波乱のグラスコ領編
第二百五十八話 気になること
「……」
「にゃん」
「!」
「おう、どうしたラース? ぼーっとしてんな」
「あ、ごめん。なんだい?」
「足元、見てみろ」
「わあ!?」
タンジがそう言い、俺が足元を見ると、セフィロと子雪虎がぴたっとくっつき、母雪虎が俺の足をぐるりと一周するように体を寄せていた。
「ずいぶん上の空って感じがするが、どうした?」
「おや、ちょっと最近色々あったから疲れたのかもしれないな。デッドリーベアの小屋を掃除してくるよ」
「いや、無理しないで今日は帰れ。思いつめた顔をしている。そんなんじゃ、テイムの訓練は無理だ」
「……そっか、分かった。すまない、ありがとう」
「何があったか知らないがあまり悩むなよ? 訓練は疲れが取れてからでいいからな。子雪虎もそろそろ、お前を信頼しつつある。次のステップまであと少しってところだな」
「資格はまだまだかあ」
俺が少しおどけてそう口にすると、タンジは俺の背中をバンと叩いて笑いながら返してきた。
「あったりまえよ! お前は覚えがいいけど、魔物に関しちゃまだまだ初心者だ。背中を撫でただけでコンディションが分かるくらいにはなって貰わないと」
「凄いな、そんなことまでわかるのか」
「ああ。友達みたいに接するようにいつも一緒に居ればな。よく勘違いして奴隷みたいな扱いをするやつがいるんだが、そういうやつは資格をはく奪している。見ればわかるし、ギルドカードにテイマーの有効期限を刻むから逃げられないからな」
タンジはそんなことを言いながら俺を見送ってくれた。
うーん、確かにペットを飼っているものだと思えば規則は必要だよな。魔物は狩る存在ではあるけど、こっちの都合でテイムするわけだから魔物と言っても好きにしていいわけじゃない。
でも規則をガチガチにしすぎてもなりたいと思う人間が減るような気もするな……この施設、もっと有効活用できないものか?
「っと……いけない、つい余計なことを考えちゃうな」
「!」
「にゃ」
セフィロと子雪虎をかごに入れ、両手で抱えて家へと歩き出す。いつもなら昼を過ぎてから帰宅するので、まだ昼になっていないこの時間に帰るのは珍しい。とはいえ毎日通っているわけでもないんだけどね。
「昼ごはんは俺が何か作るかな。気晴らしもしたいし」
「!」
「にゃーん♪」
「ご飯の時だけは愛想がいいよなお前……」
子雪虎がかごの中で文字通り猫なで声を出し、俺は呆れながら苦笑する。ずっと子雪虎と呼んでいるけど、タンジが名前を教えてくれないのでそのままだ。名前はあるらしいけど、教えない理由はあるとか。 ちなみに最終試験は森などにいって本当の魔物をテイムすることが資格を手に入れる条件となる。
「ふう……」
「!」
俺は商店街を歩きながらため息を吐くと、セフィロがかごの中で枝をぱしぱしとさせて俺の気を引こうとする。
「心配するなって。さ、買い物をしよう」
……さて、俺があまり気合が入っていない理由。それは先日バスレー先生に聞いたルクスのことである。同じクラスではなかったけど、対抗戦での勝負や卒業式での会話。同じ次男と言う立場ということもあり学院時代はリースと共にそこそこ交流があった人物なので、人柄は把握している。
冷静なように見えて我が強く、自分が間違っていないと思えば突き進む性格ではある。が、周囲の人間が止めれば考えるくらいの融通はきく。
「母親を殺しかけた、か。そういえば父さん、ルクスと義母の折り合いは悪かったとか言ってたな。妾の子だとかで、確かお姉さんがいたっけ」
一年の対抗戦が終わった時に見かけたが、それ以降は話をしていないので名前も覚えていないけど確かにお姉さんがいた。あの人が近くに居たらそんな凶行には及ばない気もするんだけど……
ルクスに一体何があったのか?
学院を出た今、俺とは関係が無いと言われればそうかもしれないけど、友人が極刑に合うかもという話はやはりショックだなと食材を買いながら思うのだった。
◆ ◇ ◆
「――で、そのプリンというやつがまた絶品なんですよ。茶碗蒸しとかいう亜種も、まあ、悪くありませんでしたねえ」
「いいなー、あんたが下宿している家の子ってガスト領主の息子なんでしょ? まあ次男は自由って聞くけどさ。それより、プリン食べさせてもらえるよう頼んでよ」
「アンナにも作って貰えるよう頼んでみましょう! なあに、わたしが頼めば一瞬ですよ」
「いや、何かあんたが頼んだらダメそうな気がしてきたわ」
ラースが食材を買いこんでいるころ、城ではバスレーが、仕事の合間、同僚相手に自慢話に花を咲かせていた。
「大臣の仕事はもう引き継いだの?」
「ええ、ケディもようやくお役御免で農林水産大臣部屋を引き払いましたね」
「そっか、女性の大臣って少ないからまたよろしく頼むわ」
「アンナの魔法師団に比べれば大したことはありませんがねえ」
階段近くにある休憩スペースで他愛ない話をするふたり。するとアンナが思い出したように話題を出す。
「花形だけど、苦労も多いってね。そうそう、次男と言えばグラスコ領に調査員を派遣するって話聞いた?」
「……それは初耳ですね。詳しく」
「耳でっか!? ……もう、相変わらず真面目にしないわね。まあいいけど。次男のルクスって子が義母を殺そうとしたって話、どうも怪しいらしいのよね」
「冤罪、とかですか?」
「うーん、それが――」
アンナが口を開こうとしたところで、横から声がかかる。
「バスレー、それにアンナもいるのか。ちょうどいい、陛下が大臣を集めて話があるそうだ。すぐに会議室へ向かってくれ」
「? お昼ご飯前に招集? 珍しいですねえ」
「詳しいことはわからん。とりあえず向かってくれ。他にも声をかけねばならんからな」
「はいはい、行きますよっと」
「よく分からないけど、陛下の招集を無視するわけにはいかないわね。行きましょうか」
「そうですね。もしかしてグラスコ領のことだったりして! そんなわけないですよねえ、あはははは!」
バスレーは会議室へと向かい――
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