第二百二十九話 雷
「ここにレッドエルクが潜んでいるのか」
「依頼書だと、そんなに上の方には居ないみたい。中腹付近で探しましょう」
「さすがに手慣れてますねえ。十歳からでしたっけ?」
「ええ、聖騎士部と掛け持ちでギルド部をやっていましたから依頼の見かたは分かりますよ」
ベルナ先生の住んでいる山に出る魔物を狩る依頼もあったし、そう言う意味でも手慣れているのだ。
俺は馬が魔物に襲われないように荷台と切り離している中でふたりがそんな話をしていた。そこでふと、バスレー先生がマキナに問う。
「そういえばマキナちゃんは騎士を目指していたんですよね? 結局そっちには行かなかったみたいですけど、騎士の空きもあるし、実力から見ても即採用レベルなので勿体ないなと思ってましたが」
マキナはその言葉に少し戸惑いの表情を見せた後、バスレー先生の方を向いて微笑む。
「……ラースと恋人になれなかったら目指していたかもしれません。冒険者としてやっていくってラースが決めていたから私も同じ冒険者にしたんです。でも、もう一つ理由があって」
「それは?」
「私の戦い方、ですね。騎士はどうしても剣や槍、もしくは弓がメインになりますよね? 卒業して十六歳になるまでの一年の修行をしている時に調べてみたんですけど、拳で戦う騎士って珍しいんですよね?」
「……確かに言われてみればそうですねえ。格闘が得意な騎士はそう多くないです。でも、マキナちゃんのようにスキルがそういう格闘系スキルの人は数人いますけどね」
「うーん、でも剣も使える人なんですよそう言う人って。私は魔法が全然だし、剣を使うと慣れないそっちに意識がいってしまい戦い方がめちゃくちゃになるんです。ティグレ先生に指摘されて、それから騎士は諦めてますよ」
それを聞いたバスレー先生は勿体ないと口にしながらジョニーにまたがる。
以前、どうせ王都に行くんだから騎士になればいいのにと言ったことがあるけど、やはり答えは同じだった。
そして、今、俺も初めて聞く内容をマキナが口にする。
「私、この【カイザーナックル】を活かすため、格闘を極めようと思うんです。ラースが魔法や剣が使えるから、超接近戦に特化して囮や一撃必殺を目指してみようかなって!」
「あ、いいじゃありませんかそれ。ふむ、ラース君をリーダーにした新しい戦闘集団を作るのもアリ……?」
「国に仕えたら自由に動けないから俺はやらないけどね?」
「ふふ、ラースがやらないなら私もやりませんよ?」
「くっ……見せつけてくれますね……あ、向こうにレッドエルクが居ますよ!」
馬上からバスレー先生が声を上げ、視線の先を見ると大きな扇状の角を生やした大きなヘラジカがこちらを見ていることに気づく。
「お馬さんをお願いね、たまには私が先制するわ!」
素早く動いたのはマキナで、馬に荷物を括り付けているためすぐに駆け出すことが出来たためだ。
俺もジョニーではないもう一頭の馬であるモーラを落ち着かせ、マキナの援護へ回れるよう素早く躍り出る。
「魔物は二頭か。一頭ずつやるのがいいか」
「【カイザーナックル】!」
「ブルル……」
俺がそう判断した瞬間、マキナが一番近いレッドエルクへ殴りかかる。レッドエルクもマキナを敵として認識したようで、短く鼻息を鳴らし、マキナに角を向けて突進した!
「なかなか速いわね、だけど正面からやり合う気はないのよ!」
「ヒャイン!?」
マキナはスッと突進を回避し横から拳を突き出し、メキっという音が響き渡り、レッドエルクが悲鳴をあげる。
「よし、手ごたえあり!」
笑顔で勝利宣言をするマキナだが、その直後レッドエルクが力を振り絞って頭をマキナの方へと向ける。
「危ないマキナ!」
「大丈夫……! ここね!」
マキナはしっかり見極めており、ショートジャブが角にヒット。その反動でレッドエルクの頭はガクンと曲がってはいけない方に曲がり、崩れ落ちるように倒れた。
「ふう、もう一頭もこのまま行くわね!」
もう一頭のレッドエルクも仲間がやられたことに興奮し、マキナに突っ込んできていた。
「援護するよ! <ウォータージェイル>!」
マキナが駆け出す前に俺は魔法でレッドエルクを拘束する。マキナはそれを見て一足で近づくと、レッドエルクの眉間に【カイザーナックル】を叩き込む。
「グェェ!?」
「これで終わり……!」
先ほど、死に際に暴れたことを忘れておらず、マキナはすかさず角の根元を殴ってへし折った。レッドエルクは何もできないまま絶命する。
「流石に頭に受けたら死ぬよなあ。お疲れマキナ」
「やったぁ! うん、全然余裕ね。ラースの手助けもありがとう♪ できればひとりで倒したかったけど――」
「ん!? マキナちゃん、そこから離れてください!」
すると突然後方にいたバスレー先生が慌てた声を上げる。すると、マキナの背後からに猛ダッシュしてくる三頭目が現れた。マキナはこっちに振り向いているので初動が遅い……! 魔法で間に合うか……! 射速のあるファイアランスなら!
「<ファイア――」
マキナが咄嗟にガードをし、俺が魔法を撃つためマキナに近づきながら手をかざす。
しかし、その時――
「雷牙!」
「キュルォォン!?」
「なんだ!?」
空……いや、木の上から降ってきた人影が何かを叫び三頭目のレッドエルクの背中に向かって攻撃する。
一瞬のことだったけど、轟音と共に、俺には青白い光が光るのが見えた。
「あれは……雷、か?」
「イカヅチ? あの天気が悪いときにゴロゴロいうアレよね? あ、誰かいるわ、あの人が助けてくれたみたいね」
「大丈夫ですかマキナちゃんー!」
マキナが指さす先には、小柄な人影があった。
バスレー先生が合流してきたので、俺は前に立ち、人影に声をかけた――
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