第三百二十九話 ことの真相②


 さっきの悲鳴は間違いなくクライノートさんだった。声は事務所から聞こえてきたし、部屋にいるのだろう。

 しかし、静かとはいえそれなりに距離がある廊下に響き渡ってきた声は命の危機があることを知らせるに十分だ。俺は全速力で事務所へ到着すると、開けっ放しになっている部屋の中を覗く。


 「き、貴様等、一体何者だ……? それにどこから入って来た

 「うるさい! 俺達の質問にだけ答えろ。なあ、儲かってるんだろ? それを俺達にちっとばっかし恵んでくれねえか?」

 「居心地の悪い王都に暮らして一年……この時の為に計画を練っていたんだ、大人しく俺達に金を出すなら良し。抵抗するなら死んで奪うことになるぜ?」

 「くっ……」


 中には目出し帽を被った男二人が、尻もちをついているクライノートさんにダガーを突き付けて喋っていた。強盗目的か……俺に背中を向けているので二人くらいなら制圧するのは難しくないか。

 俺はインビジブルで近づくかと考えていたその時、強盗の内一人がとんでもないことを口にした。


 「今日は大丈夫なんだろうな? 昨日から冒険者が幽霊騒動の調査で劇場に居るみたいだが……」

 「ああ、例のアイドルのファンってやつだっけか? あいつらがウロウロしているからそっちに気を取られているみたいだ。ったく、人の作った抜け道を勝手に使いやがって……うまく利用させてもらったが、イラつくぜ」


 こいつらが倉庫の壁に穴を開けていたのか……! マイドはたまたまそれを発見して自分たちが使ったというわけだ。一年も歳月をかけるってことは本来は倉庫の壁はかなり強固なものなのかもしれない。

 

 「おら、早くしろよ! ぐずぐずしている暇はねえんだ!」

 「そうだ、アイドルの衣装もいただくか。あれもマニアに高く売れそうだ」

 「馬鹿なことを……あれは特注品だ、売ればすぐに足がつくぞ」

 「なら、遠い国で売れば問題ない。貴族のお嬢様あたりが買ってくれるさ」

 「あれはレオール経由でラース殿に無理を言って作ってもらっているものだ、死んでも渡せんな!」


 そう言って男たちを睨むクライノートさん。物凄く嬉しいセリフだが、強盗相手にそれはマズイ……!


 「そうかい、なら殺して奪い取る、か……!」

 「ははは、どのみちそのつもりだったくせに」

 「ひっ……!」


 片膝をついていた男がクライノートさんの胸倉を掴んで逆手に持ったダガーを振り下ろす。すでに俺は振り下ろされるダガーを持つ腕を掴む。


 「な!? う、動かねえ……!?」

 「どうした? ……うお!?」

 「ふう、まさか裏で強盗が居たとは驚いたよ。クライノートさん、大丈夫?」

 「おお! ラース殿!」


 すでにインビジブルで接近していたので、ダガーをもった男の腕を捻りあげ、もう一人の男を蹴り飛ばす。もちろん蹴った方向は入り口付近……それはすなわち――


 「マキナ! 今転がっていった男、拘束してくれ!」

 「オッケー! 生きている人間なら怖くないもんね!」

 

 ちょうど到着したマキナの気配を感じた俺が声をあげると、生き生きとしたマキナが陰から現れて目出し帽の男を組み伏せた。

 

 「なるほど、さっきの悲鳴はこいつらが襲撃してきたからか。しかし残念じゃったのう、ワシらがここにいたことが運の尽きじゃったな」

 「貴様等……ホールに行ったのでは……」

 <ふん、どういう想定をしていたか分からんが、浅はかだな。まして強盗など愚かしいことよ>

 「……」


 問いかけたサージュには驚きもせず、睨みつける男。分かったふうな口を聞くな、そう言っている目だが強盗などをしている時点で理由はどうあれ言えたことではない。

 そんなことを考えながら、俺はクライノートさんを立ち上がらせて口を開く。


 「とりあえず間に合ってよかった。こいつらは想定外だけど、幽霊騒ぎの真相は見えたよ。警備の人間が主犯だった」

 「お前、マイドか……!? 真面目だったお前がどうしてそんなことを……」

 「……」

 「アタシを襲おうとしたわよう?」

 「むう……」


 クライノートさんが渋い顔をしてファスさん達が捕まえているマイド達を見る。その後、続けて幽霊達を見て話を続ける。


 「で、この三人が劇場で出ていた幽霊なんだけど、他にもいっぱいいるらしい。まだやることはあるんだけど今日のところはこの三人を引き渡す形でいいかな?」

 「もちろんだ。その賊の件もあるし、早速自警団を呼ぼう」

 

 ――この後、倉庫の壁を塞ぎ、再度念入りに劇場を探索をして問題がないことを確認して今度こそ騒動が終わる。それにしても一年もの歳月を費やしてあっさりと捕縛されるとは運がない。というよりも、やっぱり悪いことはできないものなってことか。

 しかし、この賊達が別の騒動の引き金になるのだが、それは今の俺に知る由は無かった――

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