第百八十五話 コンラッドのお話


 「はーい、すみません、片付けが終わりましたのでお席をお使いくださーい!」

 「お、助かるよ」

 「立ち飲みってのも悪くはねぇがな、でもほらお前も足腰がさ……」

 「年寄り扱いかてめぇ! はっはっは!」

 「はっはっは!」


 騒動からしばらくして、ウェイトレスさんや従業員さんが片づけを行い俺達は逃げていった男達の代わりにコンラッドという男の前に座ると、バスレー先生が乾杯をする。


 「新しい出会いにカンパーイ!」

 「さっき私達の旅立ちに乾杯したばかりよ先生」

 「乾杯はいくらやってもいいんですよ、マキナちゃん!」

 「そ、そうなんだ……」

 「騙されちゃダメだよマキナ、バスレー先生適当言わないでよ? あ、すみません、俺はラースと言います」

 「私はマキナです」


 俺とマキナが挨拶をするとコンラッドがジョッキをテーブルに置き、俺達を交互に見た後口を開く。


 「俺はさっき聞いていたかもしれないがコンラッドという。見苦しいところを見せた上に助けてもらったな、ありがとう」

 「いえ、大したことはしていませんよ。それにウチの領で流血沙汰になるのも勘弁ですからね。失礼ですけど、元々オリオラ領の人だったみたいですが?」

 

 俺がそう言うとコンラッドさんは目を細めて俺の顔を見ながら質問に答えつつ、疑問を投げかけてきた。


 「確かに俺は数か月前までオリオラ領で冒険者をやっていた。それよりウチの領とはどういうことだ?」

 「それは――」


 俺が説明しようとすると、隣に座っていたバスレー先生がビールを飲みながら俺の肩目を細めて笑いながら言う。


 「ぷっはあ! この子はこのガスト領の領主の次男、ラース=アーヴィング君ですよー?」

 「な!?」

 「はは、まあそういうことで、ウチの領って訳なんです。父と兄が経営しているだけなんで大きな声で言えないですがね? それより、あいつらと何があったんですか?」

 「……と、元オブリヴィオン学院の教師、わたしバスレー二十六歳が申しております!」

 「ちょっとバスレー先生、茶々を入れないでください。何か、追い出されたと聞こえましたけど……」


 マキナもちゃんと聞いていたらしく核心を聞いてくれる。一瞬だけ思案した表情を見せたがコンラッドは語る。


 「……俺も大きな声では言えないんだが、あいつらはオリオラ領の冒険者で俺とパーティを組んでいた連中だ。とある依頼を受けて農作物が荒らされる原因を調査していてな、俺達は……いや、俺はその原因を突き止めた」

 「ほう……」


 きらりとバスレー先生の目がきらりと光る。城に呼ばれていることと何か関係があるのかと思いながらコンラッドの話に耳を傾ける。


 「森に『トレント』と呼ばれる木の魔物が居るのは知っているか? あれが数を増やし、村に影響を及ぼしていたんだ。俺達はそれを領主様に進言したのだが、どうしてか領主様に口止めをされてしまったのだ。それに賛同した先ほどの仲間だったがあれをそのままにしておくのはマズイと判断し、討伐隊を組むように頼み込んだ。だが、結果はこの通りだよ」

 「トレント……授業では知っているけど、見たことは無いかな。擬態が上手くてなかなか見つからないとかそんな感じだったよねマキナ」

 「そうそう。木こりが斧で斬ろうとしたら動き出してびっくりしたって話は有名よね」


 とはいえ、肉食ではないので人間に攻撃してくることもないし、火に弱いので倒すのは難しくないとベルナ先生が教えてくれた。


 「討伐隊を組むほどでもなさそうな……?」

 

 俺が聞くと、ビールを一口飲んでバスレー先生が鼻を鳴らしながら口を開く。


 「甘いですよラース君。トレントは擬態が上手い、ということは見つけにくいということ。もちろんこのガスト領にも居ますが、きちんと冒険者が処理しているのでそれほど見かけない魔物なんですよ? さて、それを前提としてオリオラ領はそれほど魔物討伐に力を入れていませんでしたよね?」

 「恥ずかしい限りだが、あまり、な」


 その答えにバスレー先生が満足気に頷き、さらに続ける。


 「となると、増えた原因はそこでしょうね、見つけにくいトレントをこちらから狩らずに放置し続けていたら増えますって。それにトレントは普通の依頼ではなかなか倒せませんよ。森を焼き払う方が早いまでありますし」

 「へえ……あ、でもコンラッドさんが『見つけた』って言ってましたけど、トレントを見つけられるんですか?」

 

 マキナがぺらぺらと喋るバスレー先生に感心していると、ふと気になったのかコンラッドへと聞く。するとコンラッドは真面目な顔のまま答えた。


 「俺のスキルは【気配察知】といってな、擬態していても立ち止まって集中すると周りにいる人間や魔物の気配を感じ取れる。だから増えすぎた今、駆逐するなら今かとな」

 

 なかなか面白いスキルを持っているみたいだ。確かに気配でトレントとただの木が分かるならコンラッドが主体になって動けばなんとかなりそうだ。

 ……だが、領主はそれをしなかった。何が困るというのだろう……?


 「何度か進言したもののなしのつぶてだったし、俺を疎ましく思い始めた仲間に追い出されたってわけだ」

 「でも、今でもトレントは増える可能性があるんですよね? なら倒した方が楽なはずなのに……」

 「拒否する理由はないよな」

 「ごくごく……ふはあ、なら直接聞きましょうか?」

 

 俺達が言い合っていると、肩ひじをついたバスレー先生がにやりと笑う。それにコンラッドが困惑気味に言う。


 「しかしあいつらはただの冒険者だし、俺とそれほど情報に差は無いと思うが……?」

 「いえいえ、聞くのは拒否した人物でいいじゃありませんか! ひっく」

 「拒否したって……領主にってこと?」

 「流石はラース君、話が早い! そうですよ。ちょっと確かめたいこともありますしねえ?」

 「確かめたいこと……?」

 

 マキナがごくりと息を飲むと、バスレー先生は潤んだ瞳でコンラッドを見て口を開いた。


 「あの……コンラッドさんはおいくつですか……?」

 「は? 二十八になるが……」

 「よっしゃ!」

 「確かめたいことってそれ!?」


 笑いながらビールをを口に含むバスレー先生はにやりと笑い、コンラッドを質問攻めにする。どれくらい稼ぐかとか聞かない方がいいと思うんだけど……


 まあ、領主に何か聞くのはその通りだけどさ。魔物が増えるってことは少なからず隣であるガスト領にも影響があるかもしれない。国境ではないので基本的に地続きだしね。


 さて、父さん達の負担を減らすためにもちょっと動いてみようか? 


 

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