第百九十一話 情報収集をするバスレーちゃん(26)


 ラースがアンリエッタと喫茶店に入ったころ、別行動をしていたバスレーがギルドで情報を集めていた。 

 「さてさて、今日のところはあなたたち以外に何か情報を持っていないか確認と行きましょうか」

 「ああ。とは言っても、有力な情報を持っている者がいるとは思えないが……」


 コンラッドが久しぶりに戻ってきたギルド内を見ながらバスレーへ言う。相変わらずの喧騒が懐かしいと感じているとボロゾフがふたりに声をかけた。


 「まあまあ、コンラッド。あれからまた時間も経っているし事情も変わっているかもしれねえだろ? それで姐さん、聞きたいことってのは?」

 「ええ、まずトレントの目撃情報ですね。特に多い場所があるかどうか。それと被害が大きい村があったりしないか。もう一つは怪しい奴ですかねえ」

 

 スラスラと台本を読み上げるかのように言い放つバスレー。それに対し、コンラッドが頷いた。


 「そういうことならこの町で活動していた俺たちの出番だな。手分けして聞き込みをしよう」

 「あいよ、んじゃちょっくら行ってくるぜ姐さん」

 「よろしくー♪ 」


 バスレーは四人が散っていった後、自身も目を細めて周囲を見渡し、ひとり呟く。


 「……さて、と。わたしも待つだけってのは性に合いませんからね。あの辺に聞いてみましょうか」


 目をつけたのは男女混合のパーティで、賢そうな男の魔法使いと女剣士、それともうひとりローブを着た女性だ。

 バスレーが近づき、軽く挨拶をする。


 「はあい、そこのリア充達。ちょっとお話、いいかしら?」

 「ん? 何か御用ですか?」

  

 賢そうな男が呼びかけに応え振り返り、同時に女剣士と女性もバスレーへと目を向ける。女剣士が警戒した感じでバスレーへ問いかけた。


 「なんだいあんた? ……見たことがないね、新顔かい? まあ座りなよ」

 「まあ、そんなところです。ちとお尋ねしますが、最近トレントが増えすぎて困っているって話を聞きまして、それが本当かどうかを。これはご丁寧にどうも。わたしはバスレーというケチな旅人でございます」


 バスレーが椅子に座ると、柔和な顔をした女性が手を合わせて微笑んだ。


 「わたくしはミネットと申しますわ。このオリオラの町を拠点として、光の魔法使いとして冒険者をやっております」

 「僕はタルカスという、よろしく」

 「あたしはネル、見ての通り剣士だ。んで、あんたの質問だけど、答えはイエス。正直、このままで大丈夫かってくらい遭遇する。討伐依頼に森に出向いたら一体は必ず倒す」

 「……なるほど、ギルドやギルドマスターは何か手を?」

 「現状維持、だとさ。今のところは依頼で駆逐していく形で行くそうだよ。ただ、数は多い割に報酬が少なくて受ける奴はあまり居ないんだ。まあ、報酬を高くすると、払いきれなくなるから仕方ないんだろうけど」


 バスレーはそれを聞いて顎に手を当ててから考える仕草をする。ミネットと自己紹介した女性が首を傾げてバスレーに言う。


 「どうかされましたか?」

 「……いえ、今日の晩御飯は肉がいいか魚がいいかどうしようかと」

 「全然関係ないこと考えてるんじゃないよ!? 真面目に話したあたし達がバカみたいじゃないか……」

 「はっはっは、リア充滅ぶべしがウチの家訓なので! と、冗談は置いといて、貴重な話をありがとうございました。それともう一つ、あそこにいる彼のことは知っていますか?」


 バスレーは少し遠目で聞き込みをするコンラッドに指を刺して三人に尋ねると、ミネットが笑顔で頷き、答えてくれた。

 

 「あら、コンラッドさん? 町を出ていったって聞いたけど帰って来たんですね」

 「本当だ。あっちにゃボロゾフも居るな? 仲直りしたのか」


 ネルも知った顔だという風にコンラッド達を見て呟いたのでバスレーはうんうんと頷き喋りだす。


 「実はわたし、彼らに頼まれてこの町に来たんですよ。トレントを退治して欲しいと」

 「へえ、領主様に直談判に行ったけど門前払いを受けて出ていったって聞いたけど、やっぱり故郷は見捨てられないみたいだな。おっと、あたし達はそろそろ行かないといけねえ」


 ネルがそう言って席を立つと、タルカスとミネットも立ち上がり武器を装備してからバスレーに言う。


 「僕達はそれこそ依頼で近くの村にトレントを退治しに行くところなんだ。バスレーさんもトレント退治みたいだし、よろしく頼むよ」

 「あ、最後に! ここ最近、怪しい奴が町を出入りしているとかいったことはありませんか?」


 立ち去ろうとした三人に質問を投げかけると、顔を見合わせた後同時に指を刺した。


 「まさかのわたし!?」

 「ははは、冗談ですよ。冒険者が往来する場所ですからね、知らない顔見てもそれが怪しいかどうかまでは分かりませんね」

 

 タルカスが笑いながら言うと、バスレーは口を尖らせて肩を竦めて三人に言葉を返す。


 「ま、それもそうですね。では、ありがとうございました」

 

 そう言ってバスレーも席を立ち、五千ベリルをミネットに握らせた。


 「今の情報でこんなにもらえませんよ!?」

 「いえいえ、すごーく有益だったので貰ってください、今日の酒代にでも!」

 「……泣きながら言うなよ。まあ、ありがたく貰っておくぜ、縁があったらまたな」

 「それでは」

 

 三人は不思議な人だったな、などと話ながらギルドを出ていく。バスレーはそれを小さく手を振りながら笑顔で見送り、見えなくなったところで壁際に移動し周囲が見渡せる位置へと移動する。


 「(さて、他の人間の話を聞く必要はありそうですが、ひとつ怪しいことがありましたね。そっちは領主様に会ってから掘りましょうか。……ここを発端に各地で農作物被害が起きている可能性がかなり高いときたもんだ。一気に解決できますかねえ。戦闘面ではラース君が居ますし、そこはいいとして――)」


 バスレーはコンラッド達を待ちながら今後のことを頭の中でまとめ始める。しばらく考え込んでいるとコンラッド達が戻ってきた。


 「遅くなったか?」

 「いえいえ、コンラッドさんの為ならいつまでも待ちますよ♪ 何か収穫がありましたかね?」

 「ああ――」


 と、四人から聞いた話はおおむねタルカス達が話していたことと同じだった。しかし、その中でひとつ、有力な情報があった。


 「そうそう、ギルドマスターが言っていたんだが、トレントは一定の場所で特に多く目撃されることを突き止めたらしい。もしかしたらそこに何かあるのかもしれないと言っていたぜ、もしそうなら一網打尽にできるかもな」


 ボロゾフがそう言うと、バスレーは目を細めて四人に問う。


 「ギルドマスターはどんな人ですかね?」

 「お? あそこにいる茶髪のおっさんだ。それがどうかしたか?」

 「いえいえ、いい男ならツバを付けておこうと思いましてね! コンラッドさんは靡いてくれませんしぃ?」

 「く、くっつくなって……」

 「ははは、姐さんも節操がねえや! だから行き遅れ――ぐふ……」

 「成敗……!」

 「ああ、ボロゾフ!?」

 「それじゃ、情報も集まったし行きましょうか」


 白目を剥いたボロゾフを助け起こす三人。

 それをスルーし、バスレーはギルドマスターに目を向けながらギルドを後にするのだった――

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