第二百二十三話 ふたりの時間


 「わー! すっごいお家……こ、ここに住むの私達?」

 「俺もアーヴィング家として彼女に情けない家に住まわせる訳にはいかないからね」


 とは言ったものの、見た目でお金を持っていないと言われたのが俺の中で結構イラッとしたらしく、庭付き一戸建てを即金二百万ベリルで購入した。

 あまりこういうことで感情に触ることはなかったんだけど、マキナが居るからつい見栄を張ってしまった……正直、俺がこういう思いをするのは自分でもびっくりしている。

 前世では絶対に抱かなかった感覚だ。


 さて、それはいいとして目の前家を改めて確認する。

 大きな庭は馬車を馬二頭を入れてもなお広く、一階建てながらリビングに、俺とマキナの部屋が確保し、かつ客間もある。

 お風呂とトイレも勿論完備で、キッチンもマキナの希望を叶えることができたのだ。


 「へへ、お気に召しましたでしょうか?」

 「ああ、ちょっと商店街から離れているけど、散歩道だと思えばいいか」

 「そうね、ああ実家も一戸建てだったけどここは本当にキレイでいいわ……」


 うっとりとした顔で外見を見るマキナに苦笑しながら、俺はノルマから鍵を受け取る。


 「買い取ったから庭に厩舎をつけてもいいんだよな?」

 「勿論でございます、はい! ラース様のものですので、好きなようにしていただいて構いません! むしろ何かご入用でしたら何なりと申し付けてくださいませ」


 相変わらずの擦りてで目がお金のマークにしながらそんなことを言う。俺の知っている商人とは違うなあ。


 「オッケー、何かこまったことがあったら声をかけさせて貰うよ。もうお腹が減って仕方ないんだ」

 「かしこまりました。ではわたくしめはこれにて……ごゆっくりとお過ごしください」


 そう言ってノルマは恭しくお辞儀をして通りに出ると、そのまま立ち去っていった。


 「うおおおお、やったぁぁぁあ! 今日はご馳走にしよう!」


 少し離れたところで大声を上げている声が聞こえ、俺たちは顔を見合わせてプっと噴き出した。


 「態度が人によって変わるのはいただけないけど、まああれだけ喜んでくれたならまあいいか」

 「最近売れてなかったのかもしれないわね。あ、お馬さんにお水あげないとね」

 「ああ、バケツはあるからそれに入れてあげよう。馬達もこのままでいいもんかな? 牧場とかあれば放してあげたい気もするけど」

 「確かに二頭は狭いかなあ……とりあえずおいおい考えましょうよ。依頼で移動する時には必要なんだし」

 

 マキナに言われ、頷く。餌代とかは全然気にしないんだけど、広いと言っても駆け出せるほどではないので馬がストレスにならないか心配だ。


 結論を急ぐ必要も無いので、俺達は馬に留守番をお願いして町へと繰り出す。

 ようやくお昼ご飯にありつけるかと、適当な店が無いかきょろきょろしながら商店街の道を進む。


 「ガスト領に居る時は家でしか食べなかったから、慣れないな」

 「私は誕生日にレストランに連れて行ってもらってたかな? ラースは家の方が豪華だから仕方ないわよ。ん、あのお店なんてどう?」


 俺の手を取って指差す先に、パスタの店が目に入る。木造の建物がなかなかお洒落で、女の子が好きそうなタイプの外観をしていた。


 「お腹も限界だしあそこにしようか。他のお店はまた別の日でもいいし」

 「そうこなくっちゃ!」

 「あ、引っ張るなって!」


 善はいそげとばかりに駆け出すマキナに、慌ててあしなみを揃えて一緒に走る。

 該当のお店は木の香りがする、雰囲気のいいお店だった。


 料理もパスタメインで、新鮮なサラダとコーンスープのセットを頼んだ。

 俺はガーリックと赤唐辛子、いわゆるペペロンチーノのようなパスタを。マキナはクリームソースをふんだんに絡めたキノコのパスタだった。

 

 「美味しかったね!」

 「ああ、他の料理も食べてみたいな」


 帰りに馬たちの餌を買い、続いて雑貨や布団といった生活用品を少し買ってから家へと戻る。

 とりあえず今日は夜営じゃなくてベッドで寝られるのが嬉しいところ。


 「ほら、お前達の昼だぞ」

 「ひひーん!」


 すでに俺たちより寛いでいる馬へ餌を与え、庭に備え付けられていた木の椅子に座りふたりで眺めながらゆっくりとした時間を過ごす。


 「そういえば馬二頭ってかなり高額よね……もらって良かったのかしら?」

 「返そうと思ったらまた戻らないといけないし、ルシエール達もそのつもりだったんじゃないかな」


 ソリオさんのプレゼントといつかのお詫びって感じかなと俺は思っていたりするけどね。

 

 「ふあ……」

 「ラース、眠そうね?」


 ここ数日は戦いが続いていたので、のんびりしているとすぐ眠気が来た。


 「新しいお布団も買ったし、お昼寝でもしようか」

 「それじゃ私が用意してくるからラースは待ってて」


 俺は重いまぶたを擦りながら頷き、庭から家に入るとマキナが鼻歌を歌いながらとたとたと、割り当てた俺の部屋に入って行った。


 程なくして戻ってくると、マキナは俺に言う。


 「わ、私も一緒に寝ていい……? 最近はバスレー先生達と一緒だったからあんまりラース分を補充できてないから……」

 「ラ、ラース分?」


 マキナが顔を赤らめて知らない単語を口にすると、俺の腕をとって歩き出す。


 「ちょ、ちょっとマキナ……」

 「隣で寝るだけだから! お願い!

 

 まあ、俺も眠いしいいかなと頷くと、マキナのかおがパッと明るくなり、


 「きゃぁぁぁぁ!?」


 一瞬で驚愕の表情で彩られた。

 一気に目が覚めた俺は振り返り、マキナの視線の先を見るとーー


 「ぐぬぬ……わたしを置いてけぼりにしたのはふたりでイチャイチャするためだったんですね……!」

 「バスレー先生!?」


 窓にべったりと張り付いたソレは、まごうことなきバスレー先生その人だった……

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