第二百二十話 バスレー先生の凱旋?
「そういえば同級生だって言ってたけど、ここの学院を出たんだ?」
「ええ、”リトグラフィー学院”というところです。ほら、左手にある大きな建物があるでしょう? Aクラスのヘレナちゃんが編入したところですよ……懐かしいですねえ」
「あ、ヘレナはあそこに居たんだ! そうだ、ねえラース、ヘレナに会えないかな?」
「仕事をしていると思うから、家を探した後にならいいかもしれないな」
「うん!」
パッと顔を輝かせるマキナに微笑むと、バスレー先生……ではなく、俺達を案内してくれている門番さんが口を開いた。
「なーにが懐かしいだ! お前がやらかしたイタズラの数々を忘れたわけじゃないだろうな?」
「ふむ、クルイズの言うイタズラとは、学院長のヅラを吊り上げたことでしょうか? それとも、学院長のヅラを朝礼の時吹き矢で落としたことでしょうか?」
「全部だよ!? そういや一時期学院長のヅラになんの恨みがあったんだってくらい狙ってたよな!」
「今と全然変わっていないんだ……」
俺はクルイズさんの言うことに脱力する俺をよそに、高らかに笑うバスレー先生。そこへマキナが御者台ににゅっと顔を出し、クルイズさんに尋ねる。
「昔からこんな性格だったんですか? 大臣にもなったのに……」
「こら、マキナちゃん! わたしを残念な目で見るのは止めてください! あ、あ、ラース君も!?」
「ははは、マキナちゃんだっけ、これでもこいつは学院でも屈指の賢さを持つヤツだったんだ。まあ、戦闘技能は平均かそれより下だから総合的にはそうでもないんだが、頭を使うことだけなら首席だったんだぜ」
「「へえー……」」
「ふたりの視線が痛いっ!?」
バスレー先生の言葉を聞いて俺とマキナはプッと噴き出す。まあ、基本的にお茶らけているけど真面目な時は頼りになるのは分かっているけどね。
「ふふ、他にも色々聞いてみたいかも。クルイズさん、また教えてくださいね」
「おお、もちろんだ。というかふたりは家を探すって言ってたけどこの町に住むのかい? 自領地じゃなくて?」
「そうするつもりなんだ。色々見聞を広めたいのもあるし、人も店も多いこの城下町をまず起点にして冒険者として活動しようかと思ってるんだ」
「ふうん、貴族なのに自領地で悠々自適に暮らせそうなのに珍しいなあ。それにバスレーと一緒ってことは、城に部屋をもらえるかもしれないぜ?」
「昔、国王様には城で働くよう言われているから、それがまだ有効で条件を飲めばってところかな。だけど、俺達は冒険者として活動したいと思っている」
「まだラース様は若いし、それもアリだと思うぜ。新婚生活の前倒しみたいでいいだろうし」
「……」
クルイズさんの言ったことに、俺とマキナは黙り込んでしまう。し、新婚ってまだ早……あ、いや、ノーラは結婚しているしそうでもないのか……
「まあ、人生色々ありますからね。この町で結婚してもいいと思いますが……!」
「血の涙を流すなよ……まだ恋人が出来ていないのか……」
「ええ……」
「こういう時だけ素直なのはどうなんだろうな? さて、到着だ」
クルイズさんが顔を上げ、俺達も前を見るとそこには城へ続く門があった。するとバスレー先生が馬車から降りて城の門番へ話しかける。
「はぁーい、門を開けてもらえませんかね? あなたの町のバスレーが戻ってきましたよ」
「……!?」
すると、ふたり居た門番のうち一人が、バスレー先生を見た瞬間、目を大きく見開き悲鳴に近い声を上げた。
「ひぃぃやあぁぁぁぁぁ!? レフレクシオンの悪魔、バスレーが戻ってきたぁぁぁ!」
「酷い言われよう!?」
誰が顔を合わせてもこんな調子だなあ……悪魔ってなんだよ……真面目に気になってきたから、後でクルイズさんに聞いてみよう。そういえば悪魔ってフレーズも懐かしいな。レガーロだっけ? あいつ元気にしてるんだろうか。
「悪魔とは失礼な! ほら、国王様に呼ばれて帰って来たんですよ!」
「……マジか……通って、よし……」
「よろしい」
もうひとりの門番さんは不思議な顔をし、もうひとりは憔悴した様子で門番さん達が開けてくれ中へ入る。クルイズさんはここまでだと言って門の前で別れた。
「じゃあな、俺は門のところにいるから何かあったら話しかけてくれ。この町のことなら役に立てるはずだ」
「ありがとう、その時はよろしく」
「お願いします!」
クルイズさんが笑顔で手を振り、見送ってくれ、門の扉が締められるまでこちらを見ていた。
俺達は馬車を厩舎に置くよう指示され、荷物を取ってから徒歩で城の中へと足を運ぶ。先頭にはバスレー先生を置き、後ろについていく。
程なくして謁見の間であろう部屋の近くまで行くと、立派な服を着た初老の男性に声をかけた。
「あら、いいところに宰相を発見! 国王様と会えますかね?」
「うお!? バ、バスレー様ではないか! よくぞ戻られました。話は聞いております。ささ、こちらに」
「ありがとうございます! さ、ラース君とマキナちゃんも一緒に」
ギィという重い音と共に扉が開かれると、ふたつの玉座が目に入る。宰相と呼ばれた人がどこかへ行き、俺達は謁見の間で待つことになった。
「緊張してきた……」
「マキナは話したことないから仕方がない。俺が話すから、マキナは隣にいてくれれば大丈夫だ」
「分かったわ」
「とりあえずわたしから報告をさせてもらうけどいいですかね?」
「ああ、オリオラ領の件は早く報告した方がいいと思うし」
バスレー先生が頷く。それと同時に謁見の間に声が響き渡る。
「戻ったか! 道中、ご苦労だったなバスレー。それと、久しぶりだなラース=アーヴィング」
「は、労いの言葉、いたみ入ります」
「お久しぶりです国王様」
俺達は膝をついてうやうやしく頭を下げると、明るい声でもうひとり話しかけてきた。
「やあ、ラース! 大きくなったなあ、お互い! そっちの子は彼女かい? 可愛い子じゃないか、羨ましい……僕はお見合いばかりで――」
「オルデン、久しぶりなのは分かるが友人としての話はまだ控えんか」
「おっと、申し訳ありません父上」
「まったく、成人したというのに落ち着きが無いのう」
国王様が呆れた様子でため息を吐いて再び俺達の方へ向き直ると、国王様の背後で手を頭の後ろで組んで、そっぽを向いて舌をだしているオルデン王子の顔がいた。
子供のころは好奇心が強かったけど、今は冗談の方が多いのだろうか。
「では、バスレー報告を頼む」
「かしこまりました――」
そんな中、バスレー先生が真面目な顔でオリオラ領のことを語り出した。
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