第百二十五話 Cクラス


 [ノーラちゃんのフレイムがワッペンを直撃! Aクラス、Dクラスとの戦いを決めました! 強い!]


 一回戦が終わり、俺達は十分休憩の後にDクラスと激突。

 一人目ヘレナ、二人目は俺、三人目のノーラで勝ちを進めることができた。

 ヨグスは魔力切れが顕著で、リューゼは戦力として微妙ということになり後へ回ってもらった。そして次は……Eクラスとの戦いに勝ったCクラスが相手だ。


 「……なーんか嫌な感じねぇ。全然疲れて無くない?」

 「うーん、見てなかったけどCクラスが強いんじゃないかな?」


 ヘレナが訝しんでいるけど、俺達だってそこまで疲れているわけじゃないから気のせいだとは思う。ノーラは元気いっぱいだし、俺も古代魔法を一回使ってもお釣りがくるくらいの魔力は残しているしね。


 「それじゃ、悪いんだけど今回は三番目に回るわねえ♪」

 「ヘレナは三番目がちょうどいいかもね?」


 先にオーダーをティグレ先生に言わないといけないのでサクッと決めた。マキナがフォローしてくれたけど、ヘレナも魔力を少しでも回復するため三番手にヘレナが入り、一番は俺、二番にノーラ。そしてヨグス、リューゼの順に決まった。


 「さて、それじゃサクッと終わらせてくるよ」

 「ラースくんなら余裕だよね!」

 「がんばってー!」

 「まあ、ラースに勝てるやつが同学年どころか上級生でも怪しいからな……」

 「あはは、強すぎだよね」


 クーデリカとルシエールの声援と、ジャックとウルカの呆れた笑いを受けながら俺はフィールドへと出ていく。まだCクラスは何か話し合っているようだ。


 ◆ ◇ ◆


 <Cクラス陣営>


 「お、ラース君が一番手みたいだぞ」


 ラースと戦ったホープがフィールドを見て声を上げる。オーダーは事前にティグレへ伝えているので変更はできない。予測はできていたと、戦闘競技で棄権を促した黒縁眼鏡の子が口を開く。


 「まあ、そうだろうね。あの褐色の子の魔力を回復させるだろうと思っていたから、僕が最初で大当たりってわけだ」

 「勝算は……無いわよね、さすがにルクスでもアレ相手は無理よね」

 「まあね。だから途中の競技は取っていきたい。ディース、今のクラスポイントは?」


 黒縁眼鏡のルクスと呼ばれた子が、ディースという女の子に尋ねると、静かに頷き答えた。


 「……Aが33でBが20。ウチとDがタイの22で、Eが21」


 淡々と呟くように言うディース。すると、ネミーゴが肩を竦めて口を尖らせた。


 「微妙なラインだなあ。Eクラスには交渉して勝ちを譲ってもらったのに、ほぼ同列とは」

 「平均値にするならできればBと当たりたかったけど、こればかりは仕方がない。それじゃそろそろ行かないと怒られそうだし出てくるよ。後は任せたからね?」

  

 ルクスはにやりと笑い、他のクラスメイトも笑いながら頷いた。


 ◆ ◇ ◆



 「やあ、申し訳ないね。僕はルクス、よろしく頼むよ」

 「ラースだ。こちらこそ」


 さわやかに笑いかけて握手をしてくるルクス。さて、眼鏡をかけているけど魔法が得意なのかな? どれほどの腕前か見せてもらおう。


 「始め!」


 ティグレ先生の合図と同時に俺は間合いを詰める。ルクスは逆に距離を取るため後ろへ下がり、先制を仕掛けてきた。


 「<ファイアーボール>!」

 「おっと! <アクアバレット>」

 「フフ……」


 [魔法競技もこれが最後の試合になります! 先制したのはルクス君。しかしラース君、読んでいたのかあっさりとこれを回避!]

 [だけどラース君のアクアバレットも避けられてしまいましたねぇ]

 [しかし風魔法で一気に吹き飛ばさなかったのはどうしてでしょうか?]

 [恐らく魔力の温存でしょうねぇ。他にも理由はあると思いますが、それはお答えできません♪]

 [ちくしょうベルナ先生可愛い! あたしより年上なくせにぎゃぁぁぁぁぁ!?]

 [うふふ」


 ベルナ先生の言う通り俺の魔力温存もあるけど、ヘレナとヨグスの回復という意味合いもある。ここで俺とノーラ、ヘレナが勝てば問題ないけど、競技はまだ続くのだ。体力回復も考えないといけない。


 しかし――


 「<ファイア>!」

 「それくらいなら<ウインド>で! ……え!?」

 「うわあああ」

 「場外! ラースの勝ちだ」

 「いやあ、凄い魔法だったね! 僕じゃ歯が立たないよ。それじゃ、また戦おう!」

 

 そう言ってルクスはフィールドから立ち去り、俺は呆然と立ち尽くす。全然大した攻撃をしたつもりはなかったからだ。


 [ラース君、流石の勝利と言ったところでしょうか! ルクス君、あっさりと負けを認めましたー!]

 [……さあ、それはどうでしょうねぇ?]

 

 「よう、ラッキーだったな! 体が小さいし、お前も手加減しにくかったろ?」

 「え、あ、うん。何だろう、嫌な予感がする……」

 「そう? それじゃノーラ、お願いね!」

 「うんー!」


 ノーラを見送り、二回戦。そこで俺の嫌な予感が現実となる。


 「わあああ」

 「え? え? オラ<ファイア>を撃っただけだよー……?」

 「いや、負けは負けだ」


 [おっと、ベルクライス君、ノーラちゃんのファイアにタジタジか!?]

 [なるほどぉ、考えたわねぇ!]

 [え? 何です? あたしにも教えてくださいよ!]

 [うふふ♪]


 「んー、勝ったけど面白くないかもー」

 

 ノーラはぶすっとしてそう言うが、俺はあいつらの狙いが分かり、顔を顰める。


 「やられた……多分、Cクラスはこれを狙っていたんだ」

 「どういうことぉ?」

 「あ!?」


 ヘレナが首を傾げるとヨグスがハッとして声を上げる。どうやらヨグスは気づいたようだ。


 「多分、ヘレナの相手は強力な魔法使いのはずだ。いや、それどころかここから先、Cクラスは全員きちんとした魔法を使えるんじゃないかと思う」

 「ということは……!?」


 ルシエールが目を見開き、俺とヨグスが頷く。


 「最初の二人の目的はさっさと負けること。そして、ヘレナとヨグスの魔力が少ないうちに叩くつもりだろう。そうしたらリューゼしか残らないから、そこは勝てると踏んだんだ、きっと」

 「な、なるほど……だからあっさり……」


 マキナが呻くように言うと、ヘレナがマキナの肩に手を置いてウインクする。


 「だぁいじょうぶよぅ♪ このヘレナちゃんに任せておきなさい!」

 「いや、ここは負けた方がいいかもしれない。下手に魔力を消費して他の競技に影響が出るのは厳しいと思うよ」

 「ぶー! 大丈夫だって!」


 ヘレナはぷりぷりしながらフィールドへ向かう。相手は物静かそうな女の子だ。


 [ここはCクラス巻き返していきたいところ! ディースちゃんはどう戦うのか!]

 [これは見ものですねぇ]


 ティグレ先生の合図が入りヘレナが横へ回り込みながら魔法を放つ。


 「<ストーンショット>!」

 「……」


 しかしディースという子は視線をヘレナに向けたまま、ツィっと体を動かしそれを避ける。


 「まだまだぁ! <ファイア>!」

 「……」

 「動くんじゃないわよぅ! <アクアバレット>!」

 「……」


 間合いを詰めながら魔法を繰り出すヘレナに、ディースはその場から動かず魔法を避ける。後ろからでも、目があるかのように。


 「あ、当たらない……! ならこれはどう! <アクアランス>」


 ヘレナの使える最高の魔法、アクアランスが先ほどまでとは違う速さでディースへ向かう。これは避けられないだろうと思った瞬間。


 「<マジックウォール>」

 「消した!?」


 アクアランスをあっさり霧散させられ驚くヘレナ。俺は慌てて叫ぶ。


 「そいつ、純粋な魔法使いだ! ヘレナ、場外だ下手に戦わず負けとけ!」

 「う、うん……!」


 流石にこれ以上の消耗は厳しいと俺は負けるよう指示する。しかしその瞬間、ディースが行動を開始した。


 「<アースブレイド>」

 「きゃあ!?」


 場外から出ようとしたヘレナの前に土がせり上がり妨害した。ヘレナは冷や汗をかきながら別の場所へ出ようとしたが、


 「<ウォータジェイル>」

 「ああ……!」

 「ヘレナちゃん!」

 

 ウォータジェイルで足を引っ張られて中央へ引き戻されてしまう。徹底してここで消耗させるつもりか!


 [あーっとどうしたことだ! ヘレナちゃんが負けようとしているところを妨害しているのかー!?]

 [魔力を使わせて、さらに体力を削るつもりでしょうねぇ。戦いはここで終わらないことをよく分かっている戦法ですよぅ]

 

 「あうう……」

 「ヘレナちゃん! 何とかならないのラース君ー!」

 「……」


 俺は考える。

 恐らく反撃しても意味が無いだろう。となれば逃げるしかないけど……あ、いや、待てまだ手はある!


 「ヘレナ! ワッペンで『叩け』!」

 「……ワ、ッペンで……? あ……!」


 気づいてくれたか! 全部言うと相手に悟られるから断片的にしか言えなかったけど、どうだ……?

 そこでヘレナは立ち上がり、ディースへ駆け出していく。


 「<ウォータ>!」

 「……無駄よ」


 威力が低い水の生活魔法であるウォータを水鉄砲の要領で飛ばすヘレナ。それを上半身のみで回避するのを見届けるとヘレナはさらに加速した。


 「……! <ファイ――>」

 「それ!」

 

 ヘレナはディースのファイアを直前で前転し、パンチをディースの肩へとぶつけた。


 「直接攻撃は禁止だ。ディースの勝ちだ」

 「……」

 「はあ……はあ……お、終わった……」


 [作戦を見破ったAクラスは自ら負けに向かいましたぁぁぁ!]

 [恐らく正解でしょうねぇ。この後も大変かもですけどぉ]


 「回復だヘレナ」

 「あ、ありがとぉ……」

 

 擦り傷などはともかく、体力は回復しないからなあヒーリングは……


 「これは無理をしない方が良さそうだね」

 「俺もさっさと負けてくらぁ」


 ヨグスとリューゼは相手の意図が分かっているのですぐに負け試合になり、俺達は二位で終わった。

 結果はC、A、B、E、D。

 戦闘競技でもあったけど、三位決定戦は再トーナメントで、Dクラスがまたシード権を得ていたのだけど最下位だった。

 ともあれ、それでも二位だったし、まだポイントはあるから無理しないで行きたいところだ。

 

 次は妨害徒競走、ウルカとジャックの出番だ!

  



 

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