第三百二十二話 可愛い魔物達
「それじゃあ劇場の裏口でお待ちしていますね!」
「アタシも休みだから付き合うわねえ。一応、学院で戦闘訓練はしているからミルフィと一緒に居るわ」
「頼むよ。組み合わせはまた考えるから」
「いやいや、ウルカとミルフィはセットでしょ♪ じゃあね」
ヘレナは玄関先で俺達にウインクをして先に出たミルフィを追う。時刻はおやつ時でしっかりプリンを食べて帰っていった……
ミルフィが今夜、俺達と探索を同行する宣言をした後、マキナ達も起きてきたので今は一緒に居る。リビングに戻る途中、マキナがウルカへ尋ねる。
「良かったのウルカ? 大勢だと幽霊は出てこないんじゃない?」
「嬉しそうな顔で言いうことじゃないと思うけど、まあいいや。さっきの提案通り人数を分けるなら数が多いということにはならないから大丈夫だよ」
「そっか。とりあえずウルカはミルフィちゃんを守ってあげてね?」
「え? さっきからミルフィさんと僕が一緒なのが確定みたいな感じなんだけどどうしてなのかな?」
ウルカが不思議そうに首を傾げるが、マキナはウルカの肩に手を置き、物凄く優しい微笑みを無言でウルカに向け、リビングへと去っていく。
ウルカって女の子が苦手って訳じゃないんだけど、学院時代は【霊術】を使いこなすこと冒険者になるための勉強と訓練ばかり俺達とやっていたから恋愛ごとは無かったと思う。性格が穏やかだから他のクラスを含めて、みんなと仲良かったけどね。
「さて、それじゃウルカは夜までゆっくりしていてくれ。俺はちょっと庭に出てくる」
「あ、そしたら昼寝をさせてもらうよ。ご飯を食べたらまた眠くなってきちゃって……」
「ああ、また夕食前に起こすよ」
ウルカは笑いながら部屋へと歩いていき、俺は足元に居るアッシュと子雪虎を抱え、セフィロを肩に乗せる。
「くおーん?」
「にゃあん」
「マキナも少しファスさんと修行するみたいだし、お前達も今から訓練をするぞ」
「!」
俺が言うと、セフィロは枝で敬礼の姿勢を取り、アッシュ達はよく分かっておらず、庭に向かっているので遊んでくれるものだと思っているのか二匹とも俺に頭を擦り付けてくる。
まあ、近いものがあるけど今日は少しスパルタで行こうと思うが、ご褒美も上げる予定だ。
「よし、お前達そこへ並ぶんだ」
「くおーん」
「にゃー」
「いいぞ。そのまま待て」
ご飯を上げるときに躾けてあるので待てはできる。そこで俺はセフィロに声をかける。
「セフィロ、今日からお前はこの二匹のリーダーとして俺と一緒に面倒を見てくれ。夢の中で人型になっているお前は俺の言葉をほぼ理解しているはずだ。俺が居ない時はお前がこの二匹を叱ったり止めたりして欲しい」
「……!!」
俺が持ち上げてセフィロに告げると、セフィロは頭に満開の花を咲かせ、決意に満ちた様子で俺の胸に飛びついて来た。どうやら請け負ってくれるらしい。早速セフィロは飛び降りてからアッシュ達の前に立つ。
「!!」
「くおーん? ……くおーん!」
「にゃん♪」
「!?」
セフィロが仁王立ちで花を咲かせると、アッシュ達はセフィロに飛び掛かりじゃれつき始める。まあ、いきなりは難しいだろうから最初はこんなものだ。
「よし、受け入れたかな? 早速訓練を――」
と、俺が三匹を整列させようとしたところで背後から肩を叩かれた。振り返るとラディナが立っており、俺を抱えて歩き出した。
「どうしたんだラディナ? お前も訓練をするか?」
「ぐるる」
「……お風呂」
ラディナが連れてきたのは昨日作ったお風呂だった。すると庭でノーラと雪虎と遊んでいたサージュがぱたぱたと飛んできて俺に言う。
<母熊はその風呂を待っていたようだぞ。来なかったら我が呼びに行くところだった>
「そうなんだ。お風呂好きになったのか?」
「ぐるる」
そうらしい。
アイナの臭いから始まったことだけど、綺麗であることに越したことは無いからいいことだ。俺はウォータで風呂を水でいっぱいにし、ファイアで湯を沸かす。子雪虎は暑いのが苦手なので、俺の足元に隠れていた。程なくして湯が沸くと、ラディナが湯船に浸かるため歓喜の声をあげる。
「ぐるぅ♪」
「嬉しそうだなあ。というかお母さんなんだからこいつにもっと構ってやれよ」
「くおーん」
「ぐるる」
俺がアッシュをラディナの前に差し出すと、ラディナは『そうね』と言わんばかりにアッシュを手に取ると、そのままお風呂へと入っていった……
「ぐるぅ……」
「くおーん……」
「そう来たか。今から訓練なんだけどなあ」
とはいえ、ラディナがお腹の前にアッシュを抱えて満足気にお風呂に入っているのを水差すのは忍びない。どうするかと思っていたところで、またお客さんが来た。
「こんにちはー! セフィロあそびにきたよー! ……あれ? 知らない人がいっぱいいる?」
チェロが元気に庭に入ってきて、さっとセフィロを抱っこし、兄さんノーラを見て首を傾げた。やれやれ、今日は訓練って感じじゃなさそうだと俺は苦笑し兄さん達を紹介すると、そのままシュナイダーや馬達を交えて遊ぶことになった。
「……ま、急がなくてもいいか。ご褒美にとって置いたけど、別に用意するか。セフィロ、アッシュ、子雪虎おいで」
「!」
「くおーん」
「にゃーん」
遊んでいた三匹がハンモックでごろ寝をしていた俺の言葉を聞いて集まってくる。ちゃんと言うことは聞くからもう少し我慢を覚えさせればいいのか? そう思いながら俺は一匹ずつ抱え上げてご褒美に用意していた色がついた布を巻いていく。
バンダナとかスカーフに近いもので、セフィロには緑を腕に巻くような感じで枝に。アッシュには首に黄色を前掛けのように結んであげ、子雪虎には青い毛に映えるよう赤をやはり首に巻く。
「これがあれば最悪、飼っていると認識してもらえるはずだ。心もとないけど、無いよりはいいと思う」
「♪」
「くおーん♪ くおーん♪」
「にゃー!」
解放すると早速見せるため、大喜びでノーラ達の下へ駆け出していく。向こうでは絶賛の声が上がっていた。
「あげて良かったな……ふあ……眠くなってきたな……マキナには悪いけど少しだけ眠ろうかな」
俺が目を瞑ると何かの力でハンモックが揺らされ、なにごとかと目をあけた。その正体は――
「シュナイダーと雪虎? どうしたんだい」
「わふ」
「がるる」
俺が尋ねると、セフィロ達を一度見て、尻尾を振りながら一声鳴いた。そういうことか……
「あー、ごめん。ちょうど手持ちがなくてお前たちはまた今度なんだ」
「わおん!? ……ひゅーんひゅーん……」
「がるぅ……」
俺が頭を掻きながら告げると、残念そうに庭の隅で項垂れる。ごめんよ、でも子供優先だろう? 苦笑しながらそんなことを考えつつ、俺はほんの少しだけ眠り、再び劇場へ足を運ぶ――
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