第二百四十六話 追跡するラース
程なくして畜産区域に到着した俺達は変わらず空から探索を続ける。マキナと二人でキョロキョロと眼下を確認していると、見知った人影と馬を見かけた。
「あれ、師匠じゃない?」
「本当だ。ジョニーとモーラも連れているけど、こんなところでどうしたんだ? ……まさか肉に変えるつもりじゃ!?」
「きゃあ!?」
俺は慌てて降下し、ファスさんのところへ向かう。
「ちょっと待った!」
「うお!? なんじゃい!? ……ラースとマキナではないか……空から現れるとはまた面妖な」
「びっくりしたぞ……」
ファスさんと農家のおじさんらしき人が目を丸くして驚いてるが、それどころではないと俺は口を開く。
「ちょ、ちょっとファスさん、この二頭をどうするつもりだよ!? 貸していいとは言ったけど、売ったり肉にしたらダメだ!」
「ほ? 何を言うておる、ワシは馬に退屈させないよう連れて来ただけじゃぞ」
「は?」
俺が間抜けな声を上げると、農家のおじさんが俺に笑いかけて言う。
「はっはっは! こんな立派な馬を肉にするにはちと早いな。ファスさんは馬達に農耕させて馬達が鈍らないようにしているんだよ。それと肥料として馬糞を買い取って欲しいとな」
「ひひん♪」
「ぶるる♪」
「よく見たら農耕具をつけてるわね」
マキナの言う通り、この二頭は仕事をしていたらしい。聞けば馬糞も肥料として買い取ってくれるのだそうだ。
「すまない、早とちりをした」
「ほっほっほ、構わんわい。大事にしておるのがわかるからのう。それより、ラースは空を飛べたのか? それにデートでこの区域にくるとは変わっておるのう」
「師匠、それなんですが……」
マキナはここに来た経緯を掻い摘んで話すと、ファスさんは腕組みをして渋い顔をする。
「ワシは見ておらんのう。ここに来る間もそうじゃし、来てから二時間程度じゃが、子供は見ておらんな。お主はどうじゃ?」
「子供か……いや、そういえば今朝、陽が昇るかどうかぐらいの時、小さい人影が走っていくのを見たな」
「!」
「どっちに行きましたか!」
俺が声を上げて尋ねると、おじさんは畑から続く道を指さし、
「ここからまっすぐに行った。だが、こっちは大きな木があるだけで他には何にも無いんだよ。もしかしたら親と喧嘩してふてくされて隠れているのかもな。あの木はよく子供が遊び場にしているし」
「マキナ行ってみよう」
「そうね、ありがとうおじさん! 師匠も!」
「ワシも気にかけておこう」
「おお……空を飛ぶ魔法使いは初めてみたなあ……」
ファスさんとおじさんの言葉を背に受けながら俺達は巨木を目指し再び舞い上がる。道なりに進むとおじさんの言っていた巨木に差し掛かる。着地して付近を探してみるもチェルの姿はなかった。
「ここでも無いみたいね……」
ガッカリした様子でマキナが呟く横で、俺はすぐ近くが町の城壁であることをに気づく。そして上を見上げると――
「……! マキナ、あれ!」
「え? あ!?」
俺が指さした先。
そこには枝が城壁の上に向かって奇妙に伸びていた。子供一人くらいなら伝って登れるであろう太さだ。俺はマキナを連れてレビテーションで近くまで行くと、やはりというか、城壁の向こう側まで伸びていた。 この枝伸ばし方には見覚えがある。あの子が大事にしていた木は恐らく……
「まさかこれで外に出たんじゃ……」
「だとしたらまずいな……女の子ひとりで魔物に出会ったらひとたまりもない。それに時間も相当経っている。……よし!」
「どうするの?」
「いったんギルドへ戻ってソネアさんに伝える。そのあとは……全力で飛ぶぞ!」
◆ ◇ ◆
「なるほどそんなことが……。なら、手練れを外に向かわせるとしよう。外だと決まったわけじゃないけど、ラース君達の見解の方が可能性は高いだろうしね。畜産区域……西側か。なら森の中だろうね」
「よろしく頼む。俺とマキナは先行して探索する」
「あいよ! 森にゃ依頼を受けているパーティも居るから、見かけたら協力してもらうといいよ」
「分かりました!」
慌ただしく転がるようにギルドを出ると、家へ帰り装備を整える。
「サージュ装備でいいか、慣れてるし」
「準備オッケーよ!」
家に鍵をかけ、再び畜産区域の巨木へ全速力で飛ぶ。さらに城壁を越え、木の根が張っているところから周囲を見渡すと、かすかに小さな足跡があった。
「……あまり当たって欲しくなかったけど」
「仕方ないわ……行きましょう、間に合うといいけど……!」
目の前に広がる森に駆け出した俺達。この森は木々の感覚が狭く、空を飛ぶメリットが少ないので地上からの捜索へ切り替えた。
俺は剣を、マキナは拳を握り、早歩きでお互い視線を慎重に森の奥へ向けながら進んでいく。足跡は途中で草むらに隠れ探すのが困難になったためだ。
「時間的に考えるとまだ奥か……?」
「チェルちゃーん!」
――そして森に足を踏み入れてから一時間ほど経過し、警戒しながら進んでいたもののチェルはおろか魔物も姿を現さない。
「魔物が出てこないわね」
「ああ。魔物が少ない森ならありがたいけど、もっと奥じゃないと居ないのかもしれない」
「チェルちゃん、どこに行ったのかしら……」
魔物にやられているなら、その現場に遭遇するはずなので少なくとも数体は見かけないとおかしい。どこかで助けを待っている可能性もある。
「そろそろ他の冒険者も来てくれると思うけど――」
俺がそう呟いた瞬間――
「いやあああああああ!?」
甲高い悲鳴が聞こえてきた!
「今の声、女の子じゃなかった!?」
「ああ! まだ生きていてくれたか!」
俺は声の方向を定めて一気に駆け出した。もう少し耐えてくれよ……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます