第百五十八話 交渉成立!
頼みがある――
アルジャンさんが神妙な顔をしてそう呟き、俺達は顔を見合わせる。とりあえず事情を聞いてみようと、俺はアルジャンさんへ尋ねた。
「頼み、ですか?」
「ああ。とは言ってもドラゴンの素材を加工する仕事はきちんとする。だが、頼みごとにを聞いてくれたら料金に関して勉強させてもらう」
安くなるならいい話だと思うけど、俺達はまだ相場を知らない。まずはそこを聞いてからになるだろう。
「すみません、先に聞いておきたいんですけど本来の料金を確認させてもらっていいですか? 例えばこの牙をオーソドックスな剣に加工した場合とか」
俺がサージュの立派な牙を手にしてアルジャンさんの目を見る。兄さんやノーラもこの料金が一番気になるところなので、固唾を飲んで回答を待つ。
「そうだな、こいつを剣にした場合、一本十五万ベリルってところだな。ダガーなら九万、大剣なら十七はもらう」
「十五万!?」
「す、凄く高いのー……オラ、胸当てとか欲しいんだけど、それだといくらになるのー?」
「お嬢ちゃんの胸当てなら鱗を使って七万ってところだが、子供の内に防具を作るのはお勧めしねえ」
「どうしてですか?」
ノーラは予算である六万ベリルをあっさり越えた金額を提示されがっくりと肩を落とす。そんなノーラの肩に手を置き、兄さんはお勧めしないという理由を聞いていた。
「まだお前さんたちは体が成長する。子供の体形に合わせて作ると大きくなってから使い物にならなくなるんだよ」
「あ、言われてみれば確かに」
そういえば一年生の時、対抗戦で一位をとった時にもらったジャケットは結構ぶかぶかだったっけ。あれも成長してから着れるよう考慮していたんだと思う。
「まあ、そういうことだ。あまりサイズが影響しない部位、例えば帽子みたいなやつの方がいいと思うぜ? で、値段はだいたいこんな感じなんだが、俺の頼みごとを聞いてくれるなら全部半額でやってもいい」
「マジか? 危険なことなら許可はできねぇぞ?」
「半額はやりすぎじゃないですか……?」
いきなり半額という条件にティグレ先生が険しい顔で詰め寄る。俺も思わず訝しんでしまうほどだ。美味い話には裏がある。
「まあ、そう思うよな……だが安心してくれ、危険なことは一切無い。ただ、出来上がった物を少し貸して欲しいんだ」
「貸す……何かに使うんですか? そういえばさっき『あいつらを見返す』みたいなことを言ってましたよね」
工房に案内された時、そんなことを言っていたことを思い出し尋ねると、アルジャンさんはゆっくりと頷き、話を続ける。
「客が離れたって話したろ? あれは剣を作ってくれって言ったやつが悪い噂を広めたせいなんだよ。別の町にいる冒険者らしいんだが、仲間と一緒にまあやってくれたってわけだ。実際に完全に越えられてはいなかったわけなんだが、それでも鼻で笑われて、ゴミ扱いされるようなもんは作ってねえ。だからこのドラゴン素材で間違いないものを町人や国王様に見せれば考え方が変わるんじゃねえかと思ったんだ」
「アテはあるんですか?」
「国王様は親父が調理器具や兵や騎士の装備を卸していたこともあるから謁見は出来るだろう。問題は冒険者連中さ」
曰く、ここ最近隣町に探しに行っても姿を見ることが無いらしい。国王様に認められれば十分だと思うけど、その人達にも一泡吹かせてやりたいのだそうだ。
俺達が直接国王様に会うというようなことも無い為、それで金額が半分になるならと了承する。
「そうか! いやあ助かるぜ、この町を出ていって他で仕事をすることも考えたんだが、両親が暮らしていた場所だから離れがたくてな。それじゃ何から作る?」
少し照れながらそう言うアルジャンさん。母親はまだ他界していないらしく、もう一つの家にいるとのこと。それなら尚更離れられないよね。
とりあえず早速準備に入るらしいので、資金がある俺のから作って貰おうかな?
「それじゃ、俺は剣を作って欲しいな」
「あ、じゃあじゃあ、私はダガーがいい! 防具はまたでいいかな」
「オラは帽子ー!」
「僕はショートソードと盾かな。父さんと仕事をするようになったら外にも行くことがあるだろうし」
各々オーダーを伝えていくと、アルジャンさんはニカっと笑って頷き、炉に火を入れ始める。
「帽子は今日中にはできそうだ。ダガーも明日中には何とかなるだろう。嬢ちゃん達からのでいいか? 兄ちゃんたちのは二、三日、時間をくれると助かる」
「わかりました。それじゃノーラとルシエラのからお願いします。最近仕事が無いと言っていましたし、代金は先にお渡ししておきます」
俺はカバンからベリルを取り出し、アルジャンさんに手渡すと、目を開いて言う。
「いいのか? 完成してからでもいいんだぜ?」
「いえ、お話を聞く限り腕は間違いなさそうですし、親父さんを越えることを期待していいんですよね? だから信用して先渡しさせてください」
「……チッ、そこまで言われちゃ下手な仕事ができねえな! 任せとけ、満足いくものを必ず作ってやる……!」
アルジャンさんは最初に見たやる気の無さそうな表情が無くなり、不敵な笑みを浮かべて作業に入る。ただ、工房で働いていた人達がいなくなってしまったため、俺達は興味もあって道具を渡したりと作業を見ていた。
俺の剣は品評に出すから手に入るのは先だけど、ダガーと帽子、楽しみだな。
◆ ◇ ◆
一方その頃――
「あーあ、お姉ちゃんずるいよ私も行きたかったのに」
「そういえば珍しくルシエールを連れて行かなかったね、話はしていたのかい?」
店先で両手を頬に置いて口を尖らせるルシエールを見て、父親のソリオが苦笑しながら尋ねると、ルシエールが返す。
「ラース君達が鍛冶屋さんに行くことは知っていたけど、お姉ちゃんがついていくことは聞いてなかったよ。いつも一緒に居るのに、こういう時は置いていくんだから」
「ルシエラもそろそろ十五歳になるし、連れまわすのを止めたのかもしれないね? あ、いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませー」
ルシエラの話をしている中、冒険者だと思われる装備に身を固めた四人組が来店し、すぐに営業スマイルを浮かべるふたりと従業員。
「こいつを視てもらえるって聞いたんだが――」
「あ、はい、宝石ですね。それでしたら私がお調べしますけど」
「よろしく頼む」
「はい♪」
ルシエールが笑顔で対応し、宝石の鑑定を。そして査定を宝石担当の従業員と対応し、冒険者は笑みを浮かべて現金に換えて帰っていった。
「ルシエール様のジュエルマスターがあるから私共も仕事がはかどりますよ」
「えへへ、そう? ありがとう。卒業したら宝石を牛耳る女商人とかかっこいいと思わない?」
「うーん、物語を読みすぎでは……?」
店内にソリオや従業員の笑い声が響き、ルシエールが頬を膨らませる。
そんな賑やかな店内をよそに、店外では――
「……あの娘、マジですげえな……」
「的確に宝石だけを見極めて、少しの傷も見逃さないとは恐れ入った」
「胡散臭い二人組だったが、情報は間違いなかったな」
「さて、それじゃあ交渉成立ってことで、後は娘をどうやってあいつらの下へ届けるか、だな。成功すりゃ遊んで暮らせる」
四人の冒険者はぼそぼそと話ながら、少し離れた場所でブライオン商会へ振り返りほくそ笑むのだった――
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