第三百二十四話 劇場の幽霊


 ――ラース達と別れ、ウルカ達は二階の大ホールを目指していた。昨日女の子が出てきたところを最初に調べるのはごく基本的なことだ。今日は話を聞くと意気込んでいるウルカにミルフィが話しかけてくる。


 「ウルカさんってヘレナさんやラースさん達と同じ学院だったんですよね?」

 「ん? ああ、そうだね。ヘレナは一年の途中でこっちへ来たからほんの少しなんだけどね」

 「あ、そういえば言ってましたね! でも、みなさん仲がいいですよね」

 「まあ、僕たちは対抗戦や騒動で結束力が高いからね。だいたいラースが中心となってるけどさ。ヘレナがこっちへ来たのもアイドルをラースが考えたから対抗戦のダンス競技を見た人がスカウトしたんだ」


 ウルカがその時のことを思い出して笑う。それが本当に楽しかったという表情だったので、ミルフィも微笑む。


 「そういえばラースさんって貴族っぽくないですけど、昔からああなんですか?」

 「うん。色々あったみたいだけど、ラースはずっと優しいかな。ミルフィは知っているか分からないけど、ラースって物凄く強いんだ。でも、嫌味なところが全然なくって驚くよ」


 すると前を飛んでいたサージュが振り返り口を開く。


 <まあ、Aクラス全員面白い者ばかりだな。ラースはその中でも面白い。ミルフィとやら、知り合ってからすでに色々あったと推測するがどうだ?>

 「あ、はい。というかドラゴンさんにもびっくりですけどねー……。プリンやハンバーグ、唐揚げみたいな新しい料理を食べさせてもらいました私。衣装のデザイナーもやっているし、テイマーだしでどこから驚いていいのやらって感じです!」

 <はっはっは、そうだな! ……唐揚げ……我はまだ食べておらんぞ……ハンバーグは美味だった……明日はそれを――>


 サージュがぶつぶつと独り言を言い出したのでウルカがミルフィへと話す。


 「あ、でもラースの彼女候補は止めておきなよ? マキナひとりって決めているみたいなんだ。本当は後ふたり、ラースが好きな子が居たんだけど、そのふたりは断ったんだよね……」

 「い、いえ、私はそんなつもり全然ありませんからっ! でも、あれだけ凄くて優しかったらそう思う人も多いでしょうね」

 「はは、そうだね。貴族だから何人いてもいいんだけど、そこは領主のお父さんに似たのかな? ひとりだけなんだってさ」

 「欲が無い人みたいですもんね。あ、そ、そうだ! ウルカさんはか、彼女とかいるんですか?」


 ミルフィが今なら自然な流れで聞けるとウルカに尋ねてみる。すると、ウルカは首を傾げ、瞬きを数度行い口を開く。


 「僕に彼女? はは、全然いないよ。ほら、僕って身長もあまり高くないし、男らしい感じもしないでしょ? ラースやリューゼのようにはいかないんだよね。せめてヨグスみたいな知的な雰囲気でもあればなあ。ま、今は冒険者の依頼が楽しいし、気長に探すよ」


 ウルカが頭を掻きながら照れると、ミルフィはチャンスだと笑みを浮かべ話を続けた。


 「あ! そ、それじゃウルカさんって、ととととと年下の子はどうですか!? れんあ……こほん……恋愛対象になりますかね!?」

 「え? 今なんて――」

 <ウルカ、到着したぞ。すぐ突入するか?>

 

 焦りすぎてどもったミルフィの言葉を聞きそびれたウルカが聞き返そうとしたところで、サージュが大ホールの扉の前でウルカに問う。


 「あ、話しながらだと早いね。もちろん突入するよ、僕が先頭でミルフィさんが二番目でお願い。サージュはしんがりを頼むよ」

 <承知した>

 「くっ……いいところだったのに……」

 <?>

 

 すれ違いざまにミルフィが悔しそうな声を上げ、サージュはそんなミルフィを不思議に思いながら一番後ろにつくと、ウルカはゆっくり扉を開け、隙間から様子を伺う。


 「……【霊術】」


 中は静まり返っており、ウルカは【霊術】で少女幽霊の気配を探る。すると、舞台の上でくすくすと笑う声が聞こえてきた。


 【うふふ……今日も来たんだね……】

 「居た……」

 「あ、あれが……幽霊? 私とあまり変わらないような……?」

 <よく見るのだ、影が無いだろう。それに足が地についていない>


 サージュが冷静に解説をすると、ミルフィが『ヒッ!?』と短く呟きウルカの腕にしがみつく。ウルカはそんなミルフィに微笑むと、すぐに深呼吸をして舞台に向かって歩き出す。


 「今日は逃げないんだね」

 【うふ……今日はお客さんが多いからね……】

 

 階段を降りながらウルカは少女に話しかけつつ舞台に近づいていく。今日は逃げる素振りは見せず、ウルカは何とか情報を引き出そうと続ける。


 「お客さん? 僕たちのこと? ……君は幽霊みたいだけど、自覚はある、かな?」

 【うん……わたしは……もう、死んでいる。分かっているわ……】

 <ふむ……レイナ達のように自覚はあるようだな>

 「みたいだね。最近、この子みたいに姿をみた女の子が怖がっているんだ。未練があってあの世に行けないなら手伝う。どうかな」


 ウルカがそういうと、少女は首を傾げて唇に指を当てて不思議そうな顔をする。紫のショートカットがふわりと揺れた。


 【わたし、女の子達の前に……出た、こと……ない、よ? あ、でも……あいどる、のライブ、だっけ? あれがあるときはこっそり天井から見てる、よ。その子は、まだ、見たこと……ない、けど……】

 「うう……わ、私だってすぐにステージに立ちます……!」

 「ふふ、ミルフィさんは可愛いしすぐヘレナに追いつくよ」

 「か、かわ!?」


 ミルフィの腕を掴む力が強くなるが、ウルカは気にせず少女の幽霊に問いかけを続ける。


 「僕の名前はウルカ。君は?」

 【わたし、は……ウル……】

 「ミ、ミルフィです……」

 <サージュだ>

 「それじゃ、ウルに聞きたいんだけど昨日はなんで逃げたの? それと他に男の幽霊が目撃されているんだけど、心当たりはないかな?」

 【えっと、ね……昨日一緒に居た金髪の人……あの人の、魂……強すぎるの……近くにいたらわたし、消えていた、かも……? うふふ】


 少し申し訳なさそうな顔をして首を傾げる。ウルカは胸中で『それが人間の方が怖いと言った理由か?』と考えるが、ウルは意外なことを口にする。


 【うふ……でも、多分少しずつ慣れていく、と思う……から、大丈夫……。あ、男の幽霊は、ね――】

 <……! ウルカ、舞台裏で物音がしたぞ>

 「うん、僕も聞こえた! オーグレさん!」

 

 物音と共に、何かが遠ざかっていく気配を感じたウルカ。手を地面にかざすと、床に魔法陣が浮かび上がり、そこからスケルトンが出てくる。


 「ひぃあああ!? が、ガイコツぅ!?」

 「ミルフィさん、大丈夫。彼はオーグレさんと言って僕が使役するアンデッドなんだよ。ごめん、オーグレさん。あっちから物音が聞こえてきたんだけど、追いかけてくれるかな?」

 「……」


 スケルトンのオーグレが敬礼をして踵を返す。そこでサージュも前へ出てウルカに言う。


 <我も行こう。ウルカ達は後からついて来てくれ>

 「わかった。悪いけどお願い」

 

 ウルカが頷くとオーグレとサージュはサッと舞台裏へと向かう。


 「僕たちも追おう。ウル、一緒に来てくれる?」

 【うん……わたしが頼むまで、も……ないかも……ね?】

 「え?」

 「ス、スケルトンくらい、な、なんだっていうのよ、私! い、行きましょうウルカさん!」

 「わ、わかったよ!? だから引っ張らないで!?」


 ふんすと鼻息を鳴らしながら、ミルフィはウルカを引きずってサージュ達を追い始める。ウルはそんな様子を見て目を細めて笑っていた。


 一方そのころ、ファスとヘレナは――

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