第二百九十四話 ウルトラC
「し、死んじゃった……?」
「いや、流石に模倣したスキルじゃそこまでは出来ないよ。【器用貧乏】で努力しないとね」
「えっと、ラース君、サラッと言ってますけど他人のスキルを使えるんですかね……?」
「あー、一応ね。それより、こいつを捕縛してナージャとオーフを安静にしよう」
別にバレたところで問題ないけど、話すのはまた今度。今は事態の収拾をするのが先だと、ふたりをベッドへと運ぶよう提案する。ザンビアとバーニッシュは終始腰を抜かしていたけど、実の娘は流石に心配らしく、慌てて立ち上がり、自分で寝室まで運び始める。
オーフを背負った俺と、ルクスに肩を貸すバスレー先生が後に続いて廊下に出ると、後ろからマキナの声が聞こえてきた。
「そういえば師匠、どうして窓から来たんですか?」
「おお、そうそう、忘れておった。ふたりを休ませたら庭へ行くぞ」
「?」
ファスさんがいたずらっぽく笑い、マキナが首を傾げていた。ヒンメルさん達が帰ってきたのかと思ったけど、それだったらここへ駆けつけてくるはず……まあ行けばわかるかと寝室を経由後、男を引きずったまま庭に出ると、正直「まさか」と思う光景を目にする。
「くおーん♪」
「ガウ」
「わふ」
「ええ!? 子ベアにデッドリーベア!? それにもしかしてあの時のウルフか!?」
「うむ。ワシが外で待っておると、傷だらけのオーフを載せたこやつが突っ込んできおってのう。オーフからナージャが拐われたと聞いて屋敷へ戻ったらちょうど窓ガラスが割れてな。ワシは壁を走り、オーフはそこのウルフが咥えて窓へ連れて行ったのじゃ」
庭でお座りをして待っていたのは熊の親子と、俺に腹を出して降参したウルフを見ながら
ファスさんがそう言う。でも何でこいつらオーフを?
「わ、また会ったわね、子ベアちゃん♪」
「そ、それはデッドリベアーではないか!? こ、殺される……!」
「こいつらには勝っているから大丈夫だ。それより、森で別れたお前達がなんで居るんだよ」
「ガウ……」
少し気まずそうに頭を垂れて俺に擦り寄ってくる親ベア。そこで、入口から門番とヒンメルさん達が雪崩れ込んできた。
「領主様、ご無事ですかぁぁ! 仲間のオーフを乗せたデッドリーベアがこっちに……って居たぁ!?」
「バスレーちゃん、無事かい?」
「ええ、兄ちゃん。こっちは解決しましたよ」
バスレー先生が俺が捕らえている男を指差し答えると、満足気に頷き手をポンと叩いて口を開く。
「オッケー、どうやらラース君が捕まえている男が何かを知っていそうだし、屋敷に戻ろう。こっちの話もしたいからね」
俺達は頷き、荒れた応接室ではなく食堂へと向かう。親ベアは屋敷に入れないが、帰れと言っても帰らないので、騎士達を見張りで置き、子ベアはマキナが抱っこし、ウルフは俺と一緒にてくてくと歩いていた。
あちこちでメイドが引きつらせた顔を見せるが、まあ、緊急事態だったと言うことで勘弁してもらおう。
「ーーさて、無理矢理その男を起こしてもいいけど、先に僕達の方から話そうか。結論から言うと、森の奥に魔物の集団が居た。けど、『指輪』の主が消えたからか、魔物同士で争いあっていてね。しばらく見ていたけど、力に差があるから弱い魔物から先に散り散りに去っていって、森は静かになったかな。あ、でもクリフォトは十五体くらい倒したかな?」
「♪」
クリフォトを倒したという報告でセフィロが小踊りを始め、子ベアが一緒にころころと転がり一緒に遊ぶ。
「ありがとうヒンメルさん。こっちはーー」
と、ソニア達のことを報告してお互いの情報共有を終える。とりあえず福音の降臨がこれ以上出てこなければこの件は収束したと見ていいだろう。
「その男から何か情報が聞けるといいけど、起きないかいバスレーちゃん」
「ダメですねえ。鳩尾を【致命傷】で殴打していますが起きる気配がありません。不完全とはいえ、ラース君の一撃は相当重かったようです。こいつはさておき、ザンビアさん達の沙汰を決めましょうか?」
「……」
そう言われて、ザンビアがフッと笑って居住まいを正す。ヒンメルさんが口を開こうとした瞬間、ガタガタと椅子から転げ落ちるようにバーニッシュがヒンメルさんの前で土下座をした。
「し、審問官様……! ぼ、僕はどうなっても構わない、僕の身で父上の領主の座はそのままにならないか!」
「!? バーニッシュ、お前何をーー」
「う、うるさい! 審問官様、全ては母上の仕組んだこと……父上も止めなかったとはいえ、事情を知らなかったんだからどうか慈悲を……!」
……驚いたな。あの傲慢な態度からは考えられない物言いだ。こいつも事情を知らなかったということで今、自由に動き回れているんだけど、それを捨てて父親を助けようとするとは、正直思わなかった。
それを聞いてヒンメルさんが目を瞑ってから少し考え、バーニッシュに目を向けて話し出す。
「……それは出来かねるかな。もちろんそういう事が無いわけじゃない。ただの貴族なら温情もある。けど、彼は領主なんだ。領民が何かをしたのではなく、妻という身内がしでかした事が問題なんだ。それに、君一人で母親の罪を背負うってことは相応の罰が下るということ。極刑になるかもしれないよ?」
「……!?」
ヒンメルさんが冷たい笑顔で微笑み、バーニッシュが体を震わせ押し黙る。死ぬのは誰だって怖いもの。だからバーニッシュを笑う人は誰も居なかった。
だけど、バーニッシュ顔を上げて言い放つ。
「そ、それで父上達が助かるなら……! ど、どうせ僕は父上の本当の息子じゃない、居なくなった方がーー」
そこまでザンビアを……血が繋がっていなくても、息子は息子か……。こいつにとってザンビアはいい父親で、思い出も良いものだったようだ。しかし、最後まで言い終わる前にバーニッシュに迫る人影があった。
「おデブ!」
「へぶ!?」
「バスレー先生!?」
「な、何をするんだ……僕が身代わりならいいだろう! 罪を犯した母上の子だぞ!」
「お馬鹿!」
二度もぶった!? 俺が慌てて止めようとすると、バスレー先生は手で制し、話を続ける。
「居なくなった方がいいなんてこと、口にしないで欲しいですね。あなた聞いていたんでしょう、ソニアがザンビアさんにあなたを託したこと。もう忘れたんですか? それにソニアがお務めを終えた時、あなたが亡くなっていたらどう思うでしょうねえ」
「そ、それは……」
「男ならソニアの罪が霞むくらい立派なことをして胸を張って生きるんですよ! ……こんなことをさせた奴らのために死ぬことはありませんよ。生きてことを成し遂げる方が何倍いいか」
「先生……」
「身をもって知っておる、という言い方じゃのう。あやつも苦労しておるようじゃ」
マキナとファスさんが呟くと、バスレー先生がポンと手を打って俺を一瞬見る。何だろうと思って目を見ていると、
「あ、そう言えばルクス君、メダリオンはどうしましたか?」
「え? えっと、ここにあるけど……」
急に話を振られて目を丸くするルクスが、メダリオンを懐から取り出して見せた。すると先生はうんうんと頷き言葉を繋げる。
「うーん、どうやら領主の権利はルクス君に移っているようですねえ。これは正式なメダリオン。継承されたら持つことになっていますよね、ラース君」
今度は俺に話を振り、一瞬なんのことかと思ったけどすぐに意図に気づき、俺は頷いた。
「ああ、そうだね。領主が持つことになっているね。なんだい、ザンビア。口ではうるさかった割にルクスに継承していたんだな」
「え? え? ……! そ、そうです! 実はもう継承は終わっておりまして、正式な書状は後日にと思っていました。だから今回の件は元領主と妻がやったこと……ということで……」
「だそうですよ兄ちゃん? どうも、ただの市民が画策した計画を阻止したみたいです」
「はあ……責任は取れるんだろうねバスレーちゃん……」
呆れた声でヒンメルさんがため息を吐くと、バスレー先生がにやりと笑う。
「ま、この人達の今後の態度次第ですけどねえ。ダメだと思ったら剥奪しますよ」
「ま、まさかそんな……ことで……!?」
「死ぬなんてつまらないですからねえ。生きてこそ、見つかることもあります。まずはそのお腹を何とかした方がいいと思いますが」
そう言って肩に手を置くバスレー先生の言葉が聞こえてるか。バーニッシュは床に突っ伏して大声で泣いていた。
そして、そんな中捕縛した男が目を覚ましたーー
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