第百四十話 敵に塩?


 [ここはEクラス、巻き返しましたね]

 [ははは、はい! そうですね! 僕のクラスは、Aクラスとの戦いで少々疲弊していたようです。休憩が欲しかったところです]


 マキナを介抱していると、どうやら向こうの試合も終わったようだ。EクラスがCを破ったという実況が聞こえ、担任のサムウェル先生が残念そうに声を漏らす。

 

 俺達は残り二試合。Bクラスの動向にもよるけど、あと一回勝てば勝ちが確定するので、一度休んでおきたいな。


 「なんせ、二人がこれだからなあ……」

 「あはは、困ったね……」

 「ご、ごめんなさい……」

 「ぐおー」

 「まあ、三人いるし僕達で勝っていけばいいよ。ただ、油断はできないけどね」


 ウルカがリューゼをつつきながら言う。俺もそのつもりだと頷いていると、ふらふらとクラスの子に支えられながらリースがやってきた。


 「やあ、調子はどうかな? いてて、いい拳だったよマキナ君」

 「……結構頑丈じゃない」

 「ま、ボクだってアホじゃない。ちゃんと鎧を着こんで、自分から後ろに飛んで衝撃を逃がしたからこうやって立てる訳だ」


 こいつはルクスと違って本当に油断できない、と俺は感じた。鍛えれば戦闘能力が結構高いんじゃないかと思う。それはともかく、俺はリースに尋ねる。


 「何しに来たんだい? すぐ試合が始まるかもしれないよ?」

 「なあに、マキナ君が勝ったら薬をやると約束しただろう? それを果たしに来たってわけだ」


 リースは小瓶を取り出し俺に差し出してくる。するとクーデリカが口を尖らせてから言う。


 「そんな怪しい薬、受け取りません!」

 「ふふん、いいのかい? 彼らがそうなっているのはまずいんじゃないかい?」

 「でも……!」


 今にも噛みつこうとしているクーデリカの肩に手を置いて俺は小瓶を受け取った。


 「大丈夫だよクーデリカ、ありがたく貰うよ」

 「いいの?」


 ウルカが首を傾げるが俺は微笑みながら、小瓶の内一本をマキナを起こして飲ませる。すると、マキナは目をぱちくりさせた後スッと立ち上がる。


 「……甘くて美味しかった……」

 「良かったねマキナ」

 「……ほう」


 短く呟くリースをよそに、俺はリューゼの鼻をつまんでもう一つの小瓶を口に含ませる。もにゅもにゅと口を動かした後、ごくりと飲み込んだのを見て俺は呟く。

 

 「……すまん、リューゼ……」

 

 その場にいる、リース以外の人間がきょとんとした顔で俺の言葉に対し不思議そうな顔をする。するとリューゼの目がカッと見開いた。


 「あ、良かったリューゼ!」


 ウルカが片膝をついて顔を輝かせると、そのリューゼは顔を真っ赤にして転がりまわる。


 「うおおおお辛ぇぇぇぇ! 痛ぇ! 辛い! 痛い! 辛い! 痛い!」

 「リュ、リューゼ!?」


 ……リューゼが転げまわるのも無理はない。わざわざリースに言う必要はないけど、俺は簡易だが鑑定ができる。下剤でも仕込んでいたらリースに飲ませるつもりだったけど、鑑定結果は白。


 効果はそれぞれマキナ用とリューゼ用で、マキナのやつはハチミツとホワイトオオハラマッシュルームというキノコから抽出したエキス、それとハーブを混ぜた液体で、リューゼのやつはハジケ草という草、唐辛子、それとミントを混ぜたとても喉に悪そうな液体だった。だが、効果はきちんと目覚め効果があったので飲ませたのだ。


 「ひー……いてぇ……ってあれ? ここは……俺、ルクスと戦ってたんじゃなかったっけ?」

 「うん、とっくにCクラスとの戦いは終わったよ。ずっと眠っていたんだ」


 グリーンマッシュルームの威力は凄い。これ、女の子に使われたらいたずらし放題なんじゃなかろうか……?


 「グリーンマッシュルームは高いから簡単には手が出ないよ。ルクスだから用意できた代物だから安心するといい」

 「……そうかい?」


 俺の心中を察したというような感じでリースが言う。ドキッとしながらも平静を装い返事をする。折角ここに居るのだ、少し話でも聞いてみようかと思い口を開こうとするが――


 「次の試合はBとC、それとDとEクラスだ!」

 「……ふむ、連戦か。今度は他のふたりから出てもらおうかな」

 「そうね、なんだったら私から行くよ?」

 「ソニアに任せるか。それではAクラスの諸君、楽しかったよ。マキナ君と、クーデリカ君……ボクは諦めていないからね? くっくっく……」


 ティグレ先生が抽選を決め、リース達は自分たちのクラスメイトの下へ帰っていった。まあ、話す機会はまだあるし、今度聞いてみよう。……みんなと一緒に。変な薬を盛られたらたまらないからね……


 「んんー、なんかすげぇいい気分だ! 寝ててすまねぇ、次は俺から行かせてもらうぜ」

 「はは、ぐっすりだったからね。じゃあ頼もうかな?」

 「おう! って、俺達は休憩か……」

 「マキナも回復したばかりだし、ちょうどいいよ。他のクラスの試合を見よう?」


 俺はそう言ってフィールドの近くへと行く。俺達の目の前にはBクラスとCクラスの戦いが繰り広げられていた。


 [ミリィちゃんの水魔法がホープ君を襲う! ここはダメージを受けたくないホープ君。だが、構わずアクアバレットの中へと盾を構えて飛びこんだぁ!]

 [CクラスはAとEクラスに負けていますからねぇ。ここで勝っておかないとBクラスにも届きませんし]

 [なるほど、Eクラスはいい仕事したのですね! よくやったぞ子供たちぃ! わたしの送別会は豪勢に行こう……!]


 涙が出そうな結果が出ているバスレー先生が叫んだその後すぐ、ホープはミリィの首根っこを掴んで無理やり場外へと持っていく。

 続く、気絶していたディースがイーファという小剣を使う子を魔法で倒し、復活したルクスがリューゼの隣に住むナルを倒し決着となる。


 「よし。このまま残りのDクラスも倒して同率二位を狙おうじゃないか」

 「……そうだな。Aクラスが一位はもはや不動だし、二位狙いで行くしかないか」


 そしてDとEクラスは、接戦だったようで、先ほど宣言していた通りDはソニアという子が【大地マスター】というスキルで、穴を掘ったり、揺らしたり、アースブレイドのような棘を出したりと大活躍して先方を取り勝利をおさめたものの、疲弊したリースが負けるとなし崩しに最終戦までもつれこんだ。オネットというお嬢様が相手だったけど、薬品で服を溶かされるなど、半分くらい引き分けのようだったけどね。

 最後はジャンというここまで戦っていなかった男の子が元気だったため、楽にガースを倒して勝ちを得ていた。


 「……これでAクラス以外は勝ち星が1ずつってところか。Dは最初に試合が無かったから運が悪かったね」

 「そうね……残った二試合は連戦だし、相当きついんじゃないかしら? とりあえずリースがくれた薬、何が入っていたのか分からないけど物凄く体が軽いわ。二番手は私が行っていい?」


 マキナが腰に手を当てて笑うので、俺は苦笑して頷く。クーデリカがまだ回復しきれていないから、三番目に俺、ウルカ、クーデリカの順でいいかな? 残り二試合も頑張っていこう。

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