第三百三十四話 平和な朝……?
「くおーん」
「ふあ……アッシュか……おはよう」
「!」
「にゃー」
「うーん……あっしゅぅ? おはようー……」
俺は頬に冷たいものを感じて目を覚ますと、目の前にぴこぴこと尻尾を振るアッシュが嬉しそうに頭を擦り付けてくる。次いでセフィロと子雪虎、そしてアイナが目を覚ます。魔物たちがベッドに来るから狭いというのに、アイナは兄さんのところではなく俺の布団に潜り込んできていた。
ちなみにサージュはリビングのソファで丸くなって寝ていたりする。
「くおーんくおーん!」
「朝は元気だなお前、はいはい起きるからちょっとどいてくれよ」
「アッシュ、アイナとちゅーしよー」
「くおーん♪」
ベッドの上でごろごろと転がるアイナと魔物たちを尻目に、俺は首を鳴らしてリビングへ向かう。すでに起きていたマキナとノーラが俺に気づき声をかけてきた。
「おはようラース」
「ラース君起きたー? あ、セフィロもおはよう!」
「♪」
「ありゃ、いつの間に」
いつの間にか背中に取りついていたセフィロが俺の肩に乗り、枝を振ってふたりに挨拶をしていた。
「おはよう二人とも。兄さんとウルカは?」
「デダイト君はまだ寝ているよー」
「今日は町へお出かけするだけだし、ゆっくり寝かせておいていいわよね。特にウルカはかなり消耗していたし」
マキナの言う通り、夕飯が終わった後、緊張が解けたせいかお風呂に入ったウルカは即座に寝入っていた。スキルは魔力を使うし、あの数を送ったのだから無理はないかもしれない。
「今は……九時か。十時くらいには出かけたいね、朝食と昼食は一緒でいいよね?」
「私は大丈夫よ、昨日たくさん食べているし、コーヒーだけあればね。ウルカは起きるかしら?」
「ウルカは……ミルフィが来たら起こしに行ってもらおうかな。女の子に起こされたらびっくりして目を覚ますよ、うん」
「あー、悪い顔してるー」
ノーラが口を尖らせながらそんなことを言うが、ミルフィは間違いなくウルカに好意がある。そしてウルカはそれに気づいていないので、なるべく接触をさせたいところだ。
「まあまあ、ノーラ、ラースにも考えがあるのよきっと。たぶんミルフィちゃんはもうすぐ来るし、ウルカは大丈夫かな? アイナちゃんは?」
マキナがそういうと、直後ドタドタと俺の部屋からアッシュと子雪虎、そしてアイナが笑いながら飛び出してきた。
「あはははは! 待てー!」
「こら、アイナ。まだ兄さんたちが寝ているから静かにしなさい」
「くおーん」
「にゃー」
「あ、そっか! はーい!」
アイナを軽く小突いてからアッシュを膝に乗せ、子雪虎をテーブルに乗せた。アイナも着席すると、マキナが俺のコーヒーとアイナのミルクを持ってきてくれる。
「プランはあるの?」
「んぐ……ふう、今日は昼に商店街でお土産探しとテイマー施設に行くつもりだよ。夜は劇場でヘレナの活躍を見る、ってところでどうかな?」
「さんせーい! オラ、ヘレナちゃんが歌って踊るの楽しみなんだー」
「一回だけ見たけど、あれはすごかったぞ。あ、そうだ、商店街に行ったら食材も買わないと。みんながいる間に新しい料理に挑戦してみようと思う。それとプリンもね」
「ぷりん楽しみ!」
ミルフィの説明でアイナとノーラがものすごく楽しみにしているのでこれは欠かせない。俺がなんの食材を買うべきか考えていると、程なくして兄さんが目を覚ます。
「おはようみんな。ちょっと寝すぎちゃったよ」
「なんだかんだで、俺たちが帰るまで起きてもらっているから仕方がないよ」
「仕事があるから、いつもは遅くまで起きてないからね……ふあ……ああ、シュナイダー達に朝食をあげないと」
まだそれほど日にちは経っていないけど、すでに兄さんの中で習慣になっているようで俺は苦笑する。あの三頭もずっと庭で窮屈だろうし、今日は散歩がてらテイマー施設へ行くときに連れていってやるつもりだ。
「うぉふ」
「あ、シューだ」
アイナが口を開くと、アッシュ達が庭に行くための小さい扉からシュナイダーが頭だけだして一声鳴く。するとあっという間にアイナ達に囲まれ頭を撫でられたり髭を引っ張られたりして散々な目に合い即退散。しかし、そこを通り抜けられるアッシュ達は遊んでくれると思ったのか、庭へ追いかけていった。
「あーあ、パジャマ汚れるなあ……」
「連れてきましょうか。……あら?」
マキナが肩をすくめて笑うと、ちょうどその時玄関で物音がした。恐らくミルフィだろうと、玄関を開けるとそこにはミルフィと……ヘレナが立っていた。
「おはようございます!」
「おはよう♪」
「あれ? ヘレナじゃないか、どうしたんだい? 痛っ!?」
俺が玄関に招き入れると、ヘレナは口をとがらせてから俺の肩をバシンと叩く。
「なあによう、今日はみんなでお出かけですってえ? ミルフィから聞いたわよ、なんで誘ってくれないのよう」
「ヘレナ、今日は劇場でお仕事でしょ? また休みの日でもいいかなって」
俺と一緒に出迎えに来ていたマキナが言うと、ヘレナは俺とマキナの首に腕を回してひそひそ声で話しかけてくる、視線はミルフィに合わせていた。
「……ミルフィはウルカが好き、いいわね?」
「ま、まあ、誰が見てもそう思うけど……それが?」
「で、今日はウルカも一緒に出掛ける……そんな面白そうなことに呼ばないなんて友達がいがないわって話よう」
「あはは……」
要するにヘレナは同僚の恋愛を見届けたい……ただし、生暖かい目で、ということらしい。そのためだけに朝早くから来たのかとマキナが笑い、そのまま続ける。
「まだウルカが寝ているから、ミルフィに起こしてもらおうかなって思ってるのよ」
「へぇー……いいわね! では早速……ミルフィ~ちょっとおいでえ?」
「? なんですか……ってヘレナさんのその顔……嫌な予感しかしないんですけど……」
鋭い。
しかし、マキナとヘレナはにやりと笑いミルフィを両脇に抱えて歩き出す。
「まあまあ」
「まあまあ」
「な、何ですか!? 私、どこに連れていかれるんですかぁぁぁ!?」
ウチの女性陣は仲がいいな、と思いながらその姿を見送る。数分後、ウルカの悲鳴が家に響いたのは言うまでもない――
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