第二百五十四話 訓練開始!
「ラース=アーヴィング……貴族だったのか。道楽で魔物をペットにしたがるやつもいるから珍しくはないけどな。そうだ、自己紹介がまだだったな。俺はタンジという、よろしくな」
「俺は家を継がないからただの冒険者だけどね。よろしくタンジ」
「それじゃこっちの扉から訓練場に出るんだ、ついてきてくれ」
俺は頷いてタンジのあとをついていき扉を抜ける。そこは学院のグラウンド並みに広い更地だった。扉を閉めた後、俺はタンジへ尋ねる。
「こいつを外に出してやっていいか? かごの中は流石に窮屈だと思うんだ」
「構わんぜ。ここは一見木の柵しかないように見えるけど、強力な魔力障壁が張られていてな、ちょっとやそっとじゃ魔物は逃げ出せないようになっている」
「へえ、パッと見じゃ分からないな」
「見てろよ? <ファイアアロー>」
タンジが魔法を放つと、炎の矢が柵にぶつかる直前、俺やサージュのオートプロテクションのような魔法陣がそれを遮った。なるほど、柵の内側に魔法を施しているのか。
「それなりに強力な障壁だね。ほら、外だぞ」
「♪♪」
ミニトレントをかごから出してやると、頭にいつもより多く花を咲かせ、伸びをするように体を左右に揺らしていた。
「それなりって……先代の魔法使団の団長が作った魔法障壁なんだぞ……」
「俺も使えるからどのくらいなのか分かるよ<オートプロテクション>。ミニトレント、俺に攻撃してみてくれ」
「!」
一瞬考える仕草をするが、ミニトレントは俺の言う通り叩きつけるように枝を伸ばし俺の足に攻撃して来てくれた。その瞬間、久々にオートプロテクションの魔法陣が足元に現れる。
「げ……!? そ、それ古代魔法だろ!? なんでお前みたいに若い奴が使えるんだよ……」
「スキルと訓練の賜物ってところかな? それじゃ何からやればいい?」
オートプロテクションはティグレ先生相手に何度も使っているから習熟度はかなり高い。サージュの口からでる火球は防御できることは確認していたりする。
「そのトレントもテイムしたわけじゃないのに懐いているし……古代魔法が使えるのにテイマーってのもなあ……変な奴だなラースは。
「覚えておいて損はないし、必要なことだからな。幸い、俺は他の人より習熟できることが多いから、生きている内にやれることはやるつもりなんだ」
「そりゃすげぇな……コホン、まあいい! なら全力で教えてやるから覚悟しろよ! そこの椅子に座れ」
タンジが俺を丸太と言って差しつかえない適当な木の椅子に座らせ、ミニトレントが膝に乗ってくる。 そして建物に立てかけてあった黒板を俺の前に持ってきて、説明を始める。
「では最初の講習だが、テイマーをやるにあたって覚えておかないといけないことが実は結構多い。それから話すぞ――」
と、まずは座学からのようで黒板にカツカツと文字を打っていく。とりあえず心構えとしてはこんな感じで、
・自分よりも強い魔物はテイムできない。
・テイムをすることで徐々に懐いていく。
・魔力量によってテイムできる魔物の数は変わる。
・魔物にも相性があるので相性の悪い魔物同士をテイムすることはおススメできない。
・名前をつけると『ネームド』と呼ばれ、他の同個体とは違う存在になる。
・魔物に魔力印を刻むことで主従関係になれる。
・主人が死んでもテイムが切れない。
という感じらしい。
他にもまだあるみたいだけど、まずは基本からなのでこの項目を頭に刻んでおけとのこと。
「――とまあ、口で言っても分からん部分はあるからとりあえずやってみるか。まずはそのトレントに名前をつけてやれ。そしたら変化があるはずだ」
「名前か……俺、名前をつけるの苦手なんだよな。なんて名前がいい?」
「!」
ミニトレントを持ち上げて聞いてみるが、もちろん返事があるわけも無く両手の枝を元気よく掲げるだけであった。
「あまり変な名前にはしてやるなよ、可哀想だからな」
「わかってるよ」
腕組んで目の前に立つタンジが苦笑しながら俺に言う。そう言われるとプレッシャーがかかるなと思いながらも考えを巡らせる。
木……木か……やっぱり樹木とかそういう感じの名前がいいだろうか。向こうの世界にそういうの何か無かったかなあ……ユグドラシルとか? こいつ小さいし壮大すぎる気もする……あ、そうだ!
「よし、今日からお前は『セフィロ』だ」
向こうの世界で生命の樹と言われているセフィロトのことを思い出した俺。だけどやっぱり壮大だし、名前っぽくないので『ト』を抜いてセフィロにしたのだ。
「♪ ……!!」
「お、いい名前じゃないか。みろ、少し変わるぞ」
タンジが口笛を吹いてそんなことを言い、くねくねと喜ぶミニトレント……セフィロの頭にはかつてないほどの花が咲き誇り満開になっている。
そして――
「おお……?」
「!!」
セフィロの左側頭にあたる部分に羽飾りのような感じで大きな葉っぱが一枚生えてきた。
「オシャレな感じになったな」
「♪」
続けてセフィロは俺の膝から飛び降り、俺の前に立つ。何をするのかと思ったところで、両手の枝が俺の両脇に伸び、ひょいっと抱えられる。
「お、なんだ?」
「!」
そのまま小さい自分の頭の上に俺を載せた。
「!?」
……が、流石に重みでつぶれてしまう。ぐしゃっと嫌な音がしたので俺は慌ててセフィロを抱えてぺちぺちと叩いた。
「だ、大丈夫か!?」
「ははは、無理したなこいつ。人を抱えられる力がついたから載せられると思ったんだろうな」
「!」
どうやら大丈夫みたいで、俺の手の中でがっくりと落ち込む。地力で枝の力は上がったけど、幹の部分はまだまだらしい。というか小さいからこれはしょうがないと思う。
「お前は無理しなくていいんだって。まだ役に立たないって決まったわけじゃない。これからこいつも強くなるんだろ?」
「ああ、そいつ次第だが能力を使って覚えていけばきちんとな」
「だってさ」
「♪」
それが嬉しいようでセフィロはこくこくと頭を縦に振り、頭に花を咲かす。それにしてもなんでこいつはこんなに懐いているんだろうな? さっきの話からすると、テイムをしたことになっていないはずなので懐くはずはないんだけど。
「よし、それじゃ次はテイムの訓練だ。そいつじゃない他の魔物を連れてくるぞ」
そう言って広場にいくつかある小屋へと向かっていった。他の魔物……暴れイノシシとかだろうか? とりあえず戻ってくるまでセフィロと遊んであげることにした。
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