第三百十話 助っ人を連れてくるために
「こんにちは、お昼時に悪いね。……ええ!?」
「やあ、いらっしゃいソネアさん」
「何やってんのよあんた……」
「ああ、気にしないでいいよ。それよりどうしたんです? ギルドの受付自らウチに来るなんて」
どこから嗅ぎつけてきたのか、お昼に帰って来てマキナのハンバーグを取ろうとした罪で吊るしているバスレー先生はさておき、ギルドの受付嬢であるソネアさんが尋ねてきた。恐らく劇場の件かなと思いながらリビングへ通す。
「初めて来たけど、お金持ちは違うわねえ。いい家じゃないの」
「ありがとう。居候や師匠、ペットとか色々大変だけどね」
「♪」
「くおーん♪」
「にゃーん!」
「……魔物……テイマーの資格がないとまずいんじゃないの?」
そう言われて俺はギルドカードを見せると、ソネアさんは呆れた顔でため息を吐く。
「テイマーの資格取ったのね……ちょっと早すぎない? ま、腕が上がるのはいいことだからいいけどさ。で、今日、私がここに来たのはラース君宛に依頼があったからよ。話はしてあるって聞いているけど?」
「ヘレナかクライノートさんからだと思うけど、違うかな?」
「ビンゴよ。これが依頼書ね。依頼者は劇場のオーナーであるクライノートさん。指定してきた人物はラース君、マキナちゃん、ファスさんの三人。これで問題ない?」
スッとテーブルに出された紙を受け取り、両脇からマキナとファスさんが覗き込んでくる。
「ワシもか? まあ、カードもあるし構わんがのう。報酬も山分けじゃがええのか?」
「居てくれると心強いし、知恵を借りることもあるかもしれない」
「わ、私、が、頑張るわ……」
「マキナは無理しないで俺と一緒に居ればいいよ」
俺の腕にしがみついているマキナに苦笑していると、セフィロとアッシュが俺の足にしがみつき真似をしていて、子雪虎がマキナの肩に乗って頬を舐めていた。元気づけてくれているのだろう。
「ありがと、みんな。あ、でも夜に劇場に行くならこの子達はどうするの?」
「それを含めて助っ人を考えてある。一人増えても問題ないよね?」
「ええ、報酬はもう決まっているから、その金額を山分けする形になるけどね」
ソネアさんがそう言って笑うと、ひょいっとソネアさんの隣で口を尖らすバスレー先生が現れた。
「助っ人はもちろんこのわたしです! 大臣を任された身なれど、元教え子が困っているのを見過ごすわけには行きません!」
「いや、バスレー先生じゃないよ?」
「なんでですか!?」
「大臣がやることじゃないだろ。というかどうやって抜け出してきたのさ」
「あの程度でわたしを捕まえられるとは思わないことですね! ……で、助っ人というのは?」
「それはあとのお楽しみってことで。開始は指定されていないけど、こっちの都合でいいのか?」
助っ人含め、準備に一日は欲しいので尋ねてみると、ソネアさんは指で丸を作りながらウインクをしてきた。
それでは、ということで行動開始は明後日の夕方ということで受けたとクライノートさんに伝えてもらうようお願いし、ソネアさんが立ち去った後、俺はみんなを集めて話し出す。
「ちょっと面倒になるかもしれないけど、今日の夜、助っ人を呼びに行くための準備をする。家を留守にするけど、バスレー先生はどうする?」
「あー、明日の朝は会議があるので止めておきましょうか。あまり人数が多いとサージュ君も大変でしょう」
流石にバスレー先生は助っ人が誰か分かっているようで、俺がこの後することもお察しのようだ。そして夜になり、俺達は庭に出る――
「よし、やるか……【召喚】サージュ」
「サージュに合うのも久しぶりね。みんな元気にしているかしら? 師匠は初めてですもんね」
「ほう、召喚も使えるのか。ラースはほんに恐ろしい男じゃのう。うむ、サージュというのは初めて聞く」
マキナとファスさんがそんな会話をしている中、月の光が差し込む庭に召喚の模様が空中に浮かびあがり、そこから抵抗なく気のいいドラゴンが姿を現した。
<む、ラースか。久しぶりだな>
「久しぶり、サージュ。その様子だと元気そうだな」
「オリオラ領以来ね、サージュ」
<おお、マキナ。あれは中々面白かったな。む、我の知らぬ顔も居るようだ>
いつものミニサイズになっているサージュが俺の頭に乗って周囲を見渡す。バスレー先生はまだ帰って来ていないので、ファスさんやセフィロ、アッシュ達のことだ。
「なんと……ドラゴン、か? お目にかかれることなど滅多にない種族を召喚するとは、さすがのババアも鳥肌が立ったわい。うむ、ワシの名はファス。雷撃のファスと呼ばれておる格闘家じゃ。ドラゴンとは二度、戦ったことがあるが手強かったわい」
<サージュだ。我も目覚めてそれほど経っていないが、ラースやマキナ達の友達だ。よろしく頼む>
ファスさんがサージュと握手をすると、マキナに抱っこされているアッシュやセフィロ、俺の前に立つラディナや親雪虎、そしてシュナイダーを見て口を開く。
<ふむ、随分賑やかになったものだ。これもラースの友達か?>
「くおーん……」
「にゃあ……」
子供であるアッシュと子雪虎はやはり怖いのかマキナにしがみついて離れない。シュナイダーとラディア、親雪虎はサージュが目の前に飛んでいくと、少し匂を嗅いだ後、それぞれ声を上げる。
「がるる」
「がう!」
「グルル」
<うむ、みなラース達を慕っておるのだな。では我とも友達だ、よろしくな>
「何かサージュって親分みたいよね。ほら、アッシュ怖くないから」
「くおーん……」
<よろしく頼むぞアッシュ。強くならねば大切なものは守れんぞ? む、こっちはトレントか?>
「!」
<セフィロか、よろしく頼む。ほう、命の恩人か、我もラース達には助けられたぞ>
サージュが魔物達と会話を始めたので俺はサージュに本題を話すため、手元に引き寄せる。
「ごめん、サージュ。ちょっとガスト領まで戻りたいんだけどいいかな? ウルカと兄さん、それとノーラの手を借りたいんだよ」
<ほう、ウルカ、ということはアンデッド案件か。しかしデダイトとノーラは一体?>
「ま、向こうへ行って話すよ。サージュなら三十分で帰れるから頼むよ」
<……アイナには会っていくのか?>
「この時間なら寝ているはずだから今を選んだんだ」
俺の言葉にサージュはゆっくり頷き、体を大きくする。ウチは大型魔物を二頭飼っても広い庭だけど、流石にサージュのサイズになると狭いな。大きくなると、ラディアやシュナイダー達もびっくりして小さくなり、地面に伏せる。俺は事前に用意していた人が乗れる籠をサージュにつけて乗り込んでいく。
「怖いなら無理しなくていいぞ?」
「くおーん、くおーん」
「ふにゃあ!」
「ふふ、それでも一緒がいいみたいね。まあ連れて行った方が慣れるでしょ! 師匠も行くんですね」
「マキナの両親に預かっておることを伝えておこうと思ってな。それくらいの時間はあろう」
<ふっ、ガスト領にはすぐ着く。ファス殿、驚くなよ>
少しずつ浮き上がり、雲が近くなってきたところで月を背にサージュがバッと羽を広げた。うん、やっぱりサージュはかっこいい。
<では、行くぞ!>
さて、久しぶりのガスト領だ。夜だからみんなには会えないけど、父さん達の顔を見るのは嬉しいかな?
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