イルミネート大騒動編

第二百九十九話 免許皆伝?


 「……マジかお前……」

 「いやあ……はは」

 「タンジさんなら町に連れて入れるって聞きました!」

 「がう」

 「グルル……」

 「くおん」


 程なくして俺達はグラスコ領からイルミネートまで無事戻ってきていた。行きではかなりの魔物と戦ったけど、帰りは事態が収束していることと、親ベアとヴァイキングウルフが傍に居るため魔物はさっぱり近づいてくることは無かった。野営は必ず挟むのでこれは大いに助かった。


 ――助かったのだが、やはりバスレー先生の権力を傘にするのは気が引けるので、こうしてタンジさんを連れてきたというわけだ。


 「これ、お前がテイムしたのか……? デッドリーベアにヴァイキングウルフ……二頭とも高ランクなんだが……」

 「ちょっとグラスコ領で色々あったんだけど、俺達に襲い掛かって来たのを倒したんだよ。でも、操られていたみたいで可哀想だったから傷を治して森に帰したと思ったら……」

 「ついて来たってわけか。ふむ……」

 

 顎に手を当ててマキナが抱っこしている子ベアの頭を撫で、親ベアの様子を伺う。


 「とりあえずテイマー資格があるタンジさんが町に入れてもらってテイマー施設に置いておきたいんだけどどうかな?」

 「ま、ここにいても目立つしとりあえず施設に行こう」

 

 タンジさんの言葉に俺が頷き、ウルフにリードを付けて歩き出す。後から子ベアを抱っこしたマキナ、かごに入ったセフィロを手にしたファスさん、そして親ベアにまたがった笑顔のバスレー先生が続く。


 「って、なんでまたがってるのさ!?」

 「いやあ、暴れないようにと思って。それに乗り心地がいいんですよ、お母さんベア」

 「グル」

 「十分、なついているから大丈夫ですよ。ほら、子供が乗りたそうにしているから降りてください大臣」

 「仕方ありませんね。お母さん、降りるのでちょっと止まってください」


 タンジさんに窘められ、渋々降りるバスレー先生。パンツが見えるのもお構いなしか……タンジさんが目のやり場に困っている。


 「おっきいー! ママ、あれ熊さん! 乗ってみたいー」

 「本当、大きいわね。でも、危ないから駄目よ」

 

 小さい男の子がお母さんに連れられこの場を去っていく。するとタンジさんが親ベアに歩かせるのを促しながら口を開く。


 「今の子みたいに、もうちょっと魔物に興味を持ってくれるとテイマーが増えるかもしれないんだがなあ」


 そんな愚痴とも言える言葉を吐きながらタンジさんがゆっくり歩いていく。やがて、施設に到着し、広場に三頭を放してやり、施設内で話をすることになる。


 「ずっと抱っこしてたからはしゃいでいるわね」

 「セフィロもよく動くのう」


 ふたりが目を細めて微笑ましく三頭の様子を見ている横で、お茶を持ってきたタンジさんが頭を振りながら着席をする。


 「はあ……お嬢ちゃん達は気楽でいいぜ。とりあえず結果だけ先に言っておくぞラース。……ギルドカードを出してくれ」

 「え? じゃあこれ……」


 俺がギルドカードを渡すと、細い金属の棒を取り出してカードに魔力を込めた。一瞬カードが光った後、俺に返してくれると、そこには――


 「『テイマーランクA』……? は!? ちょ、ちょっとタンジさんこれ!」

 「書いてある通りだ。信じたくはないが一か月ちょっとでここまでのテイムを見せられたらなあ」

 「どういうことなんです? わたしもテイマーの資格ってよく知らないんですよねえ」


 バスレー先生が茶菓子を口に含んでそんなことを言うと、タンジさんの説明が始まる。


 「基本的にテイムには段階があって。そのトレントを連れていたラースは見習いだが、Eランクはあった。言うことを聞くようになってD、魔物のランクが低い魔物二匹でCと言った感じなんだ。で、一気にAランクにした理由は他でもない、強力な魔物ということと、懐き具合だな。本来テイムしたとしても、懐くのはテイムした当人だけ。お嬢ちゃんが子を抱っこするのも、大臣を背中に乗せるのもあり得ないんだ。もちろん俺が頭を撫でるのも、な」


 あ、それでさっき子ベアの頭を撫でながら親ベアの様子を伺っていたのか。するとファスさんが口を開く。


 「ふむ、とするともしや『ラースの仲間』に対してそうなる、ということではないか?」

 「ああ、ご名答だ。良く分かりましたね?」

 「うむ。やはりグラスコ領でのことじゃが、森でだまし打ちにあった男を親ベアが連れてきたのじゃが、匂いかなにかでラースの仲間と知ったのではと、今気づいたわい」

 「そういえばどうしてオーフが連れてこられたか分からなかったけどそういうことか」


 タンジさんは微笑みながら頷き、ティーカップを口につけると俺に目を向けて言う。


 「ま、そういう訳で、俺すらも撫でさせてくれるようなテイムをされちゃ、認めないわけにはいかんよ。異例だがAランクの資格をラースに渡すことにしたってわけだな」

 「それは、ありがたいですけど、まだ俺が知らないことはたくさんあるんじゃないか?」

 「そりゃあな。だけど、他にやっても多分上手くいくし、大丈夫だと思うぞ?」


 タンジさんはそういうが、俺は指輪を見せてから首を振る。


 「……この指輪。これ、多分魔物を操ることができる魔法道具だと思う。実際これで、ヴァイキングウルフ達と親ベアが操られていたみたいなんだ。だから多分俺の実力じゃない。今度これを外してから何かテイムするから、それまで保留でもいい」

 「うーん、でももう与えちまったしなあ……」

 「なら、タンジさんの知識を全部聞くまで俺はここに通う。じゃないとずるしたみたいで嫌だしね」

 

 俺がそういうと、バスレー先生が不満げに口を尖らす。


 「この際便利だからいいと思うんですけどねえ?」

 「まあ、町を連れて歩く分には利用させてもらうけど、まだまだ知識が足りない。できれば【超器用貧乏】で努力したいと思うんだ」

 「ラースは真面目だからそういうと思ったわ! でも、おうちに連れて帰れるから資格は持っててね♪」


 マキナが笑い、俺もその言葉に苦笑する。まあ、タンジさんに授業料を払う必要があるけどノーラの【動物愛護】くらいになればいいなと思う。


 「また来るよ」

 「ああ、そのでかい母親は預かってもいいぞ?」

 「子グマが居るから連れて帰るよ。まだ庭は空いているしね」

 

 タンジさんの話が終わり、自宅へ帰ろうと足を運ぶ。馬たちも移動中に慣れたようで、親ベアが近くに居ても鼻息が荒くなることは無くなっていた。大通りから住宅街へ入ろうとしたところでバスレー先生が城へ向かう道へ小走りに駆けていく。


 「先生?」

 「わたしは一旦城へ戻りますね。夜は戻りますが、ご飯は……悔しいですがわたしの分無しで……いい、です……」

 「泣くほどじゃないと思うけど、分かったよ。何かあったら教えて」

 「お風呂入れておきますねー」


 俺達が口々に声をかけると、バスレー先生は手を振りながら城へと向かっていった。俺達は姿が見えなくなるまで見送り、家へと戻っていくのだった。

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