第二百十五話 ラース、謎の男のことを聞かされる
「俺達の組織は――」
「いや、ちょっと待ってくれ」
「どうしたの?」
ケルブレムが『組織』について話をしようと口を開くが、俺はそれを止めて言う。
「まず確認するけど、ケルブレム、お前がこのトレント騒ぎの主犯ということでいいか? 他に仲間は居ないな?」
最初に尋ねたのは俺だった。
組織のことも気になるけど、まずはヒューゲルさん達の安全を確認するべきだろうと思いケルブレムへ聞いた。
「ああ、この件に関しては間違いなく俺が主犯だ。これ以上、ヒューゲル達に何かする奴はいない」
これが本当かどうかは分からないが、どうにもならないことを悟った顔をするケルブレムはそう言う。俺がコンラッドとヒューゲルさんに目を向けると、ふたりは頷く。とりあえず収束したということで良いということだろう。
俺も頷き、再びケルブレムへ視線を戻すと、彼はとんでもないことを口にする。
「レッツェルのやつも俺を裏切って町を出ていった。あいつが来なければ……いや、どちらにしても計画は頓挫していたか……」
「……!? ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「うお……?! な、なんだ……?」
「どうしたのラース?」
「どうしたもこうしたも……って、マキナはあの時のことをちゃんと知らないか……今、お前レッツェルと言ったな? しかも何故、死んだあいつが裏切ったなんて言うんだ!?」
俺が襟首を掴んで激昂すると、ケルブレムは目を丸くして口を開く。
「な、何を言っているんだ? あいつは死んでなどいないぞ? お前達の案内役に頼んだクロノワールという包帯男が居ただろう? あいつがそのレッツェルだ」
「!?」
そうか、どこかで見たことがある目だと思ったのはあいつだったからか……! それにしても――
「ドラゴニックブレイズをまともに受けて生きているなんて……」
「ガキ……いや、ラースとか言ったか。お前、そんなものまで使えるのか……レッツェルが居なくても俺はいずれこうなっていたか……運が無かったか……」
いよいよ諦めの表情で項垂れるケルブレム。そこへサージュが飛んできて俺の肩に乗って言う。
<ふむ、そのレッツェルというのは何者だ? 我の知らん名だな>
「私もちゃんと聞いたことは無いわね。一年の時、リューゼのお父さんとラースのお父さんが領主を交代したときにその名前がちらっと出てたくらいかな?」
「ああ、サージュと会う少し前だったからそれはしょうがないよ、実は――」
俺は六年前の領主邸での戦いをサージュとマキナに話す。ふんわりとした話しかしたことがないので、マキナは驚き、サージュは目を瞑って腕を組んで聞いていた。
<……なるほど、そんなことがあったのか。ラースはあの時点でもすでにあの魔法を馴染ませていたと思う。それを手加減なしで放って生き延びるのは相当運がいいな>
「で、でも、クロノワールって全然五体満足だったわよ……?」
「いや、あいつならあり得るだろう」
「どういうことだ?」
ケルブレムは迷いなくレッツェルが生き延びるだろうという。俺が聞き返すと、目を細めて言葉を返してくる。
「あいつは組織内でも『死なずのレッツェル』とか『死神』とか言われていてな。ヤツもそれなりに腕は立つが凄く強いわけじゃない。あいつの格上の相手なんざいくらでもいる。だが、必ず生き延びて帰って来る。それがレッツェルという男だ。あいつの計画を潰したのは見事だが残念だったな、間違いなくあいつは生きている」
「そんな馬鹿な……」
――レッツェルは死んでいなかった。その事実に愕然する俺。ヤバイやつがまだ生きているだって? 一体どうやって生き延びたんだ……間違いなく消し飛ばしたはず。そこであいつが最後に言った言葉を思い出しハッとする。
『君の顔、覚えた……ぞ……ラース=アーヴィング……』
あの時点ですでに自分が死なないことを分かっていた……? でも、確かに――
「ラース、大丈夫……? 凄い汗よ」
「あ……ごめん、ちょっと考え事をしてた……」
<かなり手ごわい相手だったのだろう、お前がそんな焦燥した顔をするのは初めて見た。しかし、こちらに手を出してこなかったところを見ると、ラースにはもう用は無いということか>
「一応、深淵の森で戦ったよ。圧倒できたけど、逃げられた」
「でも逃げたってことはラースを恐れているのかも?」
「どうだろうな。お前に興味があるようなことは言っていたぞ」
……嫌なことを言う。だけど、死んでいなかったという事実は驚愕と共に、殺していなかったという安堵感もありなんとも複雑な気持ちになる。
俺に興味、となると復讐か……? いや、それにしては今回は何も無かった。それにとんでもない悪党だけど、なんとなく復讐を考えるようなヤツではないような気もする。面白ければそれでいい、そんな感じだ。
俺が押し黙っていると、ため息を吐いて頭を掻きながらバスレー先生が口を開く。
「ま、どちらにせよこの町から出ていったなら問題ないでしょう。まさかラース君達を苦しめた男がトレント討伐の立役者になるとは思いませんでしたけどね」
「あの男がそんな危険なやつだったとは……」
「無事で良かったですね! コンラッドさん!」
変な猫なで声を出すバスレー先生の言う通りだと俺も思う。
真意はどうあれ、ケルブレムを裏切ったことで事態の解決が見られたのは間違いない。そしてこの場に居ない人間のことを今どうこう言うべきではないかと俺は深呼吸をして話を変える。
「……それじゃ、次は『組織』について聞かせてくれ」
「あ、ああ……」
俺は気持ちを落ち着けて組織について尋ねる。その瞬間、五人組が体を震わせる。よほど知られると恐ろしい目に合うのだろうか?
「……俺達の組織は『福音の降臨』という名前だ、あまり馴染みは無いかもしれんが、細々と――」
「――慈善活動をしている組織ですね? なんとなくですが、そんな気はしましたよ」
ガストの町ではそんな話を聞いたことがない。だが、バスレー先生はそれを知っていたような口ぶりで言う。男は頷くと、ごくりと唾を飲んで話を続ける――
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