第二百六十二話 グッジョブ、国王様


 <イルミネート城・会議室>


 「ふむ、騎士を連れて行ってもらおうと思っていたが、他でもない、顔見知りで実力もあるラースが行くというのであれば願ったりだな」

 「はい。とはいえ件のグラスコ領で問題となっている人物は、わたしも教師として在籍させていただいていたオブリヴィオン学院の生徒でした。少なからずラース君も関わりがあるので、そのうち向かうのではと思っていましたけどね」


 ――円卓状のテーブル。

 その中のひとつの席に座っているバスレーが国王アルバートへ同行者について報告を行い、許可をもらったところだった。ルクスの件も包み隠さず話をし、ラースのやりたいことについても話をした。


 「僕も知らぬ仲では無いので、僕も助かりますかね」

 「兄ちゃんのことなんかもう忘れてますよきっと」

 「酷くないかな!? ……とまあ冗談はさておき、雷撃のファスも同行してくれるらしいので、戦闘面に不安はないかと思います。彼女に加え、ラース君、マキナちゃん、バスレーちゃんに僕。お供は必要ないかと」


 ヒンメルが笑顔で言うと、アンナが口を開く。


 「雷撃かあ、私も行ってどう戦うのか見てみたいわ。陛下――」

 「ダメに決まっておろう」

 「早いですね……ま、戦闘要員はそれでいいとして、別で調査員は行くんでしょ?」

 「ええ、わたしはラース君達と。兄ちゃんが調査員と言う感じで分けていきます。出発は明日の朝になっています」

 「あれ!? どうして仲間外れにされてるのかな!?」

 「わたしが嫌だからに決まってるじゃないですか」

 「ええー……」


 悪びれた様子もなく言うバスレーにがっくりと肩を落とす。他の大臣達はいつもの光景に苦笑していると、アルバートが手を上げて場を落ち着かせて話に区切りをつけた。


 「では、ヒンメル、バスレーの両名はグラスコ領へ。調査隊は各大臣の部下から数名向かうよう手配を頼むぞ」

 「「「はっ!」」」


 声を揃えて大臣達が頭を下げると、そこでアルバートの隣にいた王子のオルデンが口を開く。


 「父上、私もグラスコ領へ行ってみたいのですがいかがでしょう?」

 「何? 急にどうしたのだオルデンよ」

 「ラースが行くというところに興味があるのと、調査員がどういう仕事をするのか視察も兼ねて、という感じです。私は城からあまり出ることが無いので他の領地や町を見てみたいのです」

 「ふむ……」


 オルデンはさらりとそんなことを言うが、大臣達は内心『止めてくれ陛下』と冷や汗を流す。ただでさえゴタゴタしているグラスコ領へ王子が行くとなれば危険度は増し、それを護衛するのも大変だからだ。

 アルバートが目を細めて思案し、やがてオルデンに告げる。


 「グラスコ領へは物見遊山ではなく調査で赴くのだ。お前の言う通り見分を広げる経験は必要だが、今回は慎重にことを運びたい。別の機会にしてくれ」

 「くっ……」

 「お前が無能とは思っておらんが、仕事の邪魔になるかもしれんからな」

 「かしこまりました」

 「ただ……バスレーよ」

 「んがんぐ……!? なんでしょうか……? ひゃっく!」

 

 急に名前を呼ばれ、変な唾の飲み方をしてしゃっくりが出だしたバスレーが返事をすると、アルバートが微笑みながら言う。


 「グラスコ領から戻ってきたら、ラースにオルデンをどこかの町へ案内するよう頼んではくれんか? 旅行ということならお忍びも悪くないのでな」

 「はあ……あの子達も忙しいから聞くだけ聞くということでよろしいでしょうか?」

 「うむ。それでいいかオルデン?」

 「はい! これはこれでアリ、かな?」

 「では会議は以上だ。各自仕事に戻れ!」


 アルバートが締め、オルデンと共に会議しから出ていくと、弛緩した大臣達が胸を撫でおろして話を始めた。


 「いや、さすが陛下だ。よく決断してくれたよ……」

 「そうねえ、オルデン王子に何かあったらさしものバスレーも首が飛ぶだろうし」

 「わたしをなんだと思ってるんですかね!? まあ、陛下が行っていいとか言いだしたら手を上げて進言するつもりでしたけど」

 「それが出来るのが凄いぜバスレー……ヒンメル、ウチから人を出そう」

 「ああ、助かるよ、それじゃバスレーちゃん、明日からよろしく頼むよ」

 「……ええ!」

 「それじゃ私も行くわね、トレントの調査頑張ってね」


 ヒンメルやアンナが調査員の話をつけにぞろぞろと出ていくと、残されたバスレーも城を後にする。時間は昼過ぎ。副大臣に明日からの仕事は頼んであるのでこのまま直帰しても構わないかと足を自宅へと向ける。


 「……さて、調査員と一緒に行動するのは得策ではありませんねえ」


 ◆ ◇ ◆


 「こんな感じでいいかな?」

 「荷台の椅子の下を荷物置き場に改造するとはのう、さすがじゃなラース」

 「ありがとう、まあこれくらいは誰でも考え付くと思うけどね」

 「♪」

 

 買い出しから帰ってきた俺達は早速荷造りを始め、ちょうど馬車の改造が終わったところだった。四人旅だし、道中の食料と数日の着替え、そして装備もあるため少しでも容量を増やせないかと考えた末、ソファのような椅子の下に空間を作ってスツールみたいにしたのだ。

 汗を拭いていると外からマキナの声が聞こえてきた。


 「ちょっと遅くなったけどお昼にしましょうか! ラースには及ばないけど、スクランブルエッグにソーセージのスライスをトッピングしてみましたー」

 

 馬車から出るとマキナが庭に設置してあるテーブルにサンドイッチとスクランブルエッグ、それとオニオンスープを用意してくれていた。


 「十分だよ。セフィロは水でいいのか?」

 「♪」

 「ふふ、いいみたいね。オレンジジュースとかで養分をとれないかしら? 飲んでみる?」

 「!」


 興味があるのか、コクコクと頷くセフィロ。そこへマキナが大きめの器にオレンジジュースを注いでテーブルに置く。


 「ほら、テーブルだ」

 

 セフィロをテーブルに置くと、スルスルと枝を伸ばしてオレンジジュースにつけると――


 「!!」

 「わ!?」


 セフィロは器に体を浸けてお風呂みたいに背を預けていた。


 「♪♪」

 「凄いのう、花が満開じゃ」

 「よほど気に入ったのかな? ならオレンジジュースも持って行かないとね」

 「!」


 セフィロがよろしくと言った感じで枝を上げるのを見て俺達は声を出して笑う。さて、そろそろお昼を食べようと思ったその時、


 「戻りました!」

 「あれ、バスレー先生早いですね?」

 「会議が終わって、諸々決まりましたから帰ってきました。おっと、大丈夫です。仕事は副大臣に任せて来ていますのでご安心を!」

 「まだ何も言ってないけど、察してくれて助かる。それで出発は?」

 

 俺はサンドイッチを口に入れながら尋ねると、バスレー先生は真顔で返事をする。


 「今からです」

 「は? いや、それは急すぎないか?」

 「今からです」

 「ヒンメルさん達は……?」

 「大丈夫です! さあ、荷物をまとめて出発ですよー!」

 「ええー……?」


 バスレー先生は声高らかに宣言する。早い方がいいけど、聞きたいことがあったんだが……

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