第二百四十五話 町中探索
「その子、もしかしたらこの前散歩している時に会ったかもしれない」
「マジか!? そ、それはいつだ!」
「落ち着けって、もう二日も前の話だ。ちょっと話しただけだし」
「そうか……」
ロイは俺の肩から手を放し、僅かに落胆した様子で小さく呟く。そこへマキナが会話に加わり、ロイに尋ねる。
「その子、どうして明け方に出ていったのかしら? お散歩なら陽が昇るまで待てばいいのに」
「それが、母親がその子が大事にしている木を捨てようとしたらしくてな。それで昨夜口論になったんだとよ」
「木……あれか」
「知っているの?」
「確かに大事そうに抱えていたよ。話しかけていたのはよくわからなかったけど、容姿は覚えている」
「そうか……もし手が空いてるならソネアのところへ行って依頼を受けてくれるか? この町は広い。人手はあった方が助かるってな。それじゃ俺はいくぜ」
ロイはそう言ってこの場を去っていった。俺に突っかかってきた時はいったい何だったのかというくらい献身的な行動をするやつだと俺は苦笑する。
「何かおかしなことあった?」
「いや、大したことじゃないよ。それじゃ行こうか」
「うん!」
マキナは何も言わず笑顔でうなずき、俺についてくる。言わなくても分かっているってところだろうか。やがてギルドに到着し、ソネアさんにロイから話を聞いたことを告げる。
「その様子だとデートだったかい? 悪いね、助かるよ。子供ひとりとは言え、見捨てるわけにもいかないからね。名前はチェルで、八歳の女の子だ。母親の話だと木をもっているって話だよ」
「ああ、容姿は先日見たことがあるから覚えている。行先に心当たりは?」
「公園くらいしか無いらしい。家からそれほど遠くないからよくひとりで行っていたらしいけど……」
手掛かりは無しってことか。朝からの騒ぎがチェルのことであるなら、この時点見つかっていないのでお察しではある。
「心配ね……ルシエールのことを思い出しちゃうわ」
「すぐ探しに行こう。幸いまだ一日経っていない、何かある前に早く見つけよう」
「頼んだよ!」
ソネアさんの声を背中に受けながらギルドを後にし、外に出ると俺は魔法を使う。
「手分けするよりこっちの方がいいかもしれないから<ストレングス><レビテーション>!」
「あ、そういうことね!」
俺の意図に気づいたマキナがフワリと浮いた俺の背中飛び乗り、首に手を回したところで上昇速度を上げる。
「スカートじゃなくて良かったわ」
「まったくだ。空から目線がふたつあればかなり有効だろう。住宅街から探すぞ」
「任せて!」
◆ ◇ ◆
「まあまあですねえ」
「何だバスレー、城の食事がまあまあって……」
「昨日、わたしは目から『うろが落ちる』出来事がありましてね。ラース君が料理を作ったんですが」
「『うろこ』だろうが!? うろは落ちねえよ! ……まあいい、で?」
お昼時、城ではバスレーとケディがランチに食堂へ来ていた。国王達とは違うコックだが、もちろん腕は良い。ケディがもったいぶっているバスレーに尋ねていると、そこへヒンメルがやってくる。
「やあ、僕もお昼なんだ。隣、いいかい?」
「あ、兄ちゃん。ケディの隣ならいいですよ」
「ははは、恥ずかしがり屋だなあバスレーは」
「くっつかないでください!?」
「いいから続きを話してくれよ」
「ったく……昨日ラース君がオリジナル料理を作ってくれたんですが、それがもう絶品で絶品で! ハンブンバグとかいう名前で、くず肉みたいにしたお肉を丸めて焼いたものなんですがステーキより美味しいと感じましたね」
「へえ、料理もできるんだ。それにしても相当美味しかったみたいだね」
バスレーが得意気に言うと、その表情を見てヒンメルが笑う。
「いや、本当美味しかったです! いやあ、あれを食べられないなんて残念ですよふたりとも! わたしは帰ったらまた頼みますけどね……! いい肉を用意して!」
「ふうんラースの料理はそんなに美味しいのか」
「ええ、それはもう王子といえど食べたことは――」
バスレーがハッとして声のした方向へギギギと首を向けると、そこにはニヤニヤと笑う――
「オルデン王子……! どうしてここへ!」
「いやあ、たまには臣下に顔を見せておかないと忘れられちゃうだろう? ……で、その料理、僕にも食べさせてくれるようラースに頼んでくれるよな?」
「あ、いやあ、それはどうですかねえ……」
ここで王子を自宅に招待すると国王に何を言われるかわからないと、どう逃げようか思考を巡らせる。するとそこで窓際にいた人々からどよめきが起こる。
「お、あれって……人か……?」
「空を飛んでるぞ!? 古代魔法のレビテーションか!?」
「背中に女の子を乗せて……何か探しているみたい?」
レビテーションと聞いてバスレーはピンときて椅子から立ち上がる。
「空を飛ぶ人影……! これは事件の予感……じっちゃんはいつもひとり……!」
「あ、こら! 待てよバスレー!」
「申し訳ありません王子! わたしの好奇心で猫が死ぬ前に謎を解明しないといけないんですー!」
などと意味不明な言葉を発し、バスレーは食堂から飛び出していく。あっという間の出来事で全員が呆然とした後、ケディがハッとして口を開く。
「あの野郎……午後の仕事から逃げやがった!?」
「ははは、どんまいケディ」
「笑いごとじゃねぇよ!? くそ……全然引継ぎが進まねぇ……」
◆ ◇ ◆
「見つからないな」
「うーん、子供はいるんだけどね。あ、あの子、手を振ってくれてる」
――自転車より少し速いくらいの速度で住宅街を飛んでいるが、チェルは見つからず外壁に近いところから区画をくまなく探索したが発見することは適わなかった。
「町から出たってことはないかしら?」
「門番が小さい子をひとりで外に出すとは思えないけど、一応行ってみるか」
門へ行くと、クルイズさんが居たので話を聞いてみる。すでに朝から数人が来ていたようで、嘆息しながら俺に返してくれた。
「女の子は来ていないぞ。町から出ようと思ったら、ここともう二か所出口があるが、そこにも門番はいる。外に出すことはまず間違いなく無いな」
「ありがとう。……どこか抜け穴みたいなみたいなところは?」
「……無い、とは言い切れないが、外壁周辺も安全確認を行っているからそういうものはないはずだ」
しかしクルイズさんもこの段階で見つかっていないのは不思議らしく、何らかの方法で外に出た可能性もあるかもしれないと苦い顔をして俺達を見送ってくれた。
「何らかの方法……連れ去られたなら荷物として持っていかれたとか……」
「でも自分から外に出ていったんだ、そこを突発的に攫うのは難しいと思う」
再度俺達は空へ飛び、今度は畜産区域を目指す。手がかりがあるといいけど……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます