだまだダメねえラースは。そういうのはマキナが好きそうなものを選んでこっそり買ってから後で渡すのがいいのよう?」
「あー、確かにそういうのも嬉しいか」
流石はヘレナだと俺が苦笑しながら後ろ頭を掻いていると、俺の横でウルカが――
「……なるほど」
と、真顔で呟いていた。これは期待できる展開もあるか……?
「ラース兄ちゃん、デダイト兄ちゃんあそこ! 武器屋さん!」
「はは、アイナにはまだ早いんじゃないかなあ」
「アイナはもう木剣で戦えるもん! ティリアちゃんのパパもラース兄ちゃんに似て筋がいいって」
「ティグレ先生……」
今度帰ったらちょっと言っておかないといけないかもしれないと思いながらアイナを撫で、町の散歩を再開する。
服とアクセサリーに雑貨、武器屋にお土産屋とあっちにいってはこっちへ。面白いものがあればふらふらと店に入っていく。
「あ、あなたはアイドルのヘレナさん……!? う、うちのお店で服を買っていただけるとは……!」
「あはは、いいものはいいですからねえ。こっちの冴えないように見える男のラースはアタシ達の衣装をデザインしているわよ」
「ええ!? ラース=アーヴィング様!? ヘレナさんの恋人だったんですかあ!?」
「それは違います!」
「ラース兄ちゃんはアイナのだよ!」
服屋さんではヘレナがあっさり変装を見破られ、何故か俺に飛び火し、マキナが激昂する。アイナが不穏なことを口にしていたけどそれはスルー。
「指輪……」
「ラースはマキナといつ結婚するの?」
「い、いつでもいい気はするんだけど、マキナの修行もあるし、もっと【器用貧乏】を知ってもらうという目標が達成できたらかなあ」
「ふたりがそれでいいならいいけど、ラースの目標は人生いっぱいかかりそうだしマキナちゃんの継承が終わったらとかでもいいと思うけどね」
アクセサリー屋では兄さんに結婚のことを言われ、俺が答えると兄さんにやんわりと諭される。『逃げられないようにね』と遠回しに言われているようだ。
まあ、バスレー先生が居候していたり、ファスさんとの修行もあるからもう少し様子見かな? それでも二十歳までには結婚しようと思っているのはマキナにも内緒である。結婚指輪は……いい宝石が欲しい。
そんなことを考えていると、ウルカが真剣にアクセサリーを見ていることに気づき声をかけた。
「いいのがあったのかウルカ?」
「うひゃ!? ……ラ、ラース、驚かせないでよ」
「普通に声をかけただけなんだけど……随分集中して見ていたから欲しいのがあったのかと」
俺がそう言うと、ウルカはチラっと女性陣が集まってわいわいしている方を見た後、俺に尋ねてくる。
「ラースはミルフィさんと会ってから長いんだっけ……? どんなアクセサリーが好みとか知らないかな?」
ふむ……朝の件は結構効果があったようだ。明らかに昨日より意識している。ミルフィはアイドル志望というくらいだから可愛いし、少し突っ走る傾向があるもののウルカの素朴な感じととても合う。ここは手助けをしたいが――
「ごめんウルカ。付き合い自体はそんなに長くないから、プリンみたいな甘いものが好きって以外はあまり詳しくないんだ。ヘレナなら長いと思うし、聞いてみようか?」
「い、いや、ヘレナはまずいよ!? 朝の件、忘れたの!?」
「あ、ああ……」
ウルカが顔を赤くして、俺に詰め寄ってきたので後ずさる。ウルカは再び品選びに戻ったので少しだけ思案すると、こっそりマキナの下へ近づいていく。
「マキナ」
「依頼のお金が入ったし、ひとつくらいは……ってラース? どうしたのこそっとして」
「ちょっと――」
陰からマキナを呼び、事情を説明するとマキナはにっこりと微笑み、そのままヘレナの下へ向かう。幸い、ミルフィと別行動ををしていたので伝えるのに苦は無かった。そのままウルカの下へ行き、耳を三人のところへ向ける。さて、うまくいくかな?
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