第二百八十一話 遭遇戦と狙い


 「打ち合わせ通り頼むぜ、お偉いさん」

 「ええ、クラン主体での作戦、期待していますよ」

 

 ――作戦当日、俺達レフレクシオンの使者とバーディのクランが町の出口で合流していた。この後、森へ展開することになっている。

 打ち合わせとは、作戦が決まった翌日、それぞれの代表数名でクランの立てた内容について話を聞いた。 

 肝となる場所は町の出口から東側の森になるとのことで、クランと騎士、混合パーティで森を進むことになる。


 「デッドリーベアやヴァイキングウルフ、それとトレントが主な魔物で、他にもうじゃうじゃ居やがる。何で集まっているのかは分からんが、原因は中心にあると見ていい。何か質問はあるかー?」

 「魔物同士が戦っていることはないのか?」

 「ああ、どういうわけか、一緒に徘徊はしているが同士討ちをしている様子はねぇ。まるで何かに操られている……そんな感じだな」


 オリオラのトレント達と同じか。

 ただ、影響範囲が他の魔物にまで及んでいるようなのであの時よりも面倒なことになる可能性が高い。さらに言うと‟福音の降臨”が関わっていることも想定されるので、城の騎士やヒンメルさんの部下には俺達以外は敵だと思って接するように伝えている。

 

 そして進軍が始まり、バーニィ達クランの人間が前衛、俺達が後衛という立ち位置に展開したので、俺はヒンメルさんに近づき小声で話しかけた。

 

 「ヒンメルさんの部下は大丈夫かな?」

 「うん。ウチの部下……というより、城で働く人間はある程度鍛えていたり、護身法を備えているから基本的に領主一家を制圧すること自体は難しくないんだ。騎士も置いてきているしね」

 「なら安心ですね。バスレー先生はこっちで大丈夫でした? 実はあまり戦えないような……」

 「はっはっは、ラース君やマキナちゃんのいるこっちの方が安全安心ですよ! さあて、そんなことを言っている内に最初の相手みたいですよ」

 「!!」


 バスレー先生の言葉を聞いて視線を変えると、ざわざわと音を立てながら動く木が襲い掛かって来た。かごの中にいるセフィロがバタバタと暴れている。


 「あれはクリフォトか?」

 「!」


 セフィロがこくりと頷き、確証を得る。よく見れば確かに色が違うけど、パッと見じゃ分からない。


 「バーディ! そいつらは切り倒して構わない!」

 「おお!? なんだそりゃ!? ま、襲ってきたら倒す以外方法はねぇな! 野郎どもやれ!」

 「「「おおおお!」」」


 前方のクリフォトに向かってバーディ達が武器を手に攻撃を開始。援護に向かうかと思った矢先、マキナが横を見て声を上げた。


 「ラース、こっちにも!」

 「囲まれていたか、気配が無いのは結構面倒だな……! セフィロ、こいつらもいいんだな!」

 「!!」

 「よし、<ファイアーボール>!」


 俺の手から放たれたファイアーボールはクリフォトに直撃て派手に爆発した後、枝に燃え移る。直後、ファスさんの蹴りが枝をへし折ったので俺はそれをアクアバレットで消化する。


 「さすが師匠……!」

 「マキナ、後ろじゃ! ライトニングと【カイザーナックル】で倒してみろ!」

 「はい! はあっ!」

 

 バヂン! という電気音がしたと思った瞬間、幹が黒焦げてクリフォトがとんでもない勢いで別の木に叩きつけられバラバラになった。


 「イエー! いいですよマキナちゃん! ほらほら、騎士達も頑張ってくださいよ!」

 「気楽なもんだぜ……!?」

 「あの人は平常運転でしょ? <フレイムソード>!」


 騎士達も応援しかしないバスレー先生にぶつくさ言いながらも連携してクリフォトを確実に仕留めていく。脅威となる枝は騎士が、太い幹は魔法使いが燃やしていく。


 「こっちゃ終わったぞ!」

 

 バーディ達も都合三体のクリフォトを倒し、俺達も四体倒したところで静寂が訪れる。武器は納めず、クリフォトの死体を残らず燃やしていると、バーディが俺達に言う。


 「流石に強ぇなそっちも。これなら俺達だけでいけなかった奥まで行けそうだぜ」

 「ん? 途中までは行ったのか」

 「まあな。ここから一気に激しくなるんだ、気をつけろよ」

 「……」


 真面目な顔で言い放ち、俺達に背を向けるバーディ。この心配は本当かフェイクか……? そんなことを思いながらついていくと、間もなく魔物たちが襲い掛かってくる。


 「ヴァイキングウルフだ! 背中を見せるな、丸くなって迎撃!」

 

 バーディの合図で円を作るようにクランの人間達展開し、迫りくるヴァイキングウルフへ迎撃態勢を取った。しかし、通常のウルフと違いこいつらは多角的な動きが出来るようで、足元から攻める部隊と木を蹴って上から襲ってくる部隊で構成されている。


 「マキナは下、俺は上のをやる!」

 「オッケー!」

 「獣相手なら効くじゃろう……雷牙!」

 「!」

 

 俺達も二人一組でお互いの背中を守りながら、臨機応変に地上と上からの攻撃を捌いていく。騎士達はヒンメルさんとバスレー先生を守りながら奮闘を続ける。


 「くそ、噛まれた!? 離せ!」

 「グルルル……!」

 「うらぁあ!」

 「きゃひん!?」

 「やったぜ! ってうおお!?」

 

 「数が多いな、しかも仲間がやられても撤退しないなんて……! <アースブレイド>!」

 「<ライトニング>! たあ! これで五頭! 次! ……ってええ!?」

 「どうしたのじゃマキナ? なんと!? まずい、皆の者避けろ!」


 ファスさんが珍しく焦った声を上げたので、マキナとファスさんの視線の先を見ると、その方角から物凄い勢いでデッドリーベアが走ってきていた! 熊の全力疾走は自動車並みに早い上、その巨体から繰り出される体当たりは強力だ、まともにぶつかったら鎧を着ていても内部に損傷が出来るほどに。


 「正面からならこれでいけるか! <オートプロテクション>」

 「グォォォォォ!」

 「ラース!?」


 オートプロテクションなら相当なダメージが出ない限り、破られることは無い。これで足止めをして一斉に攻撃して仕留めれば問題ないだろう。俺はぐっと足を踏ん張り、衝撃に備える。


 だけどその直後――


 「グォウ……!」

 「何!?」

 「ええ!?」


 何とデッドリーベアは俺にぶつかる少し前で横に飛び、俺の横を通り過ぎていった! こいつ分かってるのか!?


 「あ!? バスレー先生!」

 「あーれー!?」

 

 俺が止めようと振り返るが、ダッシュの勢いを殺さないまま、なんとバスレー先生に体当たりし、そのまま背中に乗せて走り去っていった。


 「くそ! どういうつもりだ? 追いかけないと……!」


 しかし、デッドリーベアの登場で連携が乱れていた俺達はヴァイキングウルフの大群に囲まれていた。その中にはクリフォトも姿を現していた。


 「バーディ達は……! いない!?」

 「ビンゴか。おおむね了承していたとはいえ嵌められたのう」

 「いいさ、即座に蹴散らして追いかけるだけだ」

 「ラースだけでも先に……あれは……?」

 「どうしたマキナ?」

 「あそこ、何か走ってきてない?」


 マキナが指さす先に、小さな黒い塊ががさごそとこちらへ向かっているのが見えた。


 「くおーん……くおーん……」

 「あれって、対抗戦で見たことある!」

 「デッドリーベアの子供だ!? まさかさっきのやつの子か!?」

 

 ポテポテと短い脚を動かして必死に走る子ベア。それを敵とみなしたか、ヴァイキングウルフが数匹、その前に立ちはだかる。


 「流石に見捨てておけないか……! セフィロ、お前も手伝ってくれ! マキナ、ファスさん、子ベアを助けたらそのままバスレー先生の所へ行くからここは任せるよ」

 「ええ!」

 「任せておけ」


 俺は頷き、行動を開始する!

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