第二百七十一話 今後の指針を決めていこう


 「ということはルクス君がそういうことをしたって知っている人はいないってこと?」

 「そうなるわね。半年前、屋敷で何があったのかは私も知りたいくらいだもの」

 「そういえば……バスレー先生からその話を聞いたけど、どこから情報を仕入れたのさ」


 俺がバスレー先生に聞くと、顎に手を当てていた先生はなにやら考え込んでいて俺の声が聞こえていないようだ。


 「バスレー先生?」

 「ハッ!? ああ、すみません。今晩の夕食は何がいいか考えていました」

 「正直だけど、このタイミングでその発言はどうかと思うよ? それよりバスレー先生、ルクスが義母を殺しかけたって話はどこで聞いたんだ?」

 「その話ですか。兄ちゃんがここへ来る切欠の一つなんですが、城にこんな封書が届いたんですよ『グラスコ領の次男が義母殺しを企てた、調査に当たられたし』と」


 なぜか老婆の声真似で手紙に書かれていたという内容を口にする。なるほど、リーク情報か……トレント騒ぎと合わせてこっちに向かわせたって感じだな? しかし、町の人間もナージャも知らないとなるとこれを送ったのは――


 「ルクスが出したってことで間違いないな」

 「そうね、お姉さんが知らない、町の人も知らないうえに当の本人が知らないとなるとそれしかないわ。でもどうして自分が殺そうとしたなんて書いたのかしら?」

 「虚言だとしてもあいつはナージャを使わないさ。バーニッシュでもいいと思うけど、関係性から言ってルクスがやったという方が信憑性は高くなる。さらに誰かを呼ぶなら傷害を示唆した方が緊急性が増すってところかな。ここまで考えてやったのなら、頭の回るルクスだと思う」

 「ならどこかに潜伏を……?」

 

 恐らくと俺は頷くと、今後の話に切り替えることにする。


 「俺達はナージャに会わなかった、まずこれを徹底していこう。以降はオーフを通してのみやり取りをしよう、そして何かがわかるまで接触はしない」

 「うむ。人が増えると隙ができやすい。ワシらはワシらで動く方が良かろうな」

 「そう、ですか。僕にできることがあれば遠慮なく言ってください。協力は惜しみません!」


 オーフが気合を入れて俺達に言うと、ナージャも続けて頭を下げながら口を開いた。


 「騒動には関係のない皆さんに頼むのは心苦しいんだけど、他に頼れる人もいないの。どうかルクスをお願いします」

 「ああ、というかナージャさんも気を付けてくれ。俺達はオーフが手配した宿にいるから、最悪逃げ込んできてくれれば何とかするよ。大臣であるバスレー先生がいるし、下手なことはしないだろう」

 「ええ、ありがとう。この地下室もいろいろな出口をいくつか作っているから逃げるのは難しくないわ。スキルもあるし」


 ナージャがそう言って笑い、会話を終了させて外へ出る。慎重に地下への扉を閉めてから俺はオーフへ声をかけた


 「オーフはこのままひとりで戻ってくれ。俺達は歩いて宿まで戻るよ」

 「え? お送りしますよ?」

 「いやあ、事情を知る前ならともかく今の状況であなたと一緒にいるのはちょーっとお互いのリスクが高いですからね。とりあえずこの時間まで何をしていたのか言い訳を考えておく方が先決ですよ」

 「た、確かにそうかもしれません……ちょっと浮かれすぎていたかもしれません……僕は門のところにいますから声をかけてください」

 「他の門番は信用できるかい?」

 「えっと……特に良くも悪くもないかと思います」

 「オッケー、ちょっと連絡方法を考えておくよ。ちょっと隙が大きいから気を付けなよ? 敵は身内、そういうこともあるから話す相手は慎重に。ナージャさんが大事なら猶更ね」

 「は、はい……! そ、それでは僕はこれで!」


 俺がそう言うと、慌てた様子で頭を下げた後、馬車に乗り込みこの場を去っていった。危機感が無いわけじゃないけど、どうも安心を得ると緩むタイプの人間っぽいかな? あと、分かりやすいなあ。


 「あやつ大丈夫かのう」

 「人がよさそうなだけに心配だよな」

 「……連絡が取れるかしら? ナージャさんが心配だわ」

 「連絡手段はもう考えているから多分大丈夫だ。宿へ戻ろうか、到着してからあまり休む暇もなかったし、お腹もすいたしね」


 到着した時は十五時くらいだったけど、空を見ればすっかり陽も暮れてしまっていた。後ろを歩くバスレー先生が溜息を吐いて首を振る。


 「資料確認をしないといけないし、ルクス君もそうですがクリフォトや魔物のことも考えないといけないんですよねえ。とりあえずすぐ見つかるといいんですが」

 「俺としてはルクスの虚言ってことみたいだから、ヒンメルさんが到着してもルクスが処断されることは無さそうなことにホッとしているけどね」

 「どっちにしても早く見つけて、どうしてそんなことをしたのか聞かないとね」

 「ああーもう! やることが多いですねえ! ハンバーグをたべたーい!!」


 そんなバスレー先生の叫びが空に響く。

 俺はいつもの姿に苦笑し、急ぎ宿へ足を運ぶ。


 ……さて、俺はどう動くかな?

 領主側はバスレー先生とヒンメルさんに任せてしまって、俺とマキナ、ファスさんが探索へ乗り出すのがいいか? 

 策はいくつかあったが次の日、面倒なことが起こってしまう。

 

 それは――


 「こちらに居ると聞いて会いに来ました。マキナさん、町をご案内させてください」

 「嫌です」

 「お前、よく俺が居る前でそんなこと言えるな……」


 領主の息子、バーニッシュが宿に現れたのだ。目的は俺達の監視か?

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