第百四十三話 それでも、なお前へ
「ぐふ……」
「手ごたえあり、です!」
[あああ! カール君、クーデリカちゃんの重い一撃に膝から折れたぁぁ! これは立てるか? ……たてなぃぃぃ! 何の活躍もできずに沈んだぁぁぁ!]
[いえいえ、いい戦いでしたよ?]
ナルを倒したリューゼから勢いが衰えることは無く、二番手に出たクーデリカがBクラスのカールを倒した。
しかし、バスレー先生が言うほどカールが活躍していないというがそれは間違いで、クーデリカが【金剛力】を持っているのを分かっているので近づけさせないよう槍を持って応戦していた。
スキルは【一点】というものらしく、槍の一撃はクーデリカの防具を確実に射抜いていた。本物の武器なら胸を貫かれていてもおかしくない。スキル自体は戦いもだけど、釘打ちみたいな仕事にも使えるなと思った。
で、カールは【金剛力】に注意しながらクーデリカを攻めていた。だけど、疲れもあったのだろう、槍のスピードが落ちた時、クーデリカに槍を掴まれてぶん投げられたのだ。運よく着地をしたものの、待ち構えていたクーデリカの斧がお腹に入り、崩れ落ちるように倒れたってわけ。
[さて、悶絶しているカール君が運ばれ、次の子へバトンタッチとなりますが、Bクラスは次に負けてしまうと競技終了。追い詰められた形になりますね。チャンスはもう無いですからここで終了でもアリなのではないかと思うのですが?]
[確かに次はラース君ですし、不戦勝で終わるのも構わないと思いますねぇ。大人になってから逃げるのも手、ということはよくあることですしね。でも、そう思っていないでしょうバスレー先生は?]
[ふっふっふ、それはもちろんそうですね! そして見てください、Bクラスはまだやる気……先に立っているラース君の前にイーファ君が立ちはだかります! 頑張れ子供達! 今は負けてもいつか勝てばいいんですよぉぉぉ! それが許される今のうちに挫折を味わうのも一興!]
「相変わらず無茶苦茶言うなあの人……」
視界の端に、リューゼが呆れた笑いを見せながら頭の後ろで手を組むのが見えた。確かに凄いことを言うなとも思うけど、子供のうちにしかできないこと、というのもあることを言ってるのだろう。
ここで負けても死ぬわけじゃない、だけど負けっぱなしでいるんじゃないよ、と。
外の世界に出れば魔物にやられることもあるだろうし、悪意ある人間に殺されることだってあるかもしれない。やり直しは利かないのだ。やり直しができる今のうちに己を磨けと言っているのだと思う。
「頑張ってラース君!」
「がんばってー!」
色々考えているところにマキナとクーデリカの声が聞こえ俺は小さく手を振って応えると、目を細めて微笑み手を振り返してくれる。さて、無様なところは見せられないね。
「……どっちかが彼女かい? それとも、二人ともかな? 領主の息子ならそれもアリだろう?」
目の前の、イーファって言ったっけ? 彼がマキナ達を見ながらそんなことを言う。淡々と。初めてそんなことを言われたなと思いながら俺は答える。
「いや、ふたりとも違うよ」
「違うの!? お、お前、あんなに可愛い子に好意を向けられて付き合っていないのか!?」
「え、あ、うん。みんな可愛いし、好意も嬉しいけどまだ俺は選べていないんだ」
するとイーファが目の前で両拳を握り、大声を上げ始めた。
「マジか! お前マジか!? 女の子だよ? あんなに可愛い子が二人好きだっつってんだよ!? 何が選べないってんだ、二人とも選べばいいだけだろうがよぉぉぉぉぉ! 羨ましぃぃぃぃぃ!」
「ええー……」
「俺なら確実にふたりとも嫁にするね。考えるな、好意を持たれている時点でラース君、お前は勝ち組なんだよ……?」
急にテンションがだだ下がるイーファに困惑する。だが、すぐにふうと息を吐き、俺に剣を向けてくる。
「女の子の想いを無下にするお前には羨ま死させてやる……!」
「なんでちょっと涙ぐんでるのさ……」
「うるせぇ! モテない男全員の想い、お前にぶつける!」
「始めぇ!」
[心の声が駄々洩れのイーファ君、そんなことを言うからモテないと気づくのはいつの日か! 先生は遠くから見ているぞー!]
なんと理不尽な!? そう思っているとティグレ先生が戦闘開始の合図を出してくる。躊躇いもなく踏み込んでくきた!
「尻! 健康そうな太ももぉぉ!」
[さらに欲望全開で不穏なことを叫びながらラース君を襲うぅ!?]
[十歳だからまだまだチャンスはありますよぅ]
実況からもツッコミを受けているが、俺は見逃さなかった。チラリとマキナの方を見ていたことを。なんかすごくイラっとするなこいつ……!
「そんなこと言いながらマキナを見るなよ!!」
「うおおおお!」
「突っ込んでくる!?」
ふざけたことを言うやつだけど腕は悪くない! 初段の突きを回避して俺も剣を振ろうと腕を動かすも、勢いをそのままにショルダータックルで転ばそうとしてくる。だけど、ティグレ先生の体当たりに比べれば全然楽なので、踏ん張って押し返した。
「チッ、油断してくれないか。それに体幹がいいな!」
演技だったか? 真顔に戻り、剣を縦に振り肩を狙ってくる。俺は見越して、スッと小さい動作で回避すると左手に剣を持ち替え、右手をイーファの胸に向け叫ぶ。
「ふざけたことを言うやつに負けるわけにはいかないからね! <ファイアーボール>!」
「おげぇ!?」
[ラース君、怒りのファイヤーボールが炸裂し、小さいながらも爆発が起きる! ラース君も男の子、クラスメイトに嫌らしい目を向けられたら怒りますねえ]
[本命の攻撃じゃないですねぇ。攻めますよこのまま]
ベルナ先生の言う通り、これはまだまだ序の口。ボゴンと小さめのファイアボールが爆発し、その余波でイーファがたたらを踏む。俺はすかさず一歩踏み込み両手で剣を握って胴を薙ぐ。
「熱いし、いでぇ!? くそ! モテて強いなんてずるすぎるんだよ!!!!」
「くっ! ……だあああああ!」
「ぐああああ!?」
[あー!? ラース君凄い力だ! イーファ君、宙を舞うぅぅぅ!?]
左肩に振り下ろされた剣を受けながら俺は胴を振りぬくと、イーファは空を飛んだ。全力の全力だ、多分初めて出した。
「追撃! <ハイドロストリーム>!」
「どばぁぁぁぁ!?」
[容赦なくいきましたねぇ]
[しかし場外にはならず、イーファ君、ぼてっとフィールドに落ちた!]
「つ、強い……! 剣で叩いたくらいじゃ勝てないぞこんなの!?」
「ラース君、とどめよ!」
「……!? くそ、せめて一撃……!」
マキナの声援で何故かイーファが奮い立ち水浸しになったまま斬りかかってくる。
「うおおお! 彼女が欲しいぃぃぃ!」
「結局そこなのか!! 吹き飛べぇぇぇ! <ハイドロストリーム>」
「うわあああ!?」
剣で打ち合うより一方的に負かした方が効果的だろうと思い、俺はハイドロストリームを両手で放つ。左右から襲う激流に抗おうとダッシュをかけようとするが、すでに濡れて重みのある服では素早い動きは取れず、再び宙に舞い上がり、今度こそ場外に落ちて俺の勝利が確定した。
[なんと、両手でハイドロストリームを出すとは驚きです! 流石にこの威力の魔法ダブルはわたしでも防ぐのは難しいですよ!?]
[相当努力していますからこれくらいはできると思いますよぅ]
「ちくしょ、覚えてろ、よ……しり……ちち……ふと……」
[場外でラース君の勝利! 決まったぁぁぁ! これでBクラスは三敗となり、試合終了! Aクラスの勝利となりましたぁぁぁぁ!]
バスレー先生の実況で沸く観客席。俺は腕を上げてみんなの下へと戻っていく。
「ふう、終わったよ。真面目にやってたら強いんじゃないかな?」
「いやいや、やっぱりマキナのことが気になってたんじゃないのか?」
リューゼが仕返しとばかりににやにやしながら俺にそんなことを言う。俺はドキッとしてマキナを見ると、マキナは頬を赤くしてにこりと笑い、俺は顔が熱くなる。
んん、なんか胸があったかいようなドキドキするような……そ、それはともかくついに激戦を乗り越え、俺達は優勝を果たすことが出来たのだ!
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