第三百三十六話 気持ちの問題
「ねえねえ、ミルフィ。あなた、アクセサリーだったら何が一番好きかしらあ?」
「え? そうですね、私はやっぱりイヤリングですね。アイドルって動きが激しいからネックレスみたいなぴったりくっついているものより、動いたら一緒に揺れるやつが好きですね!」
「なるほど、イヤリングね!」
マキナが俺達にウインクをしながら大声で伝えてくれる。俺はウルカの背中を叩き、イヤリングコーナーへと向かう。さらに聞き耳を立ててヘレナの質問を聞いてみる。
「そういえばマキナがラースと付き合うことになった時、ラースがイヤリングを手渡したそうじゃない」
「え!? わ、私のことは今は関係ないじゃない!?」
「そうなんですね! いいなあ、ラース様ってカッコいいし、強いし優しいしで凄いって思います。他にも好きな人が居そうですけどどうでした?」
「他には二人いたのよねえ。でも、貴族なのにマキナひとりを選んだのよラースは。アタシとしては全員と一緒でも良かったと思うんだけどう?」
「わ、私も……今となってはそれでも良かったかもって思うけど……でも、私ひとりを選んでくれたのは本当に嬉しかった……って、私のことはいいのよ! ね、ミルフィは宝石とかはどうなの? 私はそんなに興味ないんだけど」
……何故かマキナと俺に飛び火して、マキナは顔を真っ赤にして話題を変える。俺も顔が熱い。
「んー、宝石はやっぱり高いですし手は出しにくいですね……もし自分で買うならエメラルド、とかですかね? あはははは、まだアイドル見習いだから目標ですかねえ」
「ヘレナちゃんは買えるー?」
「んー、まあまあかしらねえ♪」
エメラルドか……小さいものでも十万ベリルはする高価な宝石の代表だ。ウルカを見ると、力なく笑っているのでお金は足りないらしい。
「難しいか?」
「はは、流石にね。おっと、お金を出すなんて言わないでよ? そういうのでプレゼントは渡したくないからね」
俺の考えを見透かしたように先手を打たれ、俺は口を噤む。確かに同じ立場なら自力でプレゼントを買うだろうと納得できるので、これ以上何か言うのは無粋だろう。
「でも、そういうってことは、ミルフィのこと少しはいいと思ってるんだ?」
「そうだね。会ってからそれほど経っていないけど、彼女は真面目だし可愛いと思う。自惚れかもしれないけど、多分僕のことが……す、好きだよね? グイグイ来るけど、僕みたいな性格には合っているのかもって思うんだ」
「だとしたら、しっかり掴まえておいた方がいいよ? 特にアイドルになったりしたら、ライバルも増えるだろうし。僕もラースが居たから負けまいとアプローチをずっとしていたくらいだよ」
別の場所で商品を見ていた兄さんが俺達のところへやってきて自身の体験談を口にする。確かに俺が気づいていたら別の結末があった可能性は高い。ウルカは一瞬考えこんだ後、イヤリングを手にカウンターへと向かった。
「アイナは何か欲しいものはあるかい?」
「んーと、アイナは大丈夫だよ! あ、でも、アッシュ達と同じ布が欲しいかも! シューやラディナ達にも買ってあげないと!」
「お、そういえばそうだな。よし、探すか!」
ちなみにシューとはシュナイダーのことで、全部言い切れないのかアイナはシューと略す。
その後、各々アクセサリーを買い、少し早めの昼食を取った。女性陣は目当ての服や小物の話で盛り上がり、俺達男性陣はそれを見て肩を竦める。これにルシエールやクーデリカが混ざったらもっと楽しいことになるだろうね。
そして王都の商店街をぐるりと回り、駆け足ながらも兄さんたちを案内し、食材やお土産などをたくさん手に一旦家へと帰った。
「いやあ、広いね。ガストの町の何倍だろう」
「オラ、楽しかったよー! お義父さんとお義母さんにもお土産いっぱい買えたしねー」
「装備品も興味深かったけど、サージュの胸当て以上のものはやっぱり無いね。僕達って運が良すぎるってつくづく思うよ……」
「でもいつか私もガストの町にも行ってみたいです!」
兄さんたちの満足気な感想を聞きながら、俺は一枚目の鉄格子玄関を開け、そのまま庭へと入って行く。
「ただいまー!」
即座に飛び出したのはアイナで、庭に居るであろうアッシュ達に声をかける。しかし、珍しく俺達の下へ来なかった。
「うぉふ」
「あ、シュー。アッシュ達は?」
「ふんふん……」
「なんだシュナイダー? ……何かあったのか!?」
シュナイダーは鼻を鳴らして『ついて来いと』俺の袖を引く。何かあったのかと思い、慌てて奥へ進むとそこには――
「くおーん……」
「にゃふー……」
「!」
ハンモックに揺られて眠るアッシュと子雪虎が目に入った。口元に食べかすがついているところを見ると、ファスさんに頼んでいたお昼ご飯を食べた後、お昼寝タイムに入ったらしい。
「あー、いいなあ……」
「アイナも寝るかい? テイマー施設に行こうと思ったけど、起こすのも可哀想だし」
俺がアイナの頭に手を置いて微笑んでいると、木の上からサージュが降りてきて口を開いた。
<戻ったか。今日は行かんのか? 夜しか活動できんから退屈なのだ。我だけでも連れて行ってくれ>
「うーん、一応バスレー先生は『ドラゴンでもラース君がテイマー資格を持っているから連れて歩いても大丈夫ですよ』とは言われているけど、こいつらを置いていくのも可哀想だろ?」
「ふふ、最初は敬遠していたのに、なんだかんだで動物が好きよねラースって」
と、マキナが笑う。確かにその通りで、前世では動物を飼うのは非常に難しかった。拾ってきた子犬をこっそり飼っていたことがあるんだけど、気づいたらあのクズな両親と弟に逃がされて居なくなっちゃんたんだよね……あいつ、どうしてるかなあ。
<ふむ、ではこやつらも連れていけば良かろう。よく寝ているし、そっと抱いていけばいい。話を聞いたが、ずっと庭に居るのだろう? 不満は持っていないがやはりたまには外へ連れ出してやれ>
「珍しく強引だなサージュ……オッケー、なら予定通りテイマー施設へ行こうか」
「あ、行くのー? オラ、魔物さんがいっぱいいるって聞いてたから凄く楽しみなのー!」
サージュの一声でテイマー施設へと向かうことになった。
「くおーん……ふしゅるる……」
「よっと……よく寝てるなあ。こいつ、良く懐いてるし可愛いよな」
「アイナちゃんも好きだけど、アッシュってやっぱりラースが一番好きよね。ベッドにもぐりこんでこないもの」
「確かにそうかも?」
「ネコちゃんも可愛いよー」
俺の腕にすっぽり収まりながらも目を覚まさないアッシュと、お腹を出して寝ていた子雪虎をアイナに渡し、シュナイダー達を連れて再び町へ繰り出す――
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