第三百二十七話 ダメ人間の集まりか


 「うおおお、美少女に組み伏せられているだと……!? 痛い! ……嬉しい……痛い!?」

 「うううう!」

 「くおん! くおん!」


 太っちょの男を組み伏せて腕をねじり上げている涙目のマキナと男に吠え掛かるアッシュ。マキナが怖がっているのが伝わっているのか、珍しくアッシュが勇ましい気がする。


 「ありがとうマキナ。ごめん、ウルカこいつを拘束してもらえるか?」

 「うん。もちろんだよ、マキナについててあげてオーグレさん、頼むよ」

 「……」


 ウルカが指示を出すと、背後に控えていたスケルトン。昔、対抗戦でも出していたのを思い出すがそれはまずい。


 「いやあああああ!?」

 「うああああ、折れる折れる!?」

 「ウルカ、そのスケルトンを引っ込めて! マキナ、大丈夫だから」

 「ご、ごめん……つい!? オーグレさん、戻って!」

 「ウルカさん、意外と目の前のことに集中しすぎるのかしら?」


 ミルフィもスケルトンを見て顔を青くしながらぼそりと呟く。言われてみれば【霊術】を使う時はそういう側面があるような気が……。

 それはともかく、ウルカは慌ててスケルトンを消し、その間に俺はサージュとセフィロに言う。


 「サージュ、セフィロ、そいつを捕縛してくれ」

 <承知した>

 「!」

 「おわあ!?」


 逃げ出そうとしていた太っちょの男にサージュが尻尾を絡みつかせ、セフィロの枝で両手を拘束する。そこへ腕組みをしたアイナが声を上げた。 


 「アイナも手伝うね! アッシュ、猫ちゃん、かかれー! 悪いことをしたらダメなんだよ!」

 「くおーん!」

 「ああああ!? こっちは金髪幼女ぉぉぉぉ!?」

 「にゃあああああ!」

 「ぎゃあああああ!?」


 とりあえずあっちはサージュとウルカが居てくれるから問題ないので、俺はマキナを手元に引き寄せて背中を撫でる。


 「うう……ガイコツ……」

 「あれはウルカが呼んだやつだから大丈夫だよ。ごめん、怖いのに無理させたね。依頼だから頑張っているかと思って……」

 「ラースぅ……」


 しばらく抱きしめていると、マキナの震えが止まりそっと顔を俺に向けて口を開く顔は耳まで真っ赤だった。


 「と、取り乱してごめんなさい……もう、大丈夫よ」

 「分かった。ほら、手を繋いでおこう」

 「うん……」


 元気なマキナが醜態をさらしたからか、項垂れて俺の手を握る。その力は弱々しい。落ち着いたようなので、セフィロの枝をもらって太っちょの男を突いていたアイナをどかして声をかけた。


 「ぐふ……は、鼻は止めてくれ幼女……」

 「これでふたりだな。後は警備のしている男ってことでいいのか?」

 「……くっ……あいつは何をやっているんだ……警備の仲間を眠らせているはずじゃなかったのか!?」

 

 眠らせ……? 俺が訝しんでいると、少女の幽霊がスッと降りてきて口を開く。表情やや怒っているような感じだ。


 【あなた……今までも侵入、していたよね……? 鍵を開けて、アイドルの私物を盗んだりして……】

 「そ、そんなことをしてたんですか!? あ、そういえば物が無くなるってそういうこと……」

 「お、俺は知らないぞ!? ハンザ、お前か!? 劇場内を見るだけだって言ってたのに!」

 「う、うるさい! チャックス、お前だってアンシアちゃんの使っていたコップとか欲しいだろ!」

 「俺はヘレナちゃん派だ……!」


 醜い口論が始まり、色々と喋ってくれる。

 太っちょのハンザは余罪がありそうで、細身のチャックは純粋にアイドルが好きで盗みなどはしていないようだ。


 「あいつはどこだ! 出てこいマイド! 劇場に入れるんだとか自慢していたあいつのせいだ!」


 元凶は友人である警備の男で、名をマイドというらしい。後はそいつを探して騒動の全部を解決に導かないといけない。だいたいわかるけど、ひとつ気になる点がある。


 【まったく、ファンの風上にも置けないよね……】

 【う、ん……こんなことをすればアイドル達がしばらくライブを止めたり……するって、考えない、のかな?】

 「ウルちゃん達も見てくれていたの?」


 そう、この幽霊達だ。

 元々の依頼は幽霊が出る、というものだったのでこの幽霊達からも話を聞かなければならない。何かミルフィが名前で呼んでいるけど、仲良くなったのかな? だとすれば話は早いかもしれない。


 「はあ……とりあえずお互いを罵っても寂しいだけだから止めなよ。警備の男、マイドだっけ? そいつを探しに行こうか」

 「そうしよう。幽霊さん達、悪いけどそっちの女の子は幽霊が苦手だから、僕の後ろに居てくれるかい?」


 ウルカの言葉に素直に従い、そそくさと移動する。ミルフィが少女の幽霊と打ち解けているところを見ると、生きている人間より聞き分けがいいなと思う。


 「それじゃ、まずはヘレナ達と合流しようか。警備の仕事なら専用の部屋もあるだろうからそっちへ――」

 「いや、探す必要はないぞ」

 「え?」


 すると、舞台側からファスさんの声が聞こえ俺達は視線を舞台に向けると、袖からファスさんとヘレナ、そしてロープに巻かれた男にと……小太りのおじさん幽霊が現れた。


 「さっきの悲鳴はやはりマキナか。確かに怖いと言っておったが、そんな体たらくでは先が思いやられるわい」

 「す、すみません師匠……」

 「まあ、苦手なものがあるのは仕方がないがのう。ただ、冒険者ならアンデッドはつきものじゃし……」

 「まあまあ、ファスおばあちゃん。マキナも頑張って克服するわよ、きっとねえ? とりあえず今はそれどころじゃないでしょう」

 「そうじゃな。そっちも一波乱あったようじゃな? こっちもほれ」

 「ぐ……」


 ファスさんがロープの男を引っ張ってくると、男は忌々しいとばかりに睨みながらうめき声をあげる。さらに、その様子を見ていたチャックスとハンザが声を揃えて口を開いた。


 「「あ!? マイド!!」」

 「お、お前達……!?」

 <なるほど、どうやらアレが主犯らしいな。これで全員か?>

 「あ、ああ……よ、よく見たらド、ドラゴ……ン……?」

 「お前ぇぇぇぇヘレナさんと一緒とはどういうことだぁぁぁぁぁ!?」


 ヘレナ派のチャックスが怒り心頭だが、これで全員捕縛完了かと安堵する俺。上手くできすぎな気もするけど、一網打尽にできたのは良かったかな。俺達は三人を舞台の中央へ集め、取り囲んで尋問を始める。

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