第三百七話 罠


 「それじゃ、厩舎に連れて行っておきますから皆さんは中へどうぞ」

 「ありがとうございます。では皆さん、レッツゴー!」

 

 城の入り口にある建物で中へ入るための手続きを行い、バスレー先生の後についていく。テイマー資格も見せたのでセフィロやアッシュは離さず、俺と先生の責任下で騒ぎにならないようにすれば問題ないらしい。

 しかし、不安は残る。


 「お城の食堂って大臣、それこそバスレー先生みたいな偉い人も使うんですよね? 平民の私達が入ってもいいんですか?」

 「ああ、本来ならダメですけど、わたしの権限があれば問題ありませんよ。マキナちゃんとヘレナちゃんは生徒でよく知っていますし、アイドル見習いとマネージャーも身分はしっかりしていますしね」

 「ワシは?」

 「ファスさんはファスさんなので……」

 「相変わらず適当だね、あんたは」


 そう言って笑いながらファスさんがバスレー先生のお尻を叩いていた。きっとそれっぽい理由が思いつかなかったに違いない。まあ、有名な強者であれば問題は無いと思うけど。

 城の中は何回目だったかなと思いながらアッシュをおんぶし、子雪虎をしっかり抱っこして前を歩く。マキナ達は俺の後ろで女の子同士話をしていた。


 「お城の食事、楽しみですねヘレナさん」

 「そうねえ、持つべきものは担任と友人よ♪ にしても、マキナは絶対ラースと結婚コースだから将来安泰よねえ」

 「そう? ヘレナも美人なんだし、いい人見つかるんじゃない?」

 「まあアイドルを辞めたら考えるわあ♪ 今はまだ楽しいから結婚よりもやりたいこと、かしらねえ」

 「わ、わたしも早くステージに立たないと……」

 「ミルフィは可愛いからレッスンすれば大丈夫よう」

 「よくみんなの前で歌ったり踊ったりできるわね、凄いわ」


 と、マキナも楽しそうにしていたので、二人きりではなくなったけど、これはこれで良かったかと俺は笑みを浮かべる。さて、そんな話を聞きながらしばらく歩くとすぐに食堂へ到着する。


 「ほう、賑わっておるのう。やはり騎士は大盛か」

 「ここか外に出るしかありませんからね。自宅に帰る訳にもいきませんし。お値段もお手頃なら使うしかないでしょう」

 「あ、ムニエルか。魚がいいな」

 「くおーん♪」

 「にゃん」

 「!」


 食堂は広く、続々と騎士やローブを来た人などが注文所へ行って料理を持って席へ着く。大きな大学の学食みたいな感じだなあ。これはこれでテンションがあがる。


 「イチゴのケーキもあるのね! ああ、お腹がすいて来ちゃったわね」

 「うーん、太れないからサラダとスープ、……パスタならいいかなあ?」

 「ふふ、ヘレナさん可愛い! レイラさんは?」

 「鳥の香草焼きが美味しそう……」

 「こいつらにも買ってあげていいのかい?」

 「ええ、テイマーの人が居ないわけでもありませんから、あちらの席でいいかと」


 バスレー先生が俺達を連れて席へ案内してくれる。セフィロはテーブルに立ち、アッシュはマキナの膝。子雪虎はファスさんの膝に座ると、ヘレナが早速料理を取りに行こうと立ち上がる。


 「ペットが居ると大変でしょう? アタシが取ってくるわよぅ?」

 「わたしも手伝います!」

 

 ミルフィとレイラさんも気を遣ってくれるが、アイドルにそんなことをさせるわけにもいくまい。


 「俺が行くよ。オーダーは紙にでも……ん? なんだい、バスレー先生?」

 「わたしも行きますよ。……今日は特別メニューを頼んでおいたんです。それを食べましょう!」

 「そうなんですか? もしかして、今日は最初からそのつもりだったとか? ヘレナ達の分、あるんですか?」

 「まあ、ヘレナちゃん達は予想外でしたが問題ありません……! くくく……さあ、行きましょうラース君」

 「ああ、あんまり長居するのも申し訳ないし急ごうか」

 「いってらっしゃいー♪ バスレー先生、大臣だしきっといいものよね」


 気持ちよくあくびをするアッシュを撫でているマキナに見送られ俺はバスレー先生と共に料理を取りに行く――


 「おお、君がラースって子か! いやあ、バスレーがいつも君のことを言っていたんだ。ハンバーグとプリン、茶碗蒸しだっけ? どれも聞いたことが無い。是非一度見てみたいと思っていたんだ」


 ――はずだったんだけど、俺が到着したのは奥にある厨房。そこでコック帽を被った恰幅のいいおじさんにこんなことを言われたのだ。


 「……バスレー先生、どういうこと?」

 「いやあ、毎度はんばあぐのことをですね、絶賛していたんですよ。食堂の料理はおいしい……しかし、ラース君の料理には敵いませんね、と」

 「ああ、俺達は料理人だ。まさか素人の作った料理に敵わないって言われちゃあな。だから食材は集めてやるから作らせろって言ったんだ」

 

 そこで俺は把握する。 


 「……嵌められた!?」

 「えへ♪」

 「えへ、じゃないよ!? そりゃ料理人にそんなことを言ったら怒るに決まってるだろ!」

 「うう、わたしはハンバーグを食べたいだけなんです……どうか、どうかここで是非!」

 「それはバスレー先生が食べたいだけだろう!? ……帰ろう。どっかのレストランで俺がみんなに奢るよ」


 おかしいと思ったんだ、バスレー先生が良い方のサプライズをするなんて。俺が踵を返して歩き出そうとすると、バスレー先生が足にしがみついて懇願してくる。


 「お願いします! このままではわたしは嘘つき大臣になります、それでもいいんですか!?」

 「いや、今更……なあ……」

 「バスレー大臣だし……若い時はもっと酷かったぜ……?」

 「あれぇ!? とにかく、折角食材もあることですし、作ってくれませんかねえ? お金なら払いますし、こいつらの鼻をあかしてやりましょう!」

 「いや、別に鼻を明かす必要は無いんだけど……はあ……仕方ない。今から店に行くのも大変だしな。わかった。それじゃあ食材使わせてもらうよ?」


 俺が尋ねるとコックさん達は笑い、


 「おう、好きなだけ使ってくれ!」


 興味津々と言った感じで声を上げた。

 

 なんだ今日は? 色々厄介ごとを押し付けられるな……

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