第百八十七話 目的地へ出発
「お気を付けて、良い旅を」
「ありがとう」
宿をチェックアウトし再び馬車に乗って出口へと向かった俺達は、昨日とは違い装備を整えたコンラッドを出口付近で回収し、門番さんに挨拶をして町を出た。
「御者台で申し訳ないね」
「それは構わないが……あの二人はいいのか?」
「水を大量に飲ませたし、ちょっと寝かせておけば治ると思うから」
結局気持ち悪さがまだあるということでマキナは椅子に寝かせ、バスレー先生もお腹を殴られた衝撃で、まあ、アレな感じになり、青い顔で真っ白に燃え尽きるという難しい状態で静かに座っていた。
なので俺とコンラッドで御者台に座り、案内をお願いすることにしたのだ。
「ここから領が変わる場所に行くまで二日かかるんだっけ?」
「そうだ。途中、王都へ行く道と分かれ道があるから右に行くとオリオラの町がある。途中に村は無いから一日は野営をする必要があるな」
「オッケー」
特に魔物に襲われたりということも無く馬車を走らせのどかな街道を進む。しばらく会話も無く黙って揺られていたところでコンラッドが口を開いた。
「そういえばラース君は王都まで何しに行くんだ? 領主の息子なら手伝いをしていれば不自由なく暮らせそうなものなのに」
「そうなんだけど、俺は次男だから兄さんに家は任せて俺はやりたいことがあって、それをするためにまず王都に行くんだ」
「やりたいこと?」
コンラッドの言葉に頷き、俺は答える。
「俺のスキルは【器用貧乏】なんだ。ハズレだと言われているね」
「それは……」
「だけど、このスキルはみんなが思うようなハズレスキルじゃないんだ。昔、このスキルを持っていた人が虐げられて国を追われたと聞いた。いつかこのスキルを授かる人が苦にならないよう、俺はハズレでないことを証明するため旅にでることにしたってわけだ」
「ハズレではないのか……?」
一般的にそう言われているので仕方がないけど、コンラッドは訝しんだ表情で俺を見る。さて、こういう場合信じ無い人をスル―してもいいんだけど……
「証拠を見せた方が早いかな? 【器用貧乏】は努力すればするほど強くなるスキルなんだけど、魔法ならこれくらいはできるんだ、ちょっと手綱を持ってもらっていい? <レビテーション>」
「な……!?」
コンラッドに手綱を渡して俺はレビテーションで空へ飛び、それを見た彼は驚愕の目で俺を見る。このまま魔法で魔物でも倒すかと見渡すと、ちょうどいいところにジャイアントビーが木々の間に見えたので一撃お見舞いすることにした。
「<ファイアボール>!」
「!?」
ちょっと大きめのファイアボールを放ち、ジャイアントビーに直撃させると黒焦げになって地面にボトリと落ちた。
「ふう、とまあこんな感じかな?」
「レビテーションは、こ、古代魔法だろう? その年で習得しているのか」
「これも【器用貧乏】のおかげなんだ。これがハズレスキルなはずないってわかってもらえると思う」
俺が笑って御者台に座りなおすと、コンラッドがため息を吐いてから口元に笑みを浮かべて言う。
「まったくだな。噂話だけではあてにならないってのがよく分かる。噂だけで痛い目を見るのが冒険者だってのに、鵜呑みにしてるんだって思ったよ」
「まあ、他に持っている人もずっといなかったみたいだし仕方ないと思うよ。いろんな依頼を解決したり魔物を倒せば払拭される。俺はそのために出て来たんだ」
「なるほど……古代魔法も凄いが、あのファイアボールも見事だった。君の目的はいつか果たされると俺は思うよ」
「ありがとう」
俺も笑って礼を言うとコンラッドは顎に手を当ててから思案し、しばらくしてから俺に顔を向けてから言う。
「……恐らく俺を呼び戻したがっているということはトレント討伐隊を組むんじゃないかと思う。その時、ラース君がトレントを多く倒したり、目立つようにすれば少しは知名度があがるかもしれないな」
「とか言って、俺が強いと分かったから実は楽したいだけだったりして?」
俺がにやりと笑ってそう返すと、コンラッドは目をぱちぱちさせた後、大声で笑い始めた。
「はっはっは! そうかもしれないな! いや、そう返されるとは思わなかったよ。ラース君は真面目そうだしな」
コンラッドはずっと表情を硬くしていたので場の雰囲気を和ませようと言ったけどどうやら良かったらしい。
「難しい顔をずっとしてるから気になっててね。緊張がほぐれたみたいで良かった」
「……気を使わせてしまったか。領主様に会うということと、仲間のことが気がかりでな……」
「そのあたりも会って話せばいいさ」
そう言うと頷くコンラッド。その後は、緊張がほぐれたせいか会話が弾み、オリオラ領について色々話してくれた。
マキナとバスレー先生が復活したのは結局昼過ぎ。お腹を空かせて目が覚めたという感じだった。そこからはふたりもずっと起きて御者を交代しながら進んでいった。
「あの辺で休みましょうか」
やがて暗くなってきたところでバスレー先生が街道の開けた場所に止めて野営の準備に入る。
「じゃあ私、お料理するわね!」
「頼むよ、火は俺が用意するから」
「では、わたしは食べる担当で……」
バスレー先生が肩を叩きながらさも疲れた感じを装うが、マキナは笑顔でバスレー先生の肩に手を置いてにこっと笑う。
「働かざる者食うべからずっていうでしょ先生♪ お野菜、切ってくださいね?」
「ふあい……」
残念そうに項垂れるバスレー先生を尻目に俺は火を熾すため薪を集め、それをファイアで燃やす。アースクリエイトという魔法でかまどを作り、いつでも料理ができる準備ができた。
そこでふとコンラッドを見ると嶮しい顔をして周囲を見ていた。
「どうしたコンラッド?」
「……」
俺が声をかけると、コンラッドは唇に指を当ててウインクをした後、俺の肩に腕を回し声を出す。
「何でもない。飯は俺のもあるんだろうな? (近くに何かの気配がある、油断するな)」
「もちろんあるにきまってるだろ? マキナの料理は美味しいから期待していいぞ」
俺は小声で聞いた言葉に頷き、目だけで周囲を見渡す。開けた場所なので隠れられるところは少ない。近くの森か、岩陰くらいなものだが俺にはどこにいるかが分からない。
まあ、コンラッドの仲間だろうけど仕掛けてくるかな……?
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