第二百五話 真相を喋る意味
「……まだ昼前なのに暗いわね」
「ああ、トレントも他の魔物も動きが活発だ、気を付けよう。……<ファイアアロー>!」
俺がそう言った矢先、巨大ムカデのイートセンチピードが飛び出してきたので顔面にファイアアローを打ち込む。
「後は任せろ!」
「相変わらずかてぇな」
あっという間に冒険者達に囲まれあっという間に細切れになる巨大ムカデ。現時点で脱落者は何とかおらず、ケガをした人達は俺のヒーリングで全快しているため戦力に穴は無い。
……んだけど……
「ラース様、どんどん行きましょうや!」
「子供だと侮っていたら痛い目を見るやつだな、頼りにさせてもらうよ、ラース君」
「無事に帰ったら飲みに行きましょう飲みに!」
「はは、それもいいかもね」
「私も飲みたーい」
……と、俺の正体を知ってから冒険者達が色めき立っていた。野営の時に回復していたら感謝されまくり、何故か称えられてしまっていた。できればスキルの紹介をしたいところだけど、それは飲みの席でも構わないか。それはともかくと、俺はクロワールへ話しかける。
「結構歩いたけど、まだかかるのか?」
「そろそろ、かな? この先に湿地があってね、そこの泥底から上質な魔力が湧いている。そこを起点にしてトレントを増やしているみたいだよ」
「……」
増やして『いる』と来たか。
黒幕のことを吐くつもりだというなら、今の言葉はわざとだろうか? 一つ言えるのはこいつもグルなのは間違いない。
仲間内でもめごとでもあったとかその辺だろうと思いながら慎重にクロワールの動きを観察する。そこからしばらく草をかき分けて進んでいると、だんだん地面がぬかるみ始め、横で歩いていたマキナが先を指して声をあげた。
「あ、もしかしてあれじゃない? 泥の池みたいなのがあるわ」
「そうみたいだ……本当にあったのか」
「言ったろう、僕は嘘はつかない。さて、それじゃこの泥池を潰せば終了だよ」
「潰せば……ってどうすればいいんだ?」
コンラッドが腕を組んでクロワールへと問う。他の冒険者も泥の池を遠目で見ながらざわざわと話し合っている。魔法で吹き飛ばせばいいのだろうか?
「魔法で吹き飛ばすのはアリなのか?」
「まあ、底から魔力が湧き上がってくるからそうなんだけどね。さて、それじゃ君たちの聞きたかったことを話そうか」
「唐突になんだてめぇ? 発生源を潰してからじゃなかったのか」
ケイブがクロワールに指を突きつけながら詰め寄ると、クロワールはやんわりと制止して話し始める。
「ここまで来れば目的は達せられたも同然だから、ね? さて、このトレント騒ぎ、事件を起こしたのはオリオラのギルドマスターであるケルブレム。奴が黒幕だ」
「……」
「……」
俺達とコンラッド達は目を細め、無言でクロワールを見る。正直なところ『やっぱりか』という思いしかない。だが『信用されている』とされた冒険者達はクロワールに詰め寄っていく。
「なんと……!?」
「むう……そんな馬鹿な話があるか! 少々短気ではあるが、人が困るようなことをする男ではないぞ!」
「貴様、ギルドマスターを陥れようとしているのではないか? 友人と言いながら実は憎んでいた、ということか?」
冒険者達が口々に声を荒げ、クロワールの胸倉を掴んだりしながら納得がいかないという。だが、クロワールは手を振り払い、一歩飛んで距離を開けると大きく笑いだす。
「はははははは! まあ、あいつも上手くやっていたからその気持ちは分かるよ。だけど、事実で現実だよ? 脅迫状は間違いなくケルブレムの仕業だ」
「……ならどうしてあんたは友人とやらを裏切るのかしらね? それを私達に教えてどうして欲しいの?」
マキナが腕を組んで訝し気に目を向けると、クロワールは包帯から覗く目をにやりとゆがめて手を大仰に広げながら俺達を見渡しながら答える。
「勘違いしないで欲しいけど、この計画は僕も知らないものだったからお互い様さ。ここによこしたのも。ここに居る『倒して欲しいもの』ついでに始末できればとでも考えていたんじゃないかな? 僕は友人と思っていないし、向こうもそうだろう。僕がここで君たちに言うのは、ま、強いて言うなら目障りだから、かな?」
「それだけの理由で……!?」
ケイブが驚いて一歩下がると、クロワールが肩を竦める。
「ほら、君達にもいるだろ嫌いなやつ。それと同じってことさ。一応計画としては、脅迫状を送って領主を脅し動かないその間にトレントを増やす。時が来れば勝手に被害が増え、そして領主はなにもしない腰抜けだと糾弾し引きずり下ろして僕達の手駒を据えるつもりなんだ。でも、恐らく自分が領主になるつもりなんだよねえ。僕達は裏方で目立ってはいけないのにさ」
「目立ってはいけない……? 他にも仲間がいるのか?」
俺が口を開くと、クロワールは俺を見て嬉しそうに続ける。
「想像にお任せするよラース君。さて、そうは言うものの、領主はそこに居る冒険者を使いトレント駆除に乗り出し、ケルブレムにとっては面倒な話になった。予想だけど、あの短気なケルブレムのことだ、領主の屋敷に彼の手のものが襲撃しに行っているかもね? くく……もう領主一家は死んでいるかもしれない」
なおも愉快そうに口を開くクロワール。何だろう……俺はこいつを知っているような気がする……。しかしそんな思考をよそに、嫌悪感を示しながら冒険者達がクロワールを取り囲む。
「ケルブレムさんがそんなことを……?」
「こいつの言うことが信用できるってか……? ハッタリじゃねぇのか……?」
「確かに短気だがそこまでは……」
「しかし確かに金にはうるさいぞ」
中にはなんとなくそうかもしれない、といった感じの人も居る。典型的な人によって態度を変えるタイプの人間だろう。煽りには弱そうだったし。そこでクロワールが髪の毛をくしゃくしゃとかきながら大きく伸びをする。
「ふう、いやあ喋った喋った! 僕の話はここまでだ、それじゃ後は仕上げを頼むよ。僕は帰るから」
「どこに行くつもりだ? 貴様だけ帰れると思うなよ? 知っていてここまで俺達をおびき寄せたのなら同罪だというくらい、子供でも分かる話だろう?」
コンラッドが剣を突きつけて睨む。そこへ俺は右手を隠し、そこへ魔力を集めながらコンラッドへ言う。
「無駄だよコンラッド。こいつがここまでペラペラと話すのは理由がある」
「理由?」
ボロゾフの言葉に俺は頷き続ける。
「ひとつは、こいつはここから逃げ切れると確信しているからだ。喋ればこうなることは分かっていたはず。だけど喋った。それは俺達に混乱を招くためさ。そしてもうひとつ……」
「……」
クロワールが目と口元をにやけさせ、答え合わせを楽しむように俺を見る。魔力が溜まったことを確認した俺は、クロワールに手をかざして叫んだ。
「もうひとつ……それはこいつが俺達をここで全滅させるつもりだからだ! 死人に口なし、だから洗いざらい吐いた! そういうことだろう! <フレイム>」
「ははははは! ご名答だよ、君達に倒して欲しいのは……こいつだ!」
クロワールがそう言った瞬間、泥の中から巨大な影が飛び出してきた!
地面に着地したそれは、光り輝くトレント。フレイムを回避したクロワールはトレントの上に立ちダガーを抜く。
「泥から出てきた……? 一体なら問題ない、一斉にかかれ! クロワールを逃がすなよ!」
「おおおお!」
数で押せとコンラッドが叫び、冒険者達は武器を構える。だが、クロワールは涼しい顔で俺達を見下ろしていた。
「その余裕を今、崩してやるからな」
「ん? ……やるね、流石はラース君だ」
トレントに飛び移ろうとした瞬間を狙って足に絡みつかせたウォータージェイルを見て目を細める。そして決着をつけるべく俺達は攻撃を開始した……!
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