第二百九十六話 タダでは教えない


 「マキナやバスレー先生は知っているけど俺のスキルは【器用貧乏】……いや、【超器用貧乏】と言うんだ」

 

 俺が言うと、オベライドが目を細めて鼻で笑う。


 「はあ? ハズレスキルじゃないか。それで俺の【キングストレート】を使えるようになるわけが無いだろう」


 まあ、思った通りの反応なので特に気にはならないけど、俺はスキルを授かったときに貰ったプレートを見せ、もう一度【キングストレート】を見せ、壊れた壁を打ち抜いた。

 

 「すまないルクス」

 「べ、別に構わないけど……」

 「……何でスキルが使えるんだ……」


 戦慄するルクスとオベライドをよそに、ファスさんとヒンメルさんが口を開く。


 「プレートには【器用貧乏】としか書かれておらんが、なぜ【超器用貧乏】なんじゃ? それが他人のスキルを使える秘密かのう」

 「陛下にはラース君が凄いと聞いたことがあるけど、そんなことができるとは知らなかったよ。バスレーちゃんは知っていたのかな?」

 「わたしも初めてですねえ。まあ隠していたわけじゃ無くて、使う機会が無かったというところでしょう」


 バスレー先生はそう言って俺に笑いかけてきたので頷いて答える。


 「信じるも信じないも自由だけど、俺のスキルは努力すればするほど魔法や技が強くなるというスキルで、これが【器用貧乏】の能力。これは百年前に持っていたという人が居るから知っていると思う。けど、俺の【超器用貧乏】は視認できるスキルを覚えることができるんだ」

 「もしかして、私の【カイザーナックル】も?_」

 「ああ」


 そう言って拳を振るうと、カイザーナックルの軌跡が現れ、マキナが目を見開く。


 「凄い、確かに私と同じだ……」

 「いや、俺は全然使っていないから『使えるだけ』でマキナほど強くない。もちろん【キングストレート】もね。隙を作るために使っただけだ」

 「どうして?」

 「?」

 「くおん?」


 マキナが唇に指を当て首を傾げ、肩に乗ったセフィロと抱っこされた子ベアも真似をして体を曲げる。可愛い。

 

 「うーん、使えるんだけどスキルってだいたい固有のもんだろ? その人に失礼だと思うから、基本的には使わないんだ。ヨグスの【鑑定】みたいなスキルはたまに使うけどさ」

 「この際、便利だから使えるもんは使っちゃっても良さそうですけど、ラース君らしいですねえ♪」

 「ちょっと、頭を撫でないでくれよ……まあ、そういうことで、お前のスキルも使えるってことだ。満足したかい?」


 俺はオベライドと目を合わせて問うと、彼は冷や汗をかきながら頭を振って答える。


 「……教主様とは違った恐ろしさがあるな、お前は」

 「どういうことだ……?」

 「考えてもみろ、視えるスキルならどんなものでも手に入るってことはお前ひとりでどれだけの戦力になると思う? 鍛えれば強くなるならお前が薬でも人質でも取られて洗脳されて『道具』にでもなってみろ、通った後には草一本生えない場所が増えるだろう」


 真面目な顔で言うオベライドの言葉に、確かにその可能性は捨てきれないと思う。


 「これは、あのふたりを殺しかけたことに対する謝罪として忠告させてもらうよ。俺から聞いたけど、これから【超器用貧乏】とやらの素性は話さない方がいい。特に福音の降臨と関わってしまったとなれば、どこで教主様に知られるか分からない。あの男が知ったらどんな手を使ってでもお前の確保に乗り出すに違いない」

 「そんなにヤバいやつなのか?」

 「ああ。これでも嫌な奴や口答えする連中は黙らせてきたけど、あいつは次元が違う。それに国に囲われているから手も出しにくい」

 

 するとヒンメルさんが顎に手を当ててオベライドに尋ねる。

 

 「ふむ、移送中に聞こうと思っていたけど、いい機会かな? 君たち福音の降臨は一体何人いるんだい? それにベリアースとの繋がりも聞きたいところだ」

 「それを知ってどうするんだ? 戦争でも仕掛けるのかい? やめといた方がいい。少なくともこっちから手を出すのはやめた方がね。……メンバーは死んだりしてころころ変わるから俺みたいなのは把握していないよ。ただ、教主には側近が居る、そのじゅ――」

 「!?」

 「きゃあああああ!?」


 オベライドが情報を口にしようとしたところで、口から鮮血が噴き出た! べちゃりという嫌な音がし、床にオベライドのものだった舌が転がる。


 「おが、が、が……」

 「喋るな! <ヒーリング>!」

 

 返り血を浴びながらオベライドの口をこじ開けて魔法をかける。舌が切り取られたら出血による死、生き延びても喋るのは困難と考えて仕込んだと見るべきか……! これが教主の仕業だとしたらおぞましいことを考えるやつだ。目の前でこんなもの見たらトラウマものだし、やられた方も即死した方が良かったと思うような仕打ちと恐怖が植えつけられる。


 「くそ、出血が早い……もっと早く塞がれ! <ヒーリング><ヒーリング>!!」


 俺はいつかのリューゼの時と同じく何度も魔法を使う。そうすることでようやく出血を止めることができた。


 「ふう……」

 「ラ、ラース……」

 「大丈夫だマキナ」


 最悪の光景に体を震わせるマキナの手を取り抱き寄せ背中を叩く。セフィロも俺の足にしがみつき、ウルフと子ベアも俺の下で体をこすりつけてきていた。


 「……少し再生しているね」

 「本当ですか!?」


 自分でやったことだけどヒンメルさんの言葉に驚く俺。

 

 「ラース君のヒーリングは凄いな。助かった。……早く陛下にお知らせせねばならないか」

 「どうします? ルクス君の継承が残ってますけど」

 「彼も血を流しすぎているから安静にする必要があるだろう。情報がもっと欲しい」

 「……喋ってくれるか分からんがな……」


 ファスさんの言葉に珍しく渋い顔をするヒンメルさんはザンビアへ声をかけた。


 「すまないが空いている部屋を貸してくれ、鍵付きでなるべく狭い部屋がいい。地下室のソニアも同じ場所へ」

 「わ、分かりました……!」

 

 腰を抜かしたザンビアはヒンメルさんに言われて即座に立ち上がりメイドを呼びにバタバタと外に出ていった。


 「……怖いね」

 「ああ、福音の降臨……そして教主、か」


 マキナの手を握りながら俺は一言呟いた。

 悲惨な場面も多かったが、これで本当に全てが終わったと、俺は胸中で息を吐いたのだった。

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