第百四十四話 学院長の言葉
かくして無差別戦闘競技も終了。もう一組の対戦、CとDは、リース率いるDクラスが勝利。なんかDクラスが元気だったけど、マキナが飲んだアレを使ったのだろうか……?
あとは勝ち点が同数のBとDがもう一度戦い、二位をBが決め、CとEの最下位争いはCクラスが辛くも勝利。 総合ポイントは奇しくもA、B、C、D、Eの順番でフィニッシュする。
……だが、本当のポイントはここからが本番。俺達が妨害に屈せず、また、妨害をしなかったんだけど、もちろんそれには意味がある。
[終了ーー! これで五年生の戦いが終わりましたので! 流石に五年生の戦いは激しいですねぇ!]
[ええ、成人の一歩手前の年齢ですし、それに卒業後のことを見据えているのではと思いますねぇ。わたしは今年赴任したばかりですが、頑張っていたことはこの対抗戦でよくわかりましたよ]
[そうですね! わたしも今年赴任ですがもう卒業しそうですけどねぇぇぇぇぇ! ……ふう、それはともかくこれで全競技が終了しました。生徒の諸君は、速やかにグラウンドに並ぶように! いじょ!]
そう言って、ベルナ先生と席を立ち、
[実況はわたし、ベルナと]
[バスレーでしたぁぁぁ! うわぁぁん!」
バスレー先生が涙を流しながら、ベルナ先生と共にぺこりとおじぎをして机セットと共に消えていく。俺達もグラウンドに行くかと思ったところでテントに残っていたノーラ達が駆け寄ってくる。
「らーすくーん! 余裕だったねー」
「流石だったな。最後はスカッとしたよ」
「これは来年、狙われるかもねえ♪ マキナ達も油断してたらとられるかもよ」
「そ、そんなことないもん!」
ノーラがにこにこしながら寄ってきて、ヨグスが眼鏡をついっと上げながら笑みを浮かべる。ヘレナが腰に手を当ててマキナとクーデリカをからかっていると、急にジャックがくねくねしながら口を開く。
「ラースばっかり……! 悔しいっ!」
「ジャックも頑張ればいいじゃないか」
「くっ、こういう時はちょっと腹立つぜ親友……! まあ、お疲れさんだ、みんなも!」
ジャックがあっけらかんとしてそう言うと、ルシエールも俺のところにやってきて微笑んでくれる。
「そうだよジャック君? お疲れ様ラース君! あの時みたいでかっこよかったよ!」
その表情を見て俺はドキッと胸が鳴る。さっきのマキナの時と同じだ、この気持ちは何だろう? 前世ではこういうことは無かった感じだ。顔がまた熱くなるのを感じながらルシエールから顔を逸らしながら頬を掻く。
「ありがとう。ルシエールも投擲や一万ベリル競技は見事だったと思うよ」
「えへへ」
「さ、行きましょ!」
「わ!」
マキナが俺とルシエールの手を引き、グラウンドへと向かい並んでいく。辺りを見ると回復魔法を使って傷は回復するものの疲労回復はしないから表情は疲労感がある。だけど、さっきまで敵だった他クラスと笑いながら感想を言い合う光景は嫌いじゃない。
そんな中、悪態をつく者ももちろん居る。
「目が覚めてみれば三位とはね。僕の作戦がきちんと決まっていれば……!」
「気絶しっぱなしだったお前が言うな!? くそ、むしろ作戦が無い方が良かったんじゃねぇか?」
「正攻法だけで勝てないから、頭を使うんだろう?」
得意げにそんなことを口にするのは、ふたつ隣に並ぶCクラスのルクスだった。確かにそうだけど……と、俺が考えた矢先、高台に学院長先生が立った。生徒たちはすぐにおしゃべりを止めて言葉を待った。
「生徒諸君、お疲れ様でした。今年の対抗戦も熱く面白い戦いで、私も手に汗を握らせてもらいました。お姫様抱っこや一万ベリル競技など新しい競技も、皆さんに新しい可能性が見れたのも嬉しいところです」
学院長はそう言って俺達を労ってくれる。
「この対抗戦、すでに去年からやったことのある生徒は分かっていると思いますが、一年生は初めてなので少し語りましょうか。この対抗戦は、主に『競争をする』ことに重点を置いています。なぜか? 学院を卒業するまでは、学院で失敗してもテストでいい点が取れなくても罰があるわけではありません。ですが、卒業し、どんな道を進んだとしても必ずついて回るのは『結果』です」
これは去年、兄さんの応援で聞いた話と同じだ。恐らく続きも同じだろうと耳を傾けると、学院長はさらに続ける。
「例えば、魔物討伐の依頼であれば、魔物を倒すという結果が出せなければお金を稼ぐことが出来ません。商売であれば相手を満たせる商品を売ることが結果になります。ですが、複数の討伐依頼であれば他の人間に負けると報酬が無い、仕入れに失敗すると売るモノが無いなども考えられます。そこが競走にあたる部分で、いかに結果を出すために努力をしたか? 考えたか? そういうことを考えるための対抗戦なのです。なのでポイントを稼ぐという『競争』を経て、優勝という『結果』を勝ち取る練習だと思ってください」
「ほら見ろ、結果を残せば手段は何でもも良かったんだ。もっと過激にいっても良かったんじゃないか?」
「静かに聞けって」
ルクスがふふんと鼻を鳴らし、ぼそぼそと呟くのが聞こえてくる。確かに『結果』を出すだけならそれもいいと思う。けど、そんなに浅いものであるはずがないのだ。次の瞬間、学院長は笑っていた顔を真顔にし、口を開く。
「……ただし、悪いことをして結果を残すのは感心しない。他クラスに共闘を持ち掛けるのはまだ構わないけど、直接的な妨害、明らかな怪しい薬で失格を狙う、ひとつのクラスの足を引っ張るといった行為は褒められない。確かにルール上禁じてはいないが、もちろんわざとだからね? 堂々とそういう行為をすると、他の人間に疎まれたり信用されなくなってしまうことがあるのだ。だから私はこれを公言しないんだよ。上級生はそれを知りつつ、ギリギリのラインを攻めるのが上手くなったから褒めるべきか悩むけどね。だけど隠せばいいというものでもない。『そうしなければならない』という場面なら一つの手だと私は思うけどね」
そう、兄さんが先に学院に入っているから知っているこれが、Aクラスの妨害をしない理由だ。もちろん学院長の言うことも一長一短。悪に悪のやり方で対抗する、ということも必要だと俺は思っているしね。
ただ、学院長の意図としては、そういうのも含めたうえで『考えろ』といいたいのだろう。怒られなければ人を殺していいのか? 答えはノーだろう。
少し過激な表現だけど、だいたいこんな感じだと思う。
ブラオが兄さんを殺しかけたことや、俺が……レッツェルを殺してしまったこと、もしかしたら別の方法もあったかもしれないと。
「――今後の成長に期待しています! では、結果に移りましょう」
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