第百八十六話 領主の思惑
「あはははは! バスレー先生すごいー!」
「これくらいは序の口ですよマキナちゃん! ほらほら果実酒お代わり行きましょう♪ ラース君お金持ちですし!」
「バスレー先生、自分が飲むのはいいけど、そろそろマキナを巻き込むのやめてくれ。顔、真っ赤だし」
「君も随分飲んでいると思うけど大丈夫なのかい……? 後、さりげなくこの人お金を出させようとしているけど……」
「後で徴収します」
とそんな感じで、バスレー先生がコンラッドに質問攻めをした後、マキナも少しずつアルコールが回りふたりのテンションが上がっていく。そしてコンラッドの言う通り、俺も久しぶりのビールを五杯空けたところだった。
しかし【超器用貧乏】のせいか酔っておらず、飲みを重ねると努力したとみなされ、慣れてしまうと酔わなくなるのは少し勿体ない気もする。お酒って雰囲気もあって酔うのが楽しいところがあるし、オンオフできないか調べてみるのもアリかな? そんなことを考えつつ俺はコンラッドへ返す。
「俺は大丈夫。バスレー先生はともかく、マキナは宿に連れて帰らないといけないから酔う訳にはいかないし」
「なるほど。……それにしても領主様の息子とは驚いた、いや驚きました」
「ああ、別に俺が領主って訳じゃないから敬語じゃなくていいよ、俺もそうさせてもらうし」
「とりあえずそっちのバスレーだっけか? ラース君が領主の子ということも考慮した上で同行には協力するが、大丈夫だろうか?」
「バスレー先生に何か策があるみたいだけど、何を持っているか知らないし、俺達も付いて行って様子見になりそうだね」
「流石に隣の領の息子と一緒なら話を聞いてくれるだろうか……それより王都に行くのに寄り道になるがいいのか?」
「急いではいないからいいよ。他の領地がどんな感じか知っておきたいし。それよりも――」
俺としてはトレントが大量発生した理由が知りたい気はすると六杯目を口にしながら胸中で呟く。
コンラッドは戻るつもりはないとあいつらに言っていたけど、やはり故郷は気になるとバスレー先生の案に乗ってくれた。
まあ俺の『領主の息子』という肩書きがあることもあるだろう。念のため、ギルドカードを見せたのでアーヴィングの名は伝わった。
こういうのは使えるなら使う。国内限定だけど協力を得たり、相手が下手を打てなくするには有効だからだ。
「ま、行ってみるしかないかな。マキナ、水を飲んでおいて、悪酔いしなくなるから」
「ふあーい!」
「マキナちゃんばっかり優しくして……! 先生にも構ってくださいよ!」
「嫌だよ……」
「……」
はしゃぐふたりを横目で見ながら枝豆をつまみ、コンラッドへ言うと、不安げな表情で俯いていた。聞いた話だとオリオラ領の領主は消極的な男のようだ。
運営は問題ないらしいけど、自ら、または部下に視察させて領地改革をすることはないのだそう。村や町から進言があったら手を入れる、というものなのだそうだ。
父さんが頑張っていたのは実は本来より頑張っていたのだと気づかされた。他の領地はどうしているのか気になるところだ。
「それじゃ、明日合流しよう。オリオラ領へ向かう出口で待つ」
「よろしく頼むよ。……ちゃんと連れて行くから」
「あ、ああ……大丈夫、なのか……?」
「大丈夫だ、また明日!」
マキナを背負い、バスレー先生を小脇に抱えた俺を見て焦る。背負ったマキナもそうだけど、バスレー先生も軽いので大したことは無い。
コンラッドと別れて宿へチェックインし、部屋へと行く。
「……三人部屋で取ってるとは思わなかったけど……」
マキナとバスレー先生が同じ部屋で、俺がひとり部屋にするだろうに……俺はそんなバスレー先生をベッドに落として留飲を下げる。
「ふぎゃ!? ……ぐうぐう……」
「ほら、マキナも」
「う、ううーん……ラース……」
「うわ!?」
背負ったマキナを降ろすと、その瞬間引きずられてベッドに倒れこむ。
「ちょっとマキナ!? 離してくれ」
「くう……くう……」
マキナに抱き枕にされた俺は慌ててマキナの手を離そうとする。アイナに抱き着かれているのとは訳が違う。鎧をつけていない成長したマキナは刺激的すぎるからだ。
「ストレングスを使えば……」
「むにゃ……ラース君……好き……」
「……」
今では『ラース』と呼び捨てにしてくるマキナだけど、久しぶりにそう言われて俺は何となく笑みが浮かぶ。
「恋人だし一緒に寝るくらいはいいか」
「すぅすぅ……」
俺はそのまま目を閉じるとすぐに眠気が訪れた――
◆ ◇ ◆
「……コンラッドのやつ、あのガキどもと飲んでやがったのか」
「くそ、俺達の気も知らねぇで……」
「よせ、あいつにそれを言っても仕方がない。今はトレントを駆逐するためあいつの【気配察知】が必要なのだ、何としても連れて帰らねば」
「しかし領主様も今更どうしてなんだろうな? あの時やってくれれば面倒なことにならなかったのによ……」
「そこは俺達には分からんことだ。言われたことをやるしかない」
「違いねぇ。それじゃまた明日、だな」
◆ ◇ ◆
――翌朝
「ん……朝か……」
「起きましたね? おはようございますラース君!」
「うわあ?! バスレー先生!?」
目を開けると、俺の隣で何故かほくそ笑むバスレー先生が俺の横に寝転がっていた。慌てて飛び起きると、マキナの姿が無く、俺が周囲を見渡しているとふらふらしながらマキナがトイレから帰って来る。
「うう……気持ち悪い……」
「あ、おはようマキナ。大丈夫かい?」
「おはようラース……ってバスレー先生何してるんですか! は、離れてください!」
「まあまあ落ち着いてマキナちゃん。今後の指針ですが、オリオラ領に入って領主の居る町、”オリオラ”まで行きます。で、到着後は一日置いてから領主に会いましょう」
「当日中に話に行かないのか?」
話をするには早い方がいいはずだけどと思っていると、バスレー先生は指を振って言い放つ。
「ちょっと情報収集をしたいんですよねえ。いくらものぐさな領主でも被害があって放置するのは愚策ですし、国に知られれば、資産があっても外されることだってあります。だんまりのリスクが高すぎるんですよ」
「でもコンラッドを呼び戻すってことは策を講じるつもりなんじゃないのかな?」
「数か月前の話ですからねえ、その間何があったのか、ってところですか。まあ、聞き込みは言い出しっぺのわたしがやるのでデートでもイチャイチャでもしててくださいよ」
バスレー先生はそう言ってペロリと舌を出し親指を立てる。言いたいことは分かったけど、そろそろマキナが限界であることに気づいて欲しい。
「バスレー先生……離れてって言ってるでしょ!」
マキナが俺の横で寝転がるバスレー先生に襲い掛かり、無防備なお腹に拳が刺さる。
「うぐ……!? 昨日食べた羊の香草焼きが上がってきた……!?」
「う……暴れたらまた気持ち悪く……」
「ふたりともベッドで吐かないでよ!?」
次に飲むときはセーブさせよう……そう思わざるを得ない俺であった……
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