第二百七十四話 ルクスの足取り


 「最近外出がしにくくなっていて客足が少なかったんだ、ありがとうよ」

 「大変ですね、まだこの町に居るのでまた買いに来ますね!」

 「ははは、よろしく頼むよ」


 町を散歩感覚で歩き回り、東の商業区域を重点におかしなところや、ルクスのことを訪ねていたが特に手がかりとなるものは無かった。

 すでに昼も回っており、今は雑貨屋で情報を聞きつつ冷やかしは悪いので傷と魔力を回復するポーションを二本ずつ買って店を後にする。


 「町の住人はいい人ばかりだね。さっきのレストランも応対がとても良かったし、料理も美味しかった」

 「そうね! ここにいる間はいろんなお店で食べましょうね。でも、領主様達の評判はそこまで悪くなかったのは意外だったわ」

 「外面は良さそうでしたからねえ、あの女狐は特に。バカ息子はあまり考えていないと思いますが、領主の跡継ぎが町民に嫌われるようなことをしているわけもないってところでしょうか。もしザンビアさんがそういう人間であれば町民にリコールされているはずですしね」


 バスレー先生が横柄な領主は選挙で不利だからと暗に言い、俺も確かにと納得する。数年に一回、選挙があるのだから町民の人気を取っておくのは当然だ。


 「とりあえず領主一家もそうじゃが、探しているルクスという者も良い人物のようじゃの。姿を見せなくなって心配する声も多かった」

 「ああ、冒険者じゃないけど、何でも屋みたいな仕事をしているみたいだ」


 俺達がルクスについて尋ねると、誰もが口をついて助けられている、早く見つかってほしいと言っていた。姉のナージャ共々町の手助けをいろいろとやっているらしく、姿が見えなくなって心配しているのだという。


 「一年の対抗戦の時はあいつの策略で振り回されたものだけど、あの時の学院長の言葉を受け止めているようで安心するよ。学院の中だけ猫を被っているとかじゃなくてさ」

 「実家とわだかまりがあったと思いますけど、同じ次男で貴族のラース君と張り合っている内に正しいことが何かを掴んだじゃないですかね。あの頃の年で嫌なことがあると性格が捻じ曲がるものですが、人の出会いによって修正されるもの。それがラース君だったってことです」

 

 ふふんと鼻を鳴らすバスレー先生。なぜかべた褒めされて俺は恥ずかしくなり、その言葉に俺は聞きかえす。

 

 「なんだか随分詳しいけど、バスレー先生もコンプレックスがあったのかい?」

 「んー……フッフッフ、それは――」

 「それは?」

 「秘密ですねえ。ま、わたしのことはいいじゃありませんか! 今はルクス君を探さないとですよ」


 俺とマキナはバスレー先生の回答にずっこけ、前に出たバスレー先生の背中を見て、なんだよそれと口を尖らせる。

 結局、夕方まで聞き込みをしたけどルクスの足取りを掴むことは無く、二十時になってからギルドへ赴きバーディ達とまた酒盛りを始める。

 流石に冒険者として活動しているだけあって、重要な話……依頼主やいつ行動するなどは教えてくれず、ただバスレー先生がバカ騒ぎをして終わっただけだった。


 「こいつはきつい酒だぜ? お前に飲めるかな? くっく……」

 「よくぞ吠えましたね! この酒瓶が目に入らぬか! わたしはバスレー、不可能を可能にする女……!」


 もちろんそんなことは無く、ダウンしたバスレー先生を連れて宿屋へ戻る。水を飲ませ、お風呂に入れると落ち着いたようで、俺達は集まって昼間の話を続けていた。

 

 「さて、クランの連中からは情報は手に入らんかったな。ルクスのことは知っておるかもしれんが、何とも言えん。それにしても虚言で城から人を呼んだのであれば、入り口付近や領主邸の近くで見張っておくのが肝要じゃと思うがな。もしくは明日以降に姿を現すと見るが……」

 「夜中に尋ねてくるか? いや、だったらもっと早い段階で接触してきてもおかしくなさそうなんだけどなあ……」

 「明日の昼過ぎには兄ちゃん達も到着しますから、またザンビアさんに話を聞いてみましょう。ついでにギルドでのことを聞いておきたいんですよね。夜は資料を確認するので、何かあればファスさんを起こします」

 「あい分かった。ワシとマキナは先に休むとしよう。ラースはどうする?」

 「俺も部屋に戻って休むつもりだ。早朝にちょっとやりたいことがあるから、もしかしたら朝は居ないかもしれない」

 「うん。レビテーションとインビジブルを使って空から探すのよね?」


 長い付き合い故に何をするか言わなくても把握しているらしい。こういうとき自分も行くとわがままを言わないのがマキナだ。俺が三人の部屋を出ようとすると、セフィロが俺の足に抱き着くように取りついた。


 「!」

 「お、どうした? マキナと一緒じゃなくていいのか?」

 「!!」


 俺がそういうと、セフィロはよじ登ってきて俺の肩に座り込み、花を咲かせ一息つく。


 「あら、今日はラースと一緒がいいみたいね? それじゃかごを持って行って」

 「ん、分かった。お前、ホント賢いよな。大人しいし」

 「♪」


 褒められたのが嬉しかったのか、頬ずりをしてくるセフィロ。木なのでザラザラしているが、とても嬉しそうなのでとがめないでおく。部屋に戻ってコップにウォータで水をやった後、ベッドに寝転がり、目をつぶって思考を巡らせる。

 

 「……ルクスを追うにしてはザンビア達の動きはかなり鈍い。妻のソニアとバーニッシュは苛立たし気に語ってはいたけど、見つかれば御の字くらいの態度だった。ルクスは虚言を吐いてでも城から人を呼びたいと思っていたようだけど、領主側はそれほど重要じゃない? ……あ、いや……違うな、ルクスが領主たちにとって重要な何かを掴んで姿を消したけど、領主達がそれに気づいていないんじゃないだろうか」


 ――その可能性は十分高い。それに気づくまでにルクスを見つける必要があるなやっぱり。


 それとギルドに集まっていたバーディ達の依頼主。これは明日ザンビア達に聞いて動揺するか観察してみるか……


 「ふあ……」

 「♪」

 「なんだ、布団で寝るのかい? まあいいけど、つぶされても文句言うなよ?」


 俺があくびをするとセフィロは布団に入りこくこくと頷く。なんかアイナが小さいころを思い出すな。いや、五歳だから十分小さいんだけど、あいつは三歳くらいのころからよく俺の布団で寝ることが多かったんだよな。夢で見たセフィロが近い年齢だったからそう思うのかな? そんなことを考えていると、俺はいつしか眠りにつき、そしてまた、夢の中で――

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