第二百十三話 力の差

 

 「飲み干せなかったが、効果は間違いないようだな、とんでもない力が漲ってくる……行くぞ、ヒューゲル、冒険者ども!」

 「う、うお……!?」


 ケルブレムが素振りをすると突風が巻き起こり冒険者達が怯む。ギルドマスターだけあってあの四人とは迫力が違う。だが、それでもティグレ先生より強いとは思えない。


 「ここから先に通れると思うなよ?」

 「いちいち生意気を言う……!」


 俺がサージュブレイドを片手に半身で構えると、怯んでいたコンラッド達がバラバラと展開する。


 「領主様達は下がってください。相手は六人、俺達が懲らしめてやりますよ」

 「おう!」

 「あの五人は狙い目ね!」


 ケイブとシフォルさんも武器を構えて戦う姿勢に入り睨み合う。最初に動いたのは……ケルブレムだ!


 <来るぞ!>

 「そこをどけ!」

 「そうはいかない! <オートプロテクション><ストレングス>!」


 脚力も上がっているのだろう、一気に間合いを詰め、俺の頭目掛けて全力で剣を振りかぶってくる。オートプロテクションを保険でかけつつ、剣を受け止める。


 「くっ……流石に重い……!」

 「これを受け止めるのか!? どんな鍛え方してるんだこいつ!? レッツェルが負けるのも頷ける……! ならお前の相手は後回しだ。【バースト】!」

 

 ケルブレムが叫ぶと足元の絨毯がはじけ飛び俺とサージュは空中へ舞い上げられた。

 

 「スキルか!」

 「その通り、俺の体のどこかが触れている物を破裂させることができる。そら、隙が出来たな!」

 「<レビテーション>」

 「な!? 古代魔法だと!? ……くそ、こいつはやばい……とりあえず吹き飛んでおけ!」

 「なんの! <ファイヤーボール>!」


 レビテーションで態勢を整えたところで、ケルブレムの追撃が飛んでくる。俺はそれを打ち払いながら、魔法で反撃を仕掛けると、驚愕の顔をしながらファイヤーボールを避けてコンラッドの近くへと走っていく。そんな中、ケルブレムは賊の五人に怒鳴りつける。


 「お前達、ぼさっとするな! 死ぬ気でかかれ!」

 「通すわけにはいかんぞ! ボロゾフ、カバーニャ、サモ、畳みかけろ!」 

 「コンラッド……! 邪魔をするな!」

 「命までは取らねえが。痛い目を見てもらうぜケルブレムさんよお!」


 俺が着地するのと同時にコンラッド達が立ちふさがった。そこで、賊たちも声をあげる。


 「あ、ああ! うおおお!」

 「ど、どうにでもなれ……!」

 「お前達の相手はこっちだ! ラース様、ケルブレムを頼みます!」

 「ありがとうケイブ! ……ん? サージュ?」

 <こっちは任せろ>


 俺と一緒に空を飛ばされたサージュがケルブレムではなく、賊の方へと向かう。そして、体を大きくしケイブの隣に立った。


 「うおお……!? ド、ドラゴン……ちょっと小さいけど……」

 「カッコいいわね」

 「く……、この前は不覚を取ったが、今度はそうはいかんぞ……!」

 <ほう、では見せてもらおうか……!>

 「目にもの見せてやるぜぇぇぇぇ!」


 五人は人間サイズのサージュに襲い掛かる! 気合は十分で手に持った武器を振りかざす。サージュは微動だにせず、少し間を置いて口をカパッと開けた。


 そして――


 「うう……」

 「や、やっぱ無理、か……」

 「つ、強すぎる……」

 「……」

 「お、おい。死んだのか……? 俺を置いて先に死ぬなよ!? 目を開けろよぉぉ!」


 ――当然だけど若干大きめの火球が五人を直撃し、大爆発を起こした。まあ、流石に手加減をしているので死んではいないみたいである。髪の毛が凄いことになった五人は動けなくなり、即座にケイブ達に捕縛された。


 「……なんなんだお前ら……?」

 「この屋敷に来ると言った時点でこうなると思っていたんだよ! ドラゴンに勝てるわきゃねぇだろうが!」

 「まあ、確かにその通りよね……」


 いろんな意味で覚悟を決めていたのか……。ん? 賊のひとりの破れた服の下から左肩が見え、そこにサソリが死神のような鎌を持った絵の刺青があった。他にもひとり、同じ刺青があるので仲間である証かなにかだろう。

 とりあえずサージュの方は問題ないと、俺はコンラッド達と数人の冒険者と共にケルブレムへと向かう。魔法は巻き込む可能性があるので使わず、様子を見ていたが、コンラッド達とケルブレムは拮抗していた。


 「剣が……!?」

 「折れたな! 死ね!」

 「させねぇ! うおあ!?」


 コンラッドを庇ったボロゾフが【バースト】を受けて床に転がる。


 「ボロゾフ!? くそ、ひとり相手になんてザマだ……!」

 「ははははは! この薬はすごいぞ! お前達相手にひとりで戦えるだけの力が手に入るとは!」

 「足を狙え!」

 「固ぇ……ごふ……!」


 カバーニャとサモも両サイドから足を止めようと必死に攻撃し、他の冒険者も斬りかかるが圧倒的な力の前に次々とダメージを負う。知能が高いオーガと思えばそれも頷けるか。

 あの時の俺達とは違い、コンラッド達は現役の冒険者。だけど、ケルブレムは力任せだけではなく、フェイントやスキルをしっかり使ってくるのでかなり強い。さらに傷つきながらもコンラッド達を叩き伏せているところを見ると、回復能力が高くなるのは相変わらずのようだ。


  攻撃のタイミングを見計らっていると、視界の端に見えるマキナの姿があった。その瞬間、俺と目が合いお腹のところをちょんちょんと指さし頷く。俺も頷き返すと、コンラッドと鍔迫り合いをしているケルブレムへ攻撃を仕掛けた。


 「ケルブレム!」

 「戻ってきたか……! くそ、あいつら、助けてやったのにまるで役に立たないとは」

 「人を道具みたいに扱うから痛い目を見るんだ、仲間なら助け合ってこそだろうに」

 「知った風な口を……何だと!?」


 俺は全力でサージュブレイドを空中から振り下ろすと、受けたケルブレムの剣が真ん中からまっぷたつに折れた。


 「馬鹿な、ドネア鉱でできた剣が折れるだと!?」

 「こっちのはあそこにいるドラゴンの牙で作った特注品だ、強度で劣るわけがない! 悪いけどその腕、貰う! ドラゴンファング!」

 「右! い、いや、ひだ……ぐあああああああ……!?」


 俺の剣はケルブレムの利き腕である右腕を、肘から断った。ガランと剣が落ち、肘から大量の血が噴き出すも、脂汗をかきながら左腕で殴りかかってくる!


 「なんだ……!? 魔法陣の盾!?」


 だけど、オートプロテクションを使っている俺にその拳は届かず、直後、懐に潜り込むマキナの姿が目に入る。


 「恋人が死んだことは悲しいと思うわ。私もラースがもしってなったら何もかもめちゃくちゃにしたくなるかもしれない……でも、多分それをラースは望まない。ヒューゲルさんだって、好きで見殺しにしたわけじゃないはずよ?」

 「……!」


 マキナの言葉にケルブレムの顔が歪む。


 「だったら……俺の怒りのやり場はどうすれば良かった……! 俺はそれだけを考えて十五年生きて――」


 それでも、自分は間違っていなかったとケルブレムは激昂する。不可抗力だと頭では分かっていても、納得できないことはもちろんあるし、その怒りは当事者にしか知りえない。だけど、それでもと、俺は……俺達はこう返す。


 「「今からでも遅くない……恋人に恥じない人生を歩めぇぇぇぇ!」」

 「ごふぉ……!?」


 バスレー先生の【致命傷】で弱点を晒された場所をマキナに殴られ、レビテーションで飛んだ俺の拳がケルブレムのど真ん中に突き刺さる。

 ケルブレムは全力の【カイザーナックル】とストレングスで力を増した俺のパンチを受けて壁にめり込み、そのまま動かなくなった。


 「し、死んじゃった……!?」

 「大丈夫だよ、伊達にオーガ並みの力があるわけじゃなさそうだ」


 よく見ればぴくぴくと痙攣しているので気絶しているだけのようだ。そこへバスレー先生がダッシュで近づき、ケリを入れ始める。


 「よくもやってくれましたね! か弱いわたしを全力で殴りつけるとはいい度胸です! 出るとこ出ますか!? ああん!?」

 「やべぇ女だ……」

 「目を合わせるな、絡まれるぞ……」


 バスレー先生の剣幕によろよろと立ち上がった冒険者達が戦慄する。

 

 まあ、それはともかく――


 「……ふう、これで話を聞けるかな……?」

 「だといいけど……」


 俺達はケルブレムを拘束するためバスレー先生の下へ向かうのだった。

 

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