第三百六話 甘えん坊さん達


 「幽霊、か。劇場って年代物だったし、あり得なくはないけどヘレナ達は見たことあるの?」

 「アタシは見たことないんだけど、ミルフィは見たことあるらしいわあ」

 「は、はい……あの、わたし達って夜遅くなることがあるんですけど、通路にぼやぁとした人影とかを見るんですそれと――」


 ミルフィが興奮状態で拳を振りながら話していると、玄関が開く音がし、リビングにいつもの人が現れた。


 「へい、お客さんですか! おや、ヘレナちゃんじゃありませんか。それと……知らない人……」

 「プリンを食べた時に会いましたよ!? ミルフィです」

 「レイラ、です」

 「ああ、そうでしたね、お久しぶりです」

 「どうしたんだいバスレー先生? 随分早い帰宅だけど」


 俺が声をかけると、アッシュをひと撫でしたあと食事をする椅子に腰かけて口を開く。


 「ラース君とマキナちゃんのラブラブ風景を……いえ、お仕事がひと段落したのでお昼を一緒にどうかと思ってお迎えに来たんですよ。たまにはお城にある食堂にでも行かないかな、と」

 「あ、面白そう! ね、ラース行ってみましょうよ!」


 バスレー先生が珍しくまともな提案をしてくれ、マキナが大きな声を上げて賛同する。しかしマキナの魂胆が見えている俺は手を握りながら言う。


 「マキナ、怖いからってヘレナの話を聞かないわけにはいかないよ? まだ昼前だし怖くないだろ。何も出ないって」

 「う、バレたか……わ、分かったわ」

 「俺が居るし、大丈夫だって」

 

 マキナは顔を赤くして頷き、ミルフィが頬に手を当てて『きゃー! ラブラブです』とか言っていた。普通だと思うんだけどなあ。するとバスレー先生がヘレナを見て尋ねてくる。


 「『出ない』ってどういうことですかねえ? あ、もしかしてお通じですか?」

 「「「違います!」」」

 「おう!? 三人連携、仲良しこよし!? ……では一体?」

 「何か劇場に幽霊が出るんだってさ。それで、俺達はどうすればいい?」


 するとヘレナはウインクをして指をパチンと鳴らし、こう答えた。


 「さっすがぁ、話が早いわあ。でも簡単よ、劇場に出る幽霊の正体を調べてもらうだけだから!」

 「だけだからって……オーナーのクライノートさんは了承しているの?」

 「今からよ!」

 「先の許可を取っておくものだと思うけど……一応俺は冒険者だ、報酬は貰うからな」

 「もちろんよぅ。アタシは見ないんだけど、やっぱり他の子が怯えたりしているからねえ」


 なるほど……結構目撃者も居るのか。しかし幽霊関連なら適任者が友人に居る。どうしようかな? 俺が思案しているとマキナが俺の袖を引いて話し出す。


 「こういう時ってウルカなら早そうじゃない?」

 「ああ、俺もそう思っていたんだけど呼び寄せるのに時間が……あ、いや待てよ……オッケー、なら劇場からの依頼でギルドに出してくれ。受領したら調査開始だ」

 「分かったわぁ。ミルフィもそれでいい?」

 「はい!」


 ミルフィが元気よく返事をすると、ヘレナはにっこりと微笑み、俺達に向かって指で丸を作る。面倒見てやってるんだな。


 「お話は終わりましたか? それじゃみんなでお昼を食べに行きましょうか!」

 「あ、それじゃ我々は帰り――」

 「お時間はありませんか? あるなら折角ですし一緒に行きませんか?」

 「いいんですかぁ? 今日はオフだから時間はあるけどお。レイラさんもミルフィは?」

 

 ヘレナが聞くとふたりは問題ないと頷き、城へ向かうための準備を始める。慌ただしく動き出すと、セフィロは俺の肩に乗り、アッシュと子雪虎が俺達を見上げて『どうしたの?』という感じでころころと付いてくる。


 「ごめん、今日はお城だからお前たちは留守番を頼むよ。ご飯は用意してあるからな。夜は豪華にしてやる」

 「くおーん」

 「にゃーん」


 ……まあ、よくわかっていないだろうなあ。ご飯の部分は理解しているのか、俺の足にすり寄ってくる。ああ、ちょっと罪悪感がある。


 「それじゃ馬車を出しましょうか。ファスさんは?」

 「まだ戻ってないよ。書置きだけしておこうか」

 「その必要はないぞい。戻って来たわ」

 「あ、師匠」


 ちょうど玄関先でファスさんが戻って来たので経緯を説明すると、良いのうと言ってバスレー先生と馬車を一緒に出す。馬達も散歩に出れると思ったのか嬉しそうにいななき、マキナに連れられ荷台に繋がれる。


 「それじゃ、行ってくるよ」

 「くおーん!?」

 「にゃ!?」


 アッシュと子雪虎を庭に置いて鉄柵を閉じるとびっくりした顔で鉄柵に突撃してきた。


 「くおーん! くおーん!」

 「にゃーん……」

 「すぐ帰ってくるから大人しくしているんだぞ? それじゃ行こう」

 

 俺が馬を歩かせ始めると、庭からひときわ大きな声でアッシュが鳴き始め、子雪虎も全力で鳴く。振り返ると近所の人がなんだなんだと集まってくるのが見えた。


 「ねえ、ラース……」

 「うーん……バスレー先生、小さいやつらだけならいいかい?」

 「そうですねえ。馬なら問題ないですが、魔物は連れて行ったことがありませんが……ま、いいでしょう」

 「軽いなあ……」


 そして――


 「くおーん♪」

 「にゃふ♪」


 程なくしてマキナと俺の膝の上にアッシュと子雪虎が乗るのだった。テイマー資格あってよかった瞬間だ。


 「お城は初めていくわねえ」

 「わ、わたしもです! まさか行ける日が来るなんて……」

  

 さて、依頼の前に腹ごしらえをしておきますか!

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