第二百九十八話 ウルトラZ!?
「世話になった。ラースを見て少し学院時代を思い出して張り切りすぎたかな?」
「はは、その頭脳を領地経営に使ってくれ。ウチの父さんや兄さんを見ているとかなり大変そうだから」
諸々の処理を終えた俺達はグラスコの町の入り口でルクスと握手を交わしていた。もちろんイルミネートの町へ帰るためだ。
「はは、本当に君たちには助けられたね……生きているのはラース様のおかげだよ」
「いいよ。でもオーフはもっと鍛えてナージャを守れるようにしないとダメだと思うけど」
「そうね、お互い生きていたから良かったけど、領主の姉ならまた狙われたりするかもしれないわよ?」
マキナの言葉でオーフが縮こまって口を開く。
「うう、脅かさないでくれよ……」
「頑張ってね、オーフ」
ナージャが肩を叩きその場に居た全員が大笑いして場が和む。俺は御者台に乗り込むと、ザンビアとバーニッシュに声をかける。
「……ウチの領でも、犯罪をして城で刑を受けた人が居る。そいつは反省して元の町に戻って息子と暮らしているよ。あんた達もルクスを助けて真面目にしていれば、ソニアの態度次第だけど……また一緒に暮らせるかもしれない」
「……! そ、それは本当か!」
喜ぶバーニッシュに頷くと、彼は目じりに涙を溜めて『わかった』と呟いた。根は真面目なんだろう、環境が変わって、心境も変わってくれることを願うばかりだ。ザンビアは無言で俺に頭を下げた。
「では行きましょうか!」
そこでバスレー先生が声を上げ、俺は馬を歩かせる。
「また来てくれよ! 今度は遊びに!」
「今度はゆっくりお茶をしましょう、マキナ、ファスさん!」
御者台から振り返ってみると、背後からルクスとナージャがそう言って手を振るのが見えた。マキナが窓から返すのが見えた。
次に来るときはナージャの結婚式かな? ルクスも結婚相手を早く見つけないといけないし、これから忙しくなるだろう。俺はそう思いながら自然と笑みが浮かんだ。
「さて、早く家に帰ってゆっくりしたいな」
後は帰るだけ、そう思っていたんだけど――
「あ! ラース、前!」
「あー……やっぱり出てきたか……」
「がう」
「くおーん」
「グルル……」
森の中から街道に、あのデッドリーベアの親子とヴィキングウルフが現れた。
実はこの三頭クリフォトの動向調査のためセフィロを連れてもう一度森へと向かう際、一緒に連れて行きレビテーションで森に置き去りにしてきたのだ。
しばらく町の入り口でウロウロしていて、森に帰ったと門番に聞いていたけど、諦めて無かったらしい。馬車を走らせていると、横に並走してついてくる。
「ぶるる……!?」
「ひひん!?」
「ほら、俺達は別の町に帰るから森へ帰れって。馬が怯えているだろ」
「がう」
「がうじゃなくて……」
指輪の力でこうなっているのかと思い、魔力を込めてみるも特に変化は無い。
「どうしよう、このままイルミネートまで付いてくるよ」
「うーん、まあラース君はテイマー見習いですし、イルミネートまで帰ればテイマー施設で預かってもらうことはできるんじゃありませんか?」
「それでいいの!? でも、餌代も馬鹿にならないし飼うのはなあ……」
「がう!」
俺がそういうと、ウルフが素早く森に駆け込み、すぐ戻ってくると口に蛇を咥えていた。
「……自分で狩りをするって?」
「がうがう」
「そうみたいね。魔物ってこんなに賢いの?」
「いや、多分ラースの指輪とテイマーの訓練のおかげじゃろうな。こやつら命を助けてくれたラースに忠誠を誓ったのではあるまいか? 連れて帰ってやっても良いのではないかのう。こっちは大臣もおる、何とかしてくれバスレー」
ファスさんが珍しく無茶なことを口にし、バスレー先生を見る。そのバスレー先生は考える仕草をしていたかと思うと御者台から飛び出した。
「とう! マキナちゃんパス! さあ、ラース君の隣へゴー!」
「ひゃあ!? あ、子ベアちゃん」
「くおーん♪」
デッドリーベアの背中にまたがり、バスレー先生は指を立ててから俺と並走し口を開く
「まあ、子ベアちゃんは可愛いですしお母さんと離すのも可哀想でしょう。魔物は恐ろしいですが、テイムされた魔物なら忠誠心が高ければ危険度は低いので、このまま連れて帰りましょう」
「いいんだ? 俺は構わないけど、次の町はどうするのさ」
俺はバーディ……アルバトロスと出会った町を経由しなければいけないことを告げる。するとバスレー先生はにやりと笑ってセフィロを指さす。
「子ベアちゃんとウルフ君は荷台に乗せて、母ベアはセフィロ君に頼みましょうか」
「?」
俺は首を傾げるが、その答えはすぐに分かった。野宿一日を挟んで町に差し掛かったところで、子ベアとウルフは荷台で隠し、親ベアはというと――
「……なあ、兄ちゃん。こいつは馬か?」
「はい」
「マジで!? どう見ても熊……」
「いえ、どうみても馬ですよね? わたし、これでもレフレクシオン王国の農林水産大臣なんですけど、わたしが嘘を言っているように見えますかね!?」
「名刺……? ほ、本物!? あ、いえ、そんなことは……」
「ですよね。では通行させてもらいますよ。すぐ町を出て行くから大丈夫です」
「……ありがとうございます」
「グルル……」
「今、グルルって言った!?」
「気のせいです」
……申し訳ない。
門番さんには胸中でそういうしかなかった。バスレー先生の作戦とは、セフィロの枝と葉っぱを使って親ベアに装飾を施し、馬に見立てるというものだったのだが……
「……強引すぎる。俺、恥ずかしくて仕方ないよ。それにこいつ、全然馬っぽくない!」
「何を言うんですか! たてがみに口、そして耳! どう見ても馬ですよ! ほら、首をもっと上げて」
「グル」
「いいよ、お前も無理しないで。……このまま町を抜けるよ」
「あの装飾、雑すぎるわよね……」
「ぶるる……」
まるで隠せていない親ベアは、馬の間に挟まり荷台を引いてもらっていた。馬は困惑し、親ベアは素直に従っていた。
結局、バスレー先生が強引に馬だと言い張って一つ目の町を越えたけど、流石に心苦しいので二つ目の町は、装飾を作っている過程で思いついた『セフィロに木でコンテナを作ってもらう』という作戦で切り抜けた。
「これならどうですマキナちゃん!?」
「ごめんなさい……めちゃくちゃ下手くそです」
「ノウ!?」
「魔物の闇売買がこういうことをしておったのう。あの組織は中々巧妙じゃったわい」
「止めてよファスさん……はあ、早く家でゆっくりしたいよ。冒険者になったはずなのに全然依頼を受けてないし……」
何だかんだでグラスコ領に一か月近く滞在していたのかと、膝で寝ているセフィロを突きながらため息を吐く。
「ま、友人を助けることができたし、良しとしとこうか」
「間に合って良かったわ。今度はヘレナとか連れて遊びに行きましょうか、あの高級宿また泊まりたいかも? ふふ、可愛い」
「くおーん♪」
「いいかもしれないな。きっといい領地になるよ、グラスコ領は」
俺はもう見えなくなった町の方へ顔を向け、そう思うのだった。
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