第三百二十八話 ことの真相①
「さてと、これで話しやすくなったな。それじゃ俺達の問いに答えてもらおうか」
「それよりヘレナちゃんとはどういう関係だぁぁぁ!」
「うるさいわね♪」
「痛嬉しい!?」
ヘレナ派だというチャックスへ笑顔の拳骨をくらわせ、黙らせるヘレナ。他二人が黙りこんだので俺は話を続ける。
「まず、主犯はマイドで間違いないな?」
「……そうだよ、僕がこいつらを誘ったんだ。警備の仕事をしているから劇場に忍び込めると言ってね」
「オッケーだ。で、どれくらいの期間やってたか聞かせてもらおう。それと、何をやっていたか、だな」
「そ、そんなことを聞いてどうするつもりだ! お、俺は話さないぞ!」
「隠すとためにならないわよう? ラースは古代魔法まで使える凄腕の冒険者なんだから」
にやりと笑うヘレナの言葉に、三人はごくりと唾を飲み込んで俺を見る。どうやら古代魔法の習得がどれくらいきついかは分かるらしい。するとマイドが観念したように口を開く。
「……はあ、僕は劇場に勤務をしてもう一年以上経つんだけど、ヘレナさん達アイドルとも顔を合わせたことがあるくらいは働いている。……だいたい一か月くらい前だっけかな、いつものように劇場の見回りをしている時、裏手に崩れた壁を見つけたんだ。そこで俺は友人のこいつらに自慢したくて、そこから招き入れたってわけさ。ま、まあ、アイドルの私物を持って帰ったのは、その……すみませんでした……」
「アタシを襲おうとしたこともねえ?」
「え!? 大丈夫だったの!?」
「全然余裕よ? これでもオブリヴィオン学院三十二期生Aクラスのヘレナちゃんだもの♪」
まあ、何気に学院時代の戦闘力だけならウルカよりも強かった時期があるから戦えなくはないと思うけど、ファスさんと組んでもらっていて良かったというところか……
「アンタは? アンシアに言っちゃおうかなあ?」
「う……す、すみませんでしたぁぁぁぁ……!! それだけはご勘弁を!!」
ヘレナが怖い微笑みをしながらハンザを突くと、ハンザは頭をガンガン床にぶつけながら謝罪する。そこで、ミルフィもウルカの後ろから声を出した。
「そっちの人は何も盗んでいなさそうですけど……」
「それでも不法侵入だから罰は必要だよ、ミルフィさん。ラース、この人たちの処遇は?」
「クライノートさん預かりだろうね。俺達の本来の仕事とはちょっと外れているけどさ。で、本来の仕事である幽霊調査だけど、ミルフィ達が幽霊を見るようになったのも一か月くらいかな?」
とりあえず生身の三人はクライノートさんに突き出す方向でいいだろう。次は幽霊達の話を聞くかとミルフィへ幽霊が出だした時期を尋ねてみる。
「え? あ、そうですね! そう言われればそれくらいだと思います! ってことは――」
【うん……この人たちが荒らしている、のを……伝えたくて……みんな、と……】
【まあ、そういうことですね。しかし、これだけはっきり姿が出せて喋れるようになるとは思わなかったなあ】
ウルと、俺達の前に現れた細身の幽霊が頷きあっていると、ファスさん達と一緒にいた小太りのおじさん幽霊ががははと笑いながら言う。
【まったくよな! 死んでからむこうフラフラしてたが、アイドルなんて面白いモンが見れるようになって楽しくなってたってのに騒動を起こされちゃたまらねえよ】
「うーん、幽霊の方がちゃんとしたファンっぽいわねえ。着替えを覗いたりしていないでしょうねえ?」
「あ、気になるのそこなんだ……痛いっ!?」
幽霊がふわふわと動き出したので、マキナがサッと俺の後ろに隠れながらそう言うと、ファスさんにお尻を叩かれて飛び上がっていた。
「こりゃ、さっきの今ですぐラースの裏に隠れるでない。他に幽霊はおるのか?」
【えっと、後五十人くらい、いるかな……でも、わたし達みたい、に……はっきり意思が残っている……幽霊は……あまりいない、かなあ……】
【まあ、仕方がないでしょう。だんだん、我々のような存在はあやふやになっていきますから……】
肩を竦めながらいつか自分も消えるのでしょうと細身の男が呟き、ウルと小太りのおじさんが深く頷く。
百年は経つ劇場だし、幽霊自体はもともといっぱいいたようだけど、概ねひっそりとしていたらしい。しかし、アイドルライブが劇場で始まり、幽霊たちのお楽しみコンテンツになっていたところ、この三人の悪行を許せず何とか伝えようとした、ということである。
<幽霊の方が立派ではないか>
「うう……」
サージュに呆れた声を出され、三人は小さくなりがっくりを肩を落とす。好きなものに執着するのは悪いことではないけど、常識を持って欲しいものだ。
「そ、それじゃあ、クライノートさんのところへ行って帰るのね? 出かけていたみたいだけど、居るかしら」
【わたしも、いくー】
「ひあん!?」
ウルが笑いながらマキナの頭上を飛び、変な声を上げるマキナ。すると、ウルカが手を上げてウルへ話しかける。
「ねえウル。その、さまよっている幽霊達を僕が送ってあげたいんだけど、集められるかな?」
【え? た、ぶん……。いいの、かな?】
「もちろんだよ! 僕のスキルはそのためにあるからね」
【いい坊主だなおめえ……よっしゃ、俺も手伝うぜ!】
小太りのおじさんが鼻をこすりながら笑う。現時点ではウルカにしかできないことだし、幽霊にとっても彷徨うよりかは成仏した方がきっといい。俺みたいに、どこかで生まれ変わる可能性もあるしね。
「それはまた後日にして、今はクライノートさんのところへ行こう。三人の処遇を決めて貰わないといけないしな」
「分かった。ウル達にはまた協力してもらうよ」
「よかったねー……アッシュ……」
「くおーん」
「ああ、アイナは限界か。俺が背負うから、三人を頼むよ」
大人しいなと思っていたら、アイナはアッシュを抱っこしたままうとうとしていた。俺はアイナを背負い、ウルカとサージュ、それとファスさんに三人をお願いしてクライノートさんのところへ向かう。
その途中、俺は侵入してきた壁の崩落について聞き忘れていたことを思い出し尋ねる。
「そういえば、マイドだっけ? その崩れた壁ってどのあたりなんだ?」
「ああ、裏口にある受付からさらに奥へ行くと、茂みがあるんだけどそこを抜けた先に宿舎を覆う壁があるんだ。そこの劇場側の壁が崩れて、通り抜けられるようになっていたんだ。この通路をまっすぐ行くと宿舎へ続く扉の近くにある倉庫と繋がっているよ」
「あそこかあ……でも、そんなに壁って古かったかしら……」
ミルフィが首を傾げて考え込むと、ヘレナも口を開く。
「そうねえ。倉庫の壁が崩れるってよほどのことじゃないかしらあ?」
<百年の建物とは言え、すぐ外になる壁ならきちんと施工してそうだな、確かに>
怪しくないか? と、ヘレナの言葉に訝しむサージュ。調べておいた方がいいかと思った次の瞬間――
「うわあああああ!?」
と、向かっている方角から悲鳴が聞こえてきた。
「今の声は……」
「クライノートさんだ! 何かあったのか? マキナ、アイナを頼む!」
「あ、ラース!」
俺はアイナをマキナに預け、レビテーションで一気に廊下を飛んでいく。クライノートさんの部屋の扉が開いており、中から灯りが漏れている。
そして――
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