第百三十四話 最終決戦の前に


 <Cクラス陣営>


 「次で一位を取れば何とかAクラスを越えるか?」

 「いやいや、次でAが最下位でも無理だって」


 一万ベリルネミーゴがテントへ戻り、ホープへ勝てるのか聞いていると、ディースが淡々と口を開く。


 「……現在Aが61ポイントで、私達は56ポイント。もしAクラスが最下位で、私達が一位でも62対61。微妙に足りない」

 「かぁー! いいところいっていたと思ったけど無理かぁ……」

 「健闘したと思うけどね。あいつらどんな練習をしてきたんだか。ヘレナにいたっては羨ましいくらいよ……」

 「……ぶつぶつ……Aに順番よっては……」


 ベルクライスが頭を抱えて座り込むと、ダンスに出ていたアンシアが隣に座る。そこでCクラスの頭脳であるルクスがぶつぶつと何かを呟いていることにホープが気づき声をかけた。


 「ルクス、もう後は二位を狙いに行くだけだ。Aクラスに固執する必要もないだろう?」

 「……まだだ……Aが0ポイントなら望みはある……だけどこの眠り粉をどうやって吸わせるか……」


 すると女生徒のナンシーが肩を竦めてため息を吐いた。


 「もういいでしょうルクス? あんた……ラース君が羨ましいんでしょ? コーリア領の次男だし。同じ次男であそこまで注目されたり強かったりする。だから出し抜きたい……違う?」

 「……」


 ルクスはナンシーに目線を移し口元を吊り上げる。


 「まあね。嫉妬ではないけど、僕と同じ境遇なら上に行きたいと思うのは当然のことだろう?」

 「それに付き合わされる身にもなれってことだ。どっちにせよ今年は負けを認めるべきだと思うぞ?」

 「……そうだね」


 ルクスは俯きながら陰のある笑みを浮かべてホープの声に答えた。



 ◆ ◇ ◆


 <Dクラス陣営>


 「いやあダメだったな! はっはっは!」

 「『はっはっは』……じゃねぇよリース! 最下位じゃねぇか俺達!」


 ガイラがリースの肩をガクガクさせながら激昂していた。それにレオースがのんびりとした口調で言う。

 

 「まあまあ、こういうこともあるよ。それよりお腹空いたんだけどなにか持ってない?」

 「無いよ! ……ったく。というかCクラスの共闘が全然意味なかったな」

 「ま、そうだね。Bクラスの見切りで崩れたから仕方ない。ボク達は戦闘競技が苦手だから、通常の競技でポイントを取らないといけなかったんだけど、それもダメだったしね!」


 Dクラスは先にあった戦闘競技は両方とも最下位という状態だったため何とか他の競技を取りたかったため、ポイントの均整化を狙ったCクラスと手を組んだ。しかし、Bクラスが詰め放題でバランスを崩してしまったためどうしようも無くなってしまった。

 

 「……来年は勝ちたいね」

 「うむ。そのためにはラース君と友達になっておくことをおススメする。ボクはもう友達になってきたぞ」

 「お前、意味深な挑発しただけだろう……?」

 「ははは、そんなことはない。名前も似ているし好感度は高いはず。それより、Aクラスの強さはラース君を中心にしていると見ている。だから、一緒に遊ぶだけでも秘密がわかると思うのさ」

 「はあ……【実験】スキルの悪いところだな……すぐ試したがる……あと好感度は多分マイナスだ」

 「ねえ、何か食べ物……」

 「まあ、いいか。負けでも、最後くらいは派手に散りましょうよ!」


 チルアがうんうんと頷き、Dクラスはリースとレオース以外、ため息を吐くのだった。


 ◆ ◇ ◆


 <Bクラス陣営>


 「メンバーはナル、イーファ、カール、ミリィ、アミだったな。頼むぜ」

 「っつっても一位を取ったところでAクラスが二位なら総合で二位。難しいなあ」


 イワノフが出場者の確認をしていると、キンドルが頭の後ろに手を組んでぼやく。出し抜いて二位につけたものの、それでもAクラスに届いていないことに対するぼやきである。

 

 「ラース君は相手にしない方がいいわね。あたったら放棄、それでもいい?」


 目立たなかったアミという子がラース相手は無理だと手を上げる。するとBクラスの全員が頷き、ゴウが口を開く。


 「女の子は止めた方がいいよな。俺は……ちょっと戦いたいけど」

 「や、やめたほうがいいと思うよ……?」


 ミリィがそう言うと、カール、イーファの二人が目を逸らす。


 「……俺は戦うつもりだ」

 「お、カール奇遇だな。そうだよな、男なら逃げないで戦うべきだよな! それにしても無口なお前がんなこと言うなんて珍しいな?」

 「……あいつは凄い。今までどれだけ努力してきたのか、見ていればわかる。魔法にばかり目がいきがちだけど、体術も凄い。ホープと戦っていた時、の体重移動、筋肉の使い方。特に筋肉が……くっくっく……」


 いつもは無口なカールがぺらぺらと喋りだし、イワノフが慌てて止める。


 「あー! もういいもういい! たまに饒舌だと思えば筋肉か! とりあえず……ケガしないように一位を取るぞ!」

 「おおー!」


 ◆ ◇ ◆


 「……」

 「……」

 「……」

 「なんでこんなことに……」


 暫定四位。それがEクラスの状況だ。

 鑑定、ロープ引き、ダンスは最下位。そして他の競技も全部中途半端のポイントばかりでうだつが上がらなかったことを嘆き、テントの中はお通夜のようになっていた。


 「Dクラスに一ポイント勝っているじゃないか……」

 「それがなんだというんですの!?」


 オネットが悲鳴に近い声を上げ、カナールのつぶやきを遮った。この空気を打破しようと、ガースが立ち上がり喋りだす。


 「とりあえずやるだけはやろう。今年は完敗だ。できればCクラスをボコボコにしてやろう!」

 「いしし、逆恨みじゃんね」


 チェロがガースに言うと、男子生徒のザッツが返す。


 「のせられて交渉成立させたのは俺達だからそこは恨まないさ。だけど、他に手を打っていなかったのはまずかったな」

 「まあ上級生を見ていると、対抗戦は失格になる要素が低いし、来年は色々やろうよ」

 「そうねえ……多分Aと敵対するんじゃなくて、味方にした方が良かったのよ多分」

 「だな。二位狙いも悪くなかったはず……一位を追い落とそうと躍起になったツケだな。ま、最後くらい全力でやりあおうか」


 次の競技に出場するコンバーが明るい声で自身を鼓舞すると、他のクラスメイトも口の端を上げて口を開く。


 「だな!」

 「そうですわね。腐っていても仕方ありませんもの」

 「今年は今年、来年は来年!」

 「これが実戦ならアウトだけど、授業料ってことで……」


 先ほどまでのムードが一転して明るくなり、クラスの意識が一体となる。しかしその時――


 「……ふう、何とかここまで辿り着きましたよ……! おや、ここはEクラスのテントでしたか! これは好都合、しばらく匿ってもらいますよ」

 「バ、バスレー先生!? この学校で一番年季の入った木に吊るされていたはずじゃ!」

 「甘いですね。わたしがいつまでも大人しくしていると思ったら大間違いです」

 「いや、大人しくしていた方がいいんじゃ……」


 女生徒、シルビアが困惑気味に笑うが、バスレーは聞いても居ないのに勝手に話を続ける。


 「魔物の名前を間違えて言っただけで減給……さらに吊るされるとは横暴な学院長ですよ。わたしが学院長に復讐をするため脱出を図ったんです」

 「小さいなあ……」

 「なんとでもいいなさい。実況の座も奪われ、今のわたしは怖いものなし! あとは機会を伺うだけ!」


 テントから見える学院長をロックオンしてほくそ笑むバスレー。だが、その笑いはすぐに凍り付くことになった。


 「ティグレせんせー! バスレー先生がここにいます!」

 「あ!? 馬鹿な、副担任を売るんですか!?」

 「そりゃそうだろ! 補助魔法とか使ったりしないよう先生がテントに入るのはダメだったじゃないか! しかも副担任とか失格にされちゃうよ!」

 「そ、それは――」


 バスレーが焦っていると、テントの入り口に影が差す。


 「おう、なにやってんだてめぇ」

 「ひぃ!? 怖い顔!?」

 「うるせえな、んなことは本人が一番わかってんだよ! こっち来いやあ!」

 「あ、あ、いやあ!? 助けてベルナ先生ぇぇ! 旦那さんが乱暴を――」

 「うふふ」

 「いたぁ!? あ、ちょ、マジでそれは……あ、あ、あああああああ!?」


 ティグレとベルナに連行されバスレーは消えた。


 「うあ、ダークカメムシの体液……」

 「しばらく近づけねぇな……」

 「あはは、バスレー先生らしいなあ」


 ガースとコンバーのふたりが呟いた時、実況席から集合の合図がかかる。


 [次は最終競技、無差別戦闘競技になりますよぅ。悔いの無いよう、全力で戦ってくださいねぇ♪]


 「……来たか、それじゃ派手に暴れてくるか!」

 「スキルは見せなかったから、かく乱してやるわ」

 「わたくしについてらっしゃい!」


 なんだかんだとバスレーにリラックスさせてもらい、Eクラスのメンバーもフィールドへ向かった。

 

 対抗戦最後の戦いが始まる――

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