第百四十二話 リューゼとナル
「魔法剣みたいだなそれ! はあああ!」
リューゼはファイアソードに変えた大剣を振るいナルへと斬りかかる。木でできているとはいえ、大ぶりな大剣を軽やかに動かしナルへと迫っていく。ナルはバックステップで逃げ続けている。
[先行はリューゼ君! 女の子相手にも容赦なし! それはさておき魔法剣のスキルはカッコいいですねえ!]
[最初は魔法があまり使えなかったんですけど、使いたい一心であれだけのことができるようになりましたね。まだまだあれくらいですけど、一年経たずに形にしたのは頑張ったと思いますよ!]
[うんうん、Eクラス! 聞いたかぁ! わたしが居なくなっても努力を怠ったらいけませんよー! おっと、ここでナルちゃんの動きに変化が!]
バスレー先生の言う通り、逃げの一手だったナルが口を開く。
「私は氷しか出せませんけどね。練習して武器に纏わせられるようになったのは最近です……が!!」
場外ギリギリのところでナルがしゃがみ、リューゼの足元を狙ってくる。ちょうど踏み込んできたタイミングだったのでつまずく形になった。
「これで……!」
「うお!? 氷のダガーはフェイクかよ!? 最初からそのつもりだったな!?」
「体格差もありますからね、打ち合いなんてしません」
ナルはリューゼと体を入れ替え後ろから押し出そうと企んでいたようで、気分良く振り回していたリューゼはまんまと罠に……かかりはしなかった。
「――なんてな、俺がそんな手に引っ掛かるとでも思ってんのか!」
「……!? くっ!」
[おお! 器用なことを!]
[ナルちゃんは驚いていますねぇ。良い手だと思いましたけど!]
つんのめったと思われていたリューゼは場外に大剣を突き立て、それを軸に回転しナルへ蹴りを繰り出しながらフィールドへ戻る。ナルはダガーでガードしながらフィールドの中央へと戻っていく。
ちなみにリューゼは足が場外に出ていないので負けにはならない。
「もうそんなところか、素早ぇな! だけど、素早さならラースの方が上だ、そのくらいなら追いかけられるぜ! そろそろ体もあったまってきたし、行くぜ?」
ティグレ先生みたいなことを言いながら肩を回し、先ほどよりも速度を上げて魔法剣を振るう。炎が舞い、回避しているもののナルは熱さで顔を歪め、服が焦げる匂いがする。
[回復魔法の準備が必要そうですね、それにしてもリューゼ君、大剣を自由自在に振り方でナルちゃんを追い詰めていくぅぅ!]
「この、しつこいですよ……!」
「おっと……!」
そして交錯する剣とダガー。直後、ボジュウンという爆発音がして、二人ともの弾けたように吹き飛び後ろに下がる。
「ちぃ! なんだ今のは!」
「高温の火と水がぶつかると爆発するんですよ! こうなったら力づくで!」
「へへ、来いよ!」
温度はそれほど高くないのか大爆発とまではいかなかったけど、目の前ならびっくりするだろう。
それとナルのダガー捌きはなかなかのもので、大剣の位置を見て攻撃する進入角度を上手く変えてリューゼを翻弄する。俺のドラゴンファングとは違い、本当に両脇から攻撃が飛んでくるし、突きをギリギリで回避しても、もう一度踏み込んでもう一方のダガーがある。
「っ!」
「いけます……!」
リューゼの頬をダガーがかすり、ナルが歓喜の声を上げる。しかし、リューゼはにやりと笑い、かすったダガーを引き戻す前にナルのおでこに頭突きを決めた!
「いったぁぁぁい!?」
「おお、頭がかてぇえなお前……! おっと……」
「んん!?」
頭突きを受け、慌てて顔を上げたナルと、バランスを崩したリューゼの顔がくっついた。それはすなわち――
「きゃー! リューゼ君、キキキキ、キスしちゃった!?」
クーデリカが口に手を当てて叫ぶと、ナルが顔を赤くしてずるりとへたり込む。そこへリューゼが困惑して声をかける。
「わ、悪ぃ! でも試合中だし、仕方ねぇよな?」
すると、ナルはギギギと首をリューゼに向け、座り込んだままダガーを振りぬいた。
「し、仕方ない……!? た、確かにそうですけど、他にもっと言いようがあるでしょう!? あの時だって!」
「うお、鋭い!? あの時ってなんだよ!?」
「ほら、やっぱり覚えてない! クラスの子とばっかり……! 【氷結】!」
ナルが怒りの突撃を行い、両手のダガーが火、いや氷を吐き出す。なるほど、氷の刃を飛ばすこともできるのか……あれ、使えそうだな。
リューゼはダガーを大剣でいなしつつ、胸当てなどを打ち付ける。だが、ナルは興奮しているせいか怯まず襲ってくる。
[今度はナルちゃんの反撃っ! しかし、私怨がたっぷりこもっている! わくわく!」
[なにがあったんでしょうかねぇ。わくわく]
「くそ、わけわかんねぇ……俺がなにかしたってんなら謝るけど、今は試合中だ! 悪ぃが後で聞いてやる! 【魔法剣:ウインド】!」
「え!?」
リューゼの大剣から火が消え、直後にシュルシュルと音を立てた緑色の風をまとっていた。リューゼは大剣を大きく振りかぶって一気に振り下ろす。
「くっ!?」
「いけぇぇ!」
風は突風に変わり、ナルへ直撃する。あれは殺傷能力のないウインドなので、リューゼの狙いは――
「きゃああああ!?」
「場外! リューゼの勝ちだ!」
「あ……」
尻もちをつき、呆然とした表情でティグレ先生とフィールドの白線を見比べた後、がっくりを項垂れた。そこへ大剣を担いだリューゼが近づき、手を差し出す。
「へへ、俺の勝ちだぜ!」
「……ふんです……」
ナルはそっぽを向きながら手を取り立ち上がる。完全に立ち上がったの見届けた後、口を開く。もちろん、ナルがリューゼに怒っていた件についてを。
「で、何でお前は俺に怒ってるんだよ?」
「……って言ったのに」
「あん?」
「一緒に遊んだり、学院に行くって言ったのに、あなた全然誘って来ないじゃないですか!」
「え、ええ? 俺、そんなこと言ったっけ……」
ナルが怒気を込めてリューゼに言うと、リューゼは真面目に分からないといった顔で後ずさる。そしてさらにナルは続ける。
「隣に引っ越してきた時にお母さんと挨拶に来たでしょう! あの時、よろしくねって話をしたじゃないですか! 私は『ちょっとカッコいい子が来たなあ』って嬉しかったのに、あれから一回も来ないし! 様子を見たらクラスの子と毎日楽しそうにして――ハッ!?」
「お、おう……そういや母ちゃんとそんな話したような……」
ナルは自分がとんでもないことを口走ったことに気づき手を口に当てて押し黙り、リューゼは顔を赤くして頭を掻く。
[可愛いですねえ]
[可愛いですねぇ♪]
「いやああああああ!」
「おふっ!? あ、おい待てよ!?」
ナルはリューゼの制止を振り切り、猛ダッシュでテントに戻っていった。観客席を含め生暖かい視線にさらされたリューゼも慌てて俺達のところへ戻ってくる。
「うーん、いいなあ、リューゼ君」
「うるせえよウルカ!?」
そう叫ぶリューゼの顔は真っ赤だった。
「ちゃんと迎えに行ってあげなよ? ……リューゼの顔……真っ赤……」
「くそ、覚えてろよラース……!」
「ごめんごめん。言い忘れてたけど、いい戦いだったよ」
「……ふん!」
「まあ、ちゃんと話はしておいた方がいいわよ?」
「うんうん! リューゼ君を好きみたいだし?」
と、からかうのはほどほどにして、俺達はリューゼを労った。まずは一勝。次は誰が出てくるかな?
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