第三百十三話 ウルカとマキナの両親
「おっでかけおっでかけ♪」
「くおーん♪ くおーん♪」
「こら、夜なんだから大きな声を出したらダメだぞアイナ」
「はーい!」
言った傍から大声で返事をするアイナの頬を引っ張って大人しくさせる。罰としてアッシュはマキナに抱っこしてもらう。
「くおん」
「ふふ、おかえりアッシュ」
「あー、アッシュが……!」
「大人しくしないと本当に置いていくからな?」
「う……ご、ごめんなさい……」
「いつもこんな感じなのかいサージュ?」
隣を飛ぶサージュに声をかけると、サージュは笑いながら俺に返す。
<はっはっは、いつもは聞き分けが良いぞ。ラースが帰って来て興奮しているのだろう>
「ならいいけど……こっちでもだけど、向こうに着いたら他の人に迷惑をかけないようにな」
「うん!」
「ふしゃー!」
「ええ、猫さんなんで怒ってるの?」
アイナが俺の背中に飛び乗り、おんぶする形になり、頭に乗っていた子雪虎がアイナを威嚇していた。こいつは仲良くならないとこんな調子のようだなと苦笑する。
「猫ちゃんはオラが預かるよー」
「にゃ!?」
「ノーラなら安心ね! ラース、ウルカの家が見えてきたわよ」
子雪虎は先ほどの件でノーラを要注意だと認識していたのだが、マキナは仲良しになったと勘違いしているようで、にこにこしながら先にある家を指さす。ウルカは旅立ちの時に会っているけど、久しぶりだな。
「こんばんは、夜分遅くすみません。ラース=アーヴィングですが、ウルカは居ますか?」
俺は静かに玄関をノックして声をかけると、ドアがゆっくりと開き、ウルカが出迎えてくれた。
「ラースだって? ああ、本当にラースだ、久しぶりだね! それにマキナも! 元気そうだね」
「ああ、ウルカも元気そうでなによりだよ」
「って、それより、こんな時間にどうしたの? それにお兄さんにノーラ……サージュとアイナちゃんも?」
「こんばんはーウルカ君!」
ウルカは俺の後ろにいる兄さん達を見て不思議そうに首を傾げて再び俺と目を合わせてきたので、事情を説明する。
「実は――」
劇場の依頼、魔物のことなどがあってこのメンバーということを伝えると、ウルカは目を輝かせて俺の手を取って頷いてくれた。
「もちろん行く! 王都にはいつか行こうと思っていたし、何より僕を頼ってくれたのが嬉しいよ! ラースは何でもできるのに」
「何でもってことはないって。幽霊は俺には見えないからな。頼れる人がいるなら頼らせてもらうようにしているんだ」
「ふうん。まあ、十歳のころ色々あったもんね。僕みたいな凡人はラースみたいな強い人に頼られるのは凄く自信になるよ。さて、すぐ準備してくるから待ってて!」
「ウルカ、嬉しそうだったわね」
ウルカがそう言って家の中へ戻り、マキナが笑いながら俺にそんなことを言う。俺は気恥ずかしくなって頬を搔きながらセフィロをいじっていた。
準備を終えたら広場に来るよう伝え、このまま今度はマキナの家へ向かう。ここからそれほど遠くないので、すぐに到着する。
「では次はワシの番じゃな。マキナ、頼むわい」
「はい! ただいまー!」
マキナが元気よく家に入ると、バタバタした足音と共に、マキナの両親が玄関先へやってくる。かと思えばすぐに捲し立てるように声を上げた。
「マ、マキナ!? ど、どうしたんだい、こんな時間に!? もしかして結婚!? ま、まさか孫が出来たとか!?」
「帰って来たのは嬉しいけど……まさか、ラース様に振られた、とか……?」
「そうじゃないわよ!? えっと、ちょっとだけ用事があって帰って来たの。それで向こうでできた師匠を紹介しようと思って寄ったの」
マキナが顔を真っ赤にして子供ができるわけないじゃない。と、ぼそぼそ口を尖らせていたのを聞いていた、俺達は苦笑しながら様子を伺う。すると、ファスさんが一歩前へ出て柔和な顔でマキナの両親に頭を下げた。
「お初にお目にかかる。ワシの名はファスと言って、ちょっとだけ名の知れた格闘家じゃ。このマキナは格闘のセンスとそれに適したスキルがあり、ワシの後継者として師事させてもらっておる」
「は、はあ……マキナに素質が……」
「うむ。しかし、もちろん危険も伴うものではあるので、一度ご挨拶にと思っておったのじゃ」
ファスさんの発言にふたりは顔を見合わせて困惑している。しかし、すぐにおばさんがファスさんに頭を下げながら口を開く。
「それはご丁寧に、わざわざありがとうございます。この子、そそっかしかったり、肝心なところで抜けていたりするけど、真面目で自分の決めたことは必ずやり通す子です。だからきっと、ファスさんの期待に応えてくれると思いますわ」
「そう言ってもらえると助かるわい。死ぬようなことはさせんと約束しよう」
「……分かりました。マキナも成人しております、覚悟あって師事を受けているはずです。存分に鍛えてやってください。……あ、でもラース様との結婚とま、孫の顔は見せてくださいよ?」
「お父さん!」
「ほっほ、承知した」
おじさんが笑いながらファスさんに言うと、マキナの拳がおじさんの肩に炸裂した。そろそろいいかと思い俺もふたりに声をかけた。
「おじさん、おばさん。またマキナを連れて行くよ」
「ああ、ラース様! いえいえ、この子も楽しそうだし、いいんですよ。少し寂しいけれど、たまにこうして顔を見せてくれると嬉しいですけどね」
「ラース様には何の心配もしておりません! どうか娘をよろしくお願いします!」
「はい、また来ます。何かあったら手紙をくださいね。それじゃ、みんな行こうか」
俺が話を締めて玄関で見送ってくれるおじさんとおばさんに手を振りながらこの場を後にする。
そのまま町の広場に向かうと、おおきなリュックを背負ったウルカがすでに到着しており、すぐサージュに大きくなってもらう。
<全員乗ったな? では行くぞ!>
「おー!」
「!」
「よろしく、サージュ」
兄さんが背中をポンと叩くと、サージュはスゥっと浮き上がりあっという間に下に見える町が小さくなる。
「わー、サージュの背中に乗るのも久しぶりだね―」
「僕はサージュの装備を作ってもらった時以来かな」
ノーラとウルカが籠から顔を出し、子雪虎は相変わらず籠の隅で丸くなる。そこで、マキナがかごのへりに座るセフィロの頭に咲いた花をそっと撫でながら俺に言う。
「♪」
「セフィロは空が好きなのかしら? 来るときも嬉しそうだったわよね」
「木なのにな……まあ、セフィロはトレントだから何かあるのかもしれないな」
「ああ、それはありそうかも」
……と言ってみるが、セフィロにはスキル【ソーラーストライカー】がある。だから太陽に近くなる空は無意識に好きなのかもしれない。
「くおん……」
「アッシュ、大丈夫だよ。アイナが一緒だからね?」
<ふうむ、子グマは向こうに着いたら鍛えてやらねばならんか。母クマと話をしてみよう>
相変わらず恐怖で丸くなるアッシュに、アイナが背中を撫でて落ち着かせていた。サージュが不穏なことを言っているので俺はサージュへ言う。
「アッシュはまだ小さいからいいよ。こいつが戦うことはしばらく無いと思うし」
<そうか? まあラースがそういうなら我は構わんが>
同じ魔物の男としてアッシュを鍛えたいのだろうか? まあ、アッシュはセフィロと同じくみんなのマスコットとして居てくれればいい。
そんな話をしていると、すぐに王都であるイルミネートの町へ到着。騒ぎにならないよう、上空から俺の家を探し、真っ直ぐ庭へと降り立った。
「がるる!」
「わんわん!」
「グルル」
「お、まだ起きていたのか!」
庭ではラティナやシュナイダーが待っていて、出迎えてくれた。
「わ、大きい! それに狼さんも虎さんも居るよー!」
「大きな庭だね。家も大きいし、流石はラースだ」
「ありがとう。ほら、アイナ。あの大きいのがアッシュのお母さんだ」
「……」
「?」
てっきり、飛びつくと思ったのだけど、アイナはその場を動かず俺の足にしがみついて離さない。
「……ははあ、大きくて怖いんだろ? サージュは小さいころから一緒だったから怖くないってだけか」
「ううん、違うよラース兄ちゃん……怖くないよ……」
「え? ならどうして――」
と、尋ねた瞬間、アイナは鼻をつまんで顔を顰めて口を開く。
「この子達臭いの!」
「がる!?」
「くぅん!?」
「グルウ……!?」
ショックで三頭が目を丸くして項垂れる。えー、そんなに臭いかなあ……
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